「成人した子どもの不始末を、被害者の私を殺すことで終わりにするんですか?」

それでも国王かと、冷笑を浮かべて国王をあざ笑った。どうせ殺されるんだったらこれくらい許されるだろう。

「そうだ。私は国王だ。王子の不始末でこの国を戦争に巻き込むわけには行かない。それくらいだったら卑怯な男といわれようとも、そなたを殺すことを躊躇することはない。息子のしたことは詫びよう。だが、だからと言ってそなたを生かしておくわけにはいかない。せめて苦しまないように」

国王が合図をすると、ワインが運ばれてきた。毒酒か……。

「私も軍人だ。死ぬことを恐れることはありません。だが、私のお腹にはギルフォード王子の子がいる。貴方は息子の不始末で自分の孫も殺したのだと覚えておいて下さい」

私はワインを受け取ると飲み干そうとしたが、国王が魔法を飛ばしたのか手の中のワイングラスが飛び散った。

「そなたに……ギルフォードの子がいるのか」

「そうですが、まさか、そんなことで私を殺すことを躊躇うのですか?国王なら自分の血筋のものが死のうと、国益を優先すべきでは?」

尊敬するわが国王を思い浮かべながらそう言った。私が剣を捧げた陛下は、このリエラ国王のように愚かではない。このような愚かな行いを部下にさせるような真似はしない。

「もう一度ワインを」

ギルフォード王子は自分の父親に、私と、自分の息子を殺されたことを一生後悔すればいい。自らの行いが、私を死に追いやったと。

「父上!エミリオをお放しください」

ワインを受け取ろうと手を出しているところにギルフォードがやってきた。

私が死ぬところを見ればいい。一生忘れられない光景になるはずだ。

「ギルフォード!そなたの愚かな行いが、愛する者を死に追いやるのだぞ!……私だとて、初孫になる子を殺すことなど忍びないというのにだ!」

ハーレムを持っている王にまだ孫がいないことに驚いたが、それでも私を殺すことには変わりないようだ。まあ、ここで簡単に考えを変えるようなでは国王として失格だろう。

「僕はエミリオを愛しているんです!エミリオのことはどこにもばれていない!リエラでエミリオと結婚します!だから、エミリオを殺す必要などありません!」

「ギルフォード、ばれないという保証はどこにもない。もし、この男が生きていることが知れたら、どのような報復があるか知れないのだぞ!お前はそれでも王子として生まれたのか!」

「私は、リエラよりもエミリオのほうが大事です!……エミリオを失ったら、生きている意味がありません!」

「お前の愚行が愛しい男を殺すのだ!王子として相応しくない行いを悔いろ」

「では、エミリオを殺すなら私も一緒に殺してください!……そこの、僕にもワインを」

……冗談ではない。どうしてギルフォードなどと一緒に死なないといけないのだ。私は死ぬのだったら一人で死にたい。ギルフォードと一緒に死んで、来世でまで纏わり憑かれたら。

「ギルフォード!許さん!毒酒をギルフォードには渡すな!」

「ここで私を止めても、エミリオを殺すのなら、私は絶対にどんな手段を使ってでも、死にます」

「ギルフォード!……お前に王族としての自覚を、と言っても無駄か?」

国王は第四王子であるギルフォードを可愛がっていると聞いていた。流石に息子は死なせたくないのだろう。蒼白な顔をして息子を諭そうとしていた。
だが言うことを聞くくらいなら、勝手に暴走をして自分の国を戦争に巻き込むかもしれない誘拐騒ぎなど起こしたりはしないだろう。
まさに親不孝な息子だ。

「エミリオを愛した時から、リエラのことなどどうでも良くなりました」

「……なら、その男を生かすのなら、最早お前はリエラと何の関係もない人間になるのだぞ?リエラ国民ではないお前が勝手にしたことだ。ギルフォード、お前は王子としての身分を捨てて、爵位もなくし、領地も金も全て私が与えた物は無くなる。それでも良いのか?」

「はい、陛下……エミリオがいれば、僕は何も要りません」

「では、お前はもう私の息子ではない。二度とリエラの土地を踏むことは許さん」

「はい…陛下。今まで育てていただいてありがとうございました。不詳の息子で申し訳ありません」

ギルフォードは私の手を引いて、国王の前から去っていった。

「おい……良いのか?」

自動自得といえばそうだが、ギルフォードは私を助けるために国も王子としての地位も、何もかもを失った。勿論同情はしない。
国を揺るがす騒ぎを起こしたのだ。ギルフォードは本当なら、処刑されたとしても文句は言えないだろう。王子と言えでも、いや王子だから厳しい処罰が与えられて当然だ。それが国外追放で済んだのだ。
やはりリエラの国王は身内には甘い。

「いい……エミリオが生きていてくれれば」

「そもそも、私は殺されそうになったのは貴様のせいなんだが?」

「うん、分かっている。怖い思いをさせてごめんね」

怖い思いか……この国に来てからいつ死ぬか分からない日々だったので、別に怖い思いをしたわけではない。
むしろ、私のお腹に異物が育っているほうが怖い想いなのだが。

「お腹の子に何も残せなくなっちゃった」

「は?」

「領地もなくなっちゃったし、爵位も没収されちゃったし、無一文になっちゃったから……息子に僕何も残してあげられない」

「……馬鹿にするな!私は貴様に恵んでもらわなくても、爵位もあるし、仕事もあるし、領地もあるし、金だってある!私は自分の息子に何不自由させるつもりはない!」

これでも国で有数の名門貴族の跡取りだ。ギルフォードのリエラでの爵位や金や領地などこれっぽっちも必要ない。

「だって、エミリオは僕の子を産んだら捨てるつもりなんだろ?僕が何も残せなくなったら、その子は何もなくなっちゃうよ」

ああ、そんなことを言っていたな。ギルフォードはあんな戯言を信じていたのか。

「あのな……私はそこまで人非人ではないぞ?……貴様に犯されて出来た子でも、捨てるのは可哀想だ。きちんと育てる」

「……ありがとう…でも、このまま帰ったら、殺されるかもしれない」

まあ、そうだろうな。我が家でも不名誉なことだし、父親のいない子など貴族社会で抹殺されるに決まっている。

「仕方がないな……貴様は私の家で物凄く肩身の狭い思いをするぞ?」

「え?」

「文無しで、地位もない外国人の男など、我が家で全く歓迎されないだろうし、両親からいびられるだろうし……子どもの父親としてしょうがなく家の片隅において貰えるくらいだろう」

リエラ王子でも歓迎されなかったのに、勘当された元王子などもっと歓迎されないことなど間違いない。

「エミリオ……僕をエミリオの家に迎い入れてくれるの?」

「……仕方がなくだ。私もこのまま国に戻って死にたくない。リエラで貴様と過ごすうちに、愛が芽生えたとか訳の分からない有り得ない言い訳をして、許してもらうしかないだろう」

「エミリオ!嬉しいよ!僕をエミリオのお婿さんにしてくれるんだね?!」

「緊急避難だ!私が生きるためにな!……あとは、仕方がないが……子どものためだ」

「僕、虐められたって平気だよ!…エミリオのご両親に認めてもらえるように頑張る!エミリオは仕事があるから、僕領地経営とか手伝えるし!何でもして働くから!……この子ぐらいは養えるように!」

言っていることはなかなか健気なんだが……

「言っておくが、私は貴様にされた変態行為の数々を忘れたわけではないぞ?あくまで、国に帰るための手段であって」

ギルフォードが期待しているような、夫婦生活を送るつもりはないんだが。あくまで子どもの父親として、屋敷の片隅で生かしておくだけのつもりなのだが。

「エミリオにも認めてもらえる夫になれるように、頑張るから!」

本当は殺してもいいくらいの男なんだが……私の命を守るために、何もかもを捨ててきたギルフォードを邪険に扱えない私は甘いのだろうか。


*ギルたん婿になれた!



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