とてもとても僕は幸せな気分だった。
きっとそれは君は知らないだろう。

もう僕は今日以降、誰に何を強制されようが後宮には絶対に行かない。もう4人も子どもがいるんだ。期待はずれの魔力しか持たないといわれているが、それでも僕の兄弟たちよりは魔力は高い。僕がこれ以上子どもを作ろうとしなければ、王子の中のいずれかが王位を継ぐことになるだろう。

僕はウィルに最初に抱かれて、抱くのも抱かれるのも最後にしたかった。ウィルの体温をウィルの吐息を忘れたくなかった。最後に触れられたのはウィルだって思って生きて生きたいんだ。

あれからウィルには会っていない。会えば未練が沸くからだ。僕はウィルを目の前にして諦めることができるほど強くはない。けれど目の前にいなければ、思い出だけを支えに生きていけると思う。

僕はその日もご機嫌に仕事をしていた。僕が次の国王になるといっても、まだ父王が元気だし当分引退しそうにない。だから仕事の量もさほど多くはない。
まあ、僕はそれほど優秀という訳でもないので、部下たちも無理はさせないようにしてくれているのだと思う。
僕が国王になったら、かなり情けない王様になりそうなんだけど、良いんだろうか。
こんな僕だけど、僕が国王になったら廃止したいことがある。後宮制度の廃止と、魔力重視の王位継承権を見直すことだ。所詮国王が先頭だって、戦争をすることになったら国が最後じゃないんだろうか。だから正直国王に魔力なんて必要なのだろうか。そう昔から疑問に思っていた。僕なんかがそれらを見直すことができるか分からない。

一人じゃきっとできないだろう。仲間を見つけて協力してくれる人たちを探さないと僕では無理だと思う。でも派閥争いとか僕には余計無理なんだと思う。

ウィルが側にいてくれたら……きっと何でも出来ると思う。でもそんなことを考えちゃいけない。

「アーク様……ちょっと宜しいですか?」

「なに?」

側近から声をかけられた。この側近は僕の大学時代の友人でもあり、数少ない僕の身分を知る人間でもある。僕がウィルに片思いをしていることも知っている。

「ウィルに最近会いましたか?」

「ううん……会ってない」

ウィルは僕が何処に住んでいるか正確には知らないし、宰相府はウィルでは出入りできない場所にある。あの朝別れたっきりで、僕から行動しなければウィルからは会う方法はないだろう。

あの朝、僕に会いに来てくれると言っていた。実際に宰相府に何度も会いに来てくれているようだ。でも僕は面会を全部断わっていた。

「ウィルは結婚したい相手がいるそうです。今度こそ、お見合いなんかじゃなくて、好きになった相手とらしいです。真剣に結婚を考えているので、許可が欲しいそうです。許可は出しますか?」

僕が今まで結婚の許可を出さないようにしていた。けれど、もうウィルを束縛しないようにと決めた。だから次にウィルが結婚したいと言い出したらもう邪魔はしないつもりだった。
けれどウィルが今結婚したいと言い出した相手は、ひょっとしたら僕のことじゃないだろうか?

あれから会っていないといっても、少なくても身体を合わせあってまたそれほど日が空いていない。ウィルの性格でもう次の人というのは無理だろう。

ウィルが僕の名前を出してしまったら、ウィルは破滅してしまう。誰にも知られてはいけない。


「ウィル…」

僕はウィルの官舎にそっと入り込んだ。誰にも見られないで話が出来る場所は今はここしか思いつかなかった。

「アーク!……何度も会いに行ったんだぞ?どうして会ってくれなかったんだ?!」

ウィルは僕の姿を見ると怒ったように、それでいて心配していたように僕を抱きしめた。僕はウィルの体温に包まれて、それだけで僕は拒絶の言葉を忘れてしまった。

ここに来たのはウィルともう二度と会わないというためだったのに。

「……ウィル」

「何がいけなかったんだ?……長い間お互い片思いをしていて、やっと気持ちが通じ合ったのに。どうして俺を避けるんだ?」

ウィルのためなんだ。あの夜が間違いだったんだ。
そう言いたいけれど、理由が思い浮かばない。正直に僕が王子なんだって言うべきだろうか。このまま関係が続けば、いずれ破綻する日が近いと。
ウィルはきっと殺されるだろう。
だから、もう会えないんだって。

「……」

でも言えなかった。
僕が自己満足のためだけにウィルに抱かれて、ウィルを危険に曝したんだって軽蔑されたくなかった。

「俺、考えて見ればお前のこと全然知らないって気がついたんだ。宰相府に会いに行く以外、お前の家が何処にあるのかも分からないで、無視されたらもう会えないって。お前の実家も知らないし、結婚の許可をえるために典礼省に行っても、お前の情報名前以外何も書けなかった」

「……ウィル、僕は君と結婚するつもりはないよ」

「あんなに俺を好きだって言っていたのは何だったんだ? あまりに突然すぎるからか? だが、もう知り合って長いし何の問題もないだろう? アークお前が心変わりをした理由を知りたい」

「未来がないからだよ!!!」

そう、本当に僕たちには、ううん、僕には未来がない。好きな人とは結婚できない。
もし結婚できたとしても、何人もいる妻たちのいる後宮にいれるだけになる。
それさえもウィルにはできないし、したくない。
あくまで後宮に入れるのは『妻』だけだ。

「ウィルと結婚なんか出来ない! 僕は家を継がないといけないし、酷いこと言うようだけど……ウィルのような新興貴族では家格が合わなくて、許可なんかしてもらえない」

「……そうか。俺がいきなり結婚なんか言い出したから……お前、考えすぎて俺を遠ざけたんだな」

「……」

「俺が悪かった。急ぎすぎたんだな……だけど、未来がないなんて言うなよ。何か一緒に考えれば方法だってあるさ。お互いの兄弟が結婚したり、俺がもっと出世したり、ずっとお互い以外とは結婚は嫌だって言い張っていれば、独身よりも身分が合わなくたって結婚してくれればいいって考えが親も変わるかもしれないだろ? 何も努力をしないで諦めるのは嫌なんだ、アーク。せっかく両思いになれたんだろう?」

「ウィル、頑張ってった無理なことだってあるんだよ? ウィルは僕なんかよりも、相応しい人が……」

きっといるって言いたかった。ウィルの人生を無駄にさせるって。

「本当にいると思っているのか?」

「……僕はウィルに思ってもらえるような価値のある人間じゃないし……結婚したいほどウィルのことが好きなわけじゃ……」

「お前、泣きながら好きじゃないって言っても説得力はないんだよ」

そうだ、僕は泣いていた。僕は本当に馬鹿だ。演技すらもろくにできない。
ウィルなんてもう好きじゃない。結婚なんかしたくない。一晩の遊びだったんだって言えば良いんだ。そうすべきだったんだ。
でも僕はすぐにばれる嘘しかつけない。

「ほら、俺の目を見ていってみろよ。嫌いだって」

「僕、ウィルのことなんか……」

「泣くのを止めて言えよ」

「ウィルは僕のせいで、父に殺されても良いと思う?」

子どもの配偶者に合わない相手を暗殺することは、良くあるとは言わないが全くないとは言わない。ウィルも警備の仕事をしていてそんな変死体を見つけることもあったはずだ。

「……お前の父親、そんな過激なのかよ…。良いよ、お前のためなら殺されたって構わない。アーク、愛しているから」

「僕も……僕も、愛してる!」

馬鹿な僕。嫌いだって言うために来たんだろう?
愛しているなんて言うためじゃない。

ごめんね、ウィル。ウィルがもし殺されたら僕も死ぬから。ううん、殺される前に僕が死ぬから。

ウィルを諦められない僕を許して。



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