国に三ヶ月以上ぶりに戻ってきて、一番最初にしたことは結婚誓約書にサインをして陛下の許可を得ることだった。
私は家に戻ってからでもと思っていたのだが、ギルフォードが『ご両親に反対されるかもしれないし、未婚のままで妊娠していることが発覚したら、どうなるか分からないから。エミリオの身を守るためにも一番最初にやることは結婚!』と言い張って、両親や部隊に生存報告をするよりも先に陛下の所に、許可を得るために行くことになった。

陛下は私が生きていたからか驚いた顔ををしていたが、何故かなんだか疚しいことがあるような表情をしていたような気がしないでもなかった。
どうしてなのだろうか?あんな挙動不審な陛下を見たことがなかった。
陛下は私や隊長を王族の一員として可愛がってくれていたので、私がこんな変態の外国人と結婚することに動揺していたのかもしれない。
許可がでるか分からなかったが、物凄く簡単に許可が通って帰国後一時間で、変態が私の夫になっていた。

両親も息子の帰還を喜んでくれた。二人も息子がいたのに、長男は出奔し次男は生死不明では生きた心地がしなかっただろう。
しかし戻ってきた次男が余分な人間を二人(一人はお腹の中)も連れていたのでは、喜ぶのも複雑だろう。
そこはすまないと思っている。本来だったら私が妻を娶る予定だったのに、外国人の元王子などの婿などどう接したら良いか分からないだろう。
それでも何故か陛下がギルフォードを大事な婿として扱うように。いくら勘当されたとはいえ、元王子であるのだしという命令があり、遠巻きに両親はギルフォードに接していた。

「エミリオ、寝ていないと駄目だよ!」

長旅と実家での後処理に追われていた私は、相当顔色が悪いようだった。もともとリエラでいた時には悪阻で寝てばかりいたのに、帰ってきてからは動きっぱなしだった。

「しかしやることが山ほどある」

「僕がするから!エミリオはお腹の赤ちゃんのために寝ていて?」

ギルフォードは早くも夫ずらをするが、大使をやっていたしリエラでも領地があり家の経営には慣れているのだろう。私がすべき仕事をてきぱきとやっていた。それらのことは任せることにし、ギルフォードの言うようにしばらく身体を休めることにした。
確かに悪阻で大分痩せてしまったし(監禁されていたせいで鍛えることも出来なかったせいもある)身体を休める必要があるのは否定しない。
しかし寝ようとして気になったことがあった。
部隊にはまだ顔を出していない。陛下には帰国の挨拶をしたが、部隊ではまだ私が死んだことになっているかもしれない。
それにエルウィンやルカ王子の無事な姿を見ないと、安心できない。私が二人を守りきれなかったせいで危険な目に合わせてしまった。
隊長にも申し訳なくて、謝罪をしなければ気が済まない。

そう思い、休むように厳重に言われていたが、職場に行った。行ってしまった。行かなければきっと心が平和だっただろうに……

「なんだこの散らかりようは……」

職場についてみると、なんだか全てが雑然としていた。今の時間は訓練中のはずなのに、誰も訓練をしている様子はない。
クライス副隊長が産休中のせいか、皆さぼっているのか?
ナンバー2が不在で、ナンバー3の私も行方不明でおそらく死亡中扱いをされていたので、まとめる役目がいないのかもしれない。だが隊長は仕事だけは真面目にやっているはずだ。
何か緊急事態が起きたのかもしれない。

そう思い司令部に足を踏み入れた瞬間……

「隊長!ギルフォード王子からの緊急伝令です!エミリオ分隊長が帰国なさったそうです!」

『うむ、そうか……妊娠中らしいので、当分は心配要らないだろう。掃除をしっかりしておけ』

「了解いたしました!お妃会議中に失礼いたしました!」

どうやら魔法で会議中らしい隊長と話しているようだが、お妃会議とは何なのだろうか。
そもそもこいつらは私が生きていたことを知っているようだが、もう報告があったのだろうか。ギルフォードが気を利かせて報告を入れて置いてくれたのかもしれない。

そのまま部下に声をかけようと思い歩いていく内に、足元に何かが引っかかった。何気なく拾い上げると、かなり分厚い冊子がった。


『隊長に頑張ってカッコ良くなってもらってエルウィンとエッチをしてもらうための大作戦』

何だこれは……

………
……


「ふ、はははは……」

「え?ぶ、分隊長!ど、どうしてこちらに!?」

「悪阻で臥せっているはずでは?」

「顔色が悪いですよ!休んでください……」

「休む前に………何故私が『ギルフォード王子へのご褒美』となっているのか誰か教えてくれ」

私が台本を手に持って、そう部下たちに微笑み返すと、部下一同は黙り込んだ。

「そ、その……」

「隊長が!」

「隊長がどうした!」

「隊長が、エミリオ分隊長のことを気に食わないと言い出して!」

何故だ?私は親族の一員として、また部下としてこれまで隊長のために働いてきたと言うのに。
気に障るようなことをした覚えはない。

「エルウィンが、分隊長のことをカッコいいと言ったり、どうせ旦那様にするんだったら分隊長が良かったとか、今一番の憧れの人とか散々分隊長のことを褒めたので、隊長はそのうちエルウィンは分隊長と浮気するかもしれないとか、分隊長はいい気になっているとか、妄想に駆られて……」

「分かった……もう、皆まで言うな……涙が出そうだ」

私がエルウィンやルカのためにと、ギルフォードに抱かれ、媚薬を使われ、パイパンにされ、妊娠までさせられたのは、皆隊長のひがみのせいなのか?
この台本によればギルフォードは悪役で、エルウィンにかっこよく思われ、Hできるまでのストーリーを作り上げている。それで私は隊長の嫉妬の犠牲になり、ギルフォードの献上されたという訳か。


そもそも、私はリエラにいる間、頭が少し混乱していただろう。当たりまえだ。監禁されて陵辱していれば、何時もよりも思考がおろそかになるのは仕方がない。

だからいくつも矛盾があったのを、私は気がつかなかった。そもそもギルフォードが私をリエラに浚って、リエラで結婚生活をするつもりなら、私の国や両親の許可など必要ないのだ。
浚ったまま閉じ込めてしまえば、話は終わる。無理に結婚という形式にこだわる必要もない。だがギルフォードは私の許可のある結婚に非常に拘っていた。
そもそもリエラだったら、ギルフォードの意思だけで結婚は可能ではなかったのだろうか。あそこは一夫多妻制だし、国王の許可は父親なので取ろうと思えば取れただろう。

従って私の許可を必要とし、なおかつ私の国で結婚にこだわった訳は、このアホらしい台本は無関係ではないのだろう。

隊長は、何故又従兄弟である私を生け贄になどと、恨みたい思いで一杯だったが、私を生け贄にする際に、リエラに嫁には出せないとでも条件を付けたのだろう。
兄が家出をし行方不明の今、私まで他国に行ってしまっては、跡継ぎがいなくなってしまう。そのためにおそらく、私との結婚をさせる代わりに、ギルフォードに婿に入ることが条件とでも言ったのだろう。ギルフォードが昔から、私に家に入るから結婚してくれといっていたので何の問題もなかったはずだ。


騙されていた……アホだ。私もアホだが、ギルフォードも隊長ももっとアホだ。

どこの誰が、国を巻き込んでHするためだけにこんなアホらしい作戦を作り上げるというのだ!
今までのことは全て演技でできていたなどとどうやって想像できる?
だって王太子と王子がHするためだけに、城を爆破したり、部下を犠牲にしたりなど、考えられるわけがないだろう!!!!!

今まで私はずっとエルウィンを哀れみの目で見てきた。
親族であるだけ私は隊長のことを良く知っていた。風呂で見たからその一物も……エルウィンを愛した後の狂乱ぶりも。

だから、あんなに絶倫で変態でパイパン好きでヘタレな夫を持ったエルウィンに、ありがとうという元婚約者の視点からのお礼と、変態夫を持った哀れみの視線で接してきた。

だが、私はどうなのだろう。

ギルフォードは隊長と同じく変態でパイパン好きで、絶倫で性器もでかくて、目的のためなら手段も選ばないアホで駄目すぎる王子だ。そんな隊長に負けず劣らない駄目人間を自ら夫にしてしまった私は…………

もっと哀れな人間なのかもしれない。

「エルウィンはどこにいる?」

「エルウィンは妊娠中なので、安静にし公爵家の城に里帰り中です!」
「分隊長と予定日が一緒だそうです!」
「ということは受精日も一緒?」

駄目だ……TOPがアホなら部下もアホだ。

もう死にたい……子どもにごめんと謝りたい。お前の父親はアホで変態で……そうだ、今から殺しに行こう。
とりあえず結婚はしたので、今すぐ死んでもらっても何も問題はない。
子どももパパはお前が生まれる前に死んじゃったけど、お前の物凄く愛していてと感動的に話してあげよう。

おっと、その前に、エルウィンにこの感動的なラブストーリー本を献上をしないといけない。


*次回、ギルたんお仕置き編。



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