おめでとうございます。ご懐妊です。
そう悪魔の言葉を告げられてから、もう三ヶ月近くが経つ。

やっと服を与えられるようになったのも、ギルフォードいわく、愛の結晶ができたお陰なのだろう。
足枷も無くなり、一見自由の身だ。しかし、腹の種がギルフォードのせいか、非常につわりが酷く、せっかく自由の身になってもベッドからろくに起き上がれない毎日だった。
ギルフォードが側にいなくても魔法が使えないので、足枷も外された。

「エミリオ、具合どう?……こんなに悪阻が酷いなんて。ごめんね、僕のわがままのせいで辛い目に合わせて」

「本当に貴様の……有り得ない行動には、元々なかった愛想も尽きる。貴様が期待していたような、子どもの父親にかける愛情などこれぽっちもないからな」

金と権力を使って私の意志なしに妊娠させるなど、さすが王子というところだろう。特にここはリエラだから、無駄に権力がありすぎてどうしようもない。
ギルフォードは私が妊娠したら、ギルフォードのことを好きになってくれるとかアホなことをきたいしていたようだが、あいにくこれぽっちも好意が沸かないどころか、マイナスの感情が更にマイナスで一杯になって行っただけだ。

「私は決心した。私も鬼ではない。私が望んでできた子どもではないが、貴様がいる今、勝手におろすことはできないだろうしな」

「当たり前だよ!僕の子どもを殺すなんて、そんな酷いことエミリオでも許さない!」

その前に貴様がやった所業の数々は……許さないなんていえる立場なのだろうか。

「……私もそういったことは自分の誇りにかけてできない。変態の貴様の子どもだというのにな……だから、責任を持って貴様が育てろ」

「当然だよ。僕、良いお父さんになるから。赤ちゃんもエミリオも大事にするよ!エミリオは何の心配もしなくても良いからね。あ、エミリオが育児に専念したいんだったら、仕事は辞めてくれても良いよ。僕の領地からあがる」

「いや、待て。誰が一緒に子育てをすると言った?私は貴様が責任を持てと言っただけだ。私が育てるといった覚えはない。私は産むだけ産んだら、国に帰る」

独身で子どもなど連れて帰ったら死刑だからな。

「自分の息子を捨てる気なの?!……エミリオ」

「貴様が種付けしたんだろう?私に何の責任もない。まさか、貴様は子どもが生まれでもしたら、私が大人しく結婚して、母親として夫を愛するような男だと妄想していたのか?はっ、馬鹿だな」

顔面を蒼白にしているギルフォードを見ると、妄想していたと言うよりも確定事項として思い込んでいたのだろう。子どもさえできれば何とかなくという思い込みで、私を妊娠させたかったらしいからな。

「父親がどんな男でも……子どもは可愛いものじゃないの?」

情に訴えかけようというのか?

「限度があるだろう。貴様だったら同じ目に会わされて、それでも子どもは可愛い!と馬鹿らしく思うのか?」

思うわけはないだろう。

「それでも!……子どもが生まれたって、国に帰さないから!エミリオは僕と結婚するまでここから出さないし、結婚しないんだったらこのまま閉じ込めて、僕とエミリオと子どもだけで過ごす!……僕のしつこさから逃げようと思っても無理だよ」

ギルフォードは、いかに私のことを愛しているか精一杯語って、リエラから返す気はないと断言して部屋を出て行った。

まあ、そういわれるだろうことは予想がついたが。
子どもが生まれたから、はい、サヨウナラと終わるわけはないよな。そもそも孕ませたのは、純粋に子どもが欲しいからとかじゃなくって結婚の道具にしようとしているだけだろうからな。

まあ、私も正直なことは言っていなかったが。
ギルフォードが傷つくと嬉しいくらいの気持ちで、子どもを生み捨てしてやると宣言してやっただけだ。

こんな変態の生産地に息子を置いていったら、ギルフォードの二の舞だろう。伴侶を選ぶまでに、何人もの男女を渡り歩くような人生を送らせたくない。成人の暁には男か女のどちらか好きなほうと性経験して一人前なんていうリエラの王族として、私が産む息子を育てさせるつもりはない。

しかし問題も多い。そもそも、ギルフォードのいうように、王子が側にいたら逃げ出すことがこれまで通り不可能に近い。逃げられるのだったらとっくに逃げているのだし、出産が終わったからといって状況は変わらないだろう。
第二に、連れ帰ったとしても、私も子どもも立場が危うい。

そんな状況なのに、好きでもない男の子どもを孕まされた私は意外と自分がずぶといと感じていた。普通だったら自殺してもおかしくない状況だが、意外と平然と生きている。
この状況に頭がついていってないだけだろうか。ギルフォードが変態でアホなので、悲壮感を感じる暇もないだけかもしれない。まあ、ともかく帰りたかったが、子どもを産むまで少なくても物理的に動けないので、考える時間だけはたくさんある。

逃走方法を考えておくかと、悪阻のため昼寝をしようとベッドに横になろうとした時に、突然兵士が私の監禁されている部屋になだれ込んできた。

「………何事だ?一体。ギルフォード王子の命令か?」

「いいや違う。陛下の命令だ。一緒に来てもらおう」

責任者らしき兵士にそう命令され、国王の謁見室に連れられていった。
エルウィンやルカのことで何か進展があったのか?

あまり利用価値がない私でも、人質として使う時期が来たのかもしれない。まあ、私はこの国に来たことで何時死ぬかわからないと思っていたので、それほど動揺はなかった。

「そなたがギルフォードが寵愛している男か……」

リエラ国王はハーレムを持っていると聞いている。精力絶倫で厭らしそうな男だろうと想像していたが、ギルフォードによく似た容貌をしていた。もう少し男性的だが、ギルフォードの美貌は母親からではなく、父親から授かったもののようだ。

「あやつも困ったことをしてくれたものだ」

困ったことをしでかしたのは、リエラのほうだろうと罵声を浴びせたかった。この国が誘拐などをしたことが発端なのだ。

「そなたは知らないだろうが、王太子妃も王子もすでに王太子が奪還をしにきて、とっくの昔に国に戻っている」

「そうですか…良かったです」

私は何のためにギルフォードに身体を開いていたのだ?と思わないでもなかったが、まあ仕方がない。最悪のことを考えて行動するのが私の役目だ。いないと勝手に思って、最悪の行動を取るわけには行かない。

「王太子の魔法の余波で、ギルフォードの城は倒壊した。一緒に誘拐されたそなたは、倒壊に巻き込まれたせいで死んだと報告を受けていた。わが国が仕掛けたことだが、王子たちも無事であり、そなたは王太子の魔法のせいで死んだこともあり、講和の際に最小限の賠償金で済んだ」

私の国のほうの犠牲は私だけ。それも隊長の魔法のせいであり、まあ誘拐をしでかしたのはリエラだから私が死んだとしてもリエラの責任だが、戦争をしないで講和をすることになれば、それほど被害も出ていないのでリエラから多額の賠償金を受け取るのは難しいだろう。

そして私が全く探されていないような気がしたことも納得がいった。死んだことにされているのだ。それはまあ、探してくれないだろう。
ギルフォードが私は死んだことにして囲う気だったのだろう。

「今回の誘拐は、私の知らないことで起こった。部下たちが暴走した結果だが、国王の私が知らないではすまないだろう。しかし、出来るだけ最小限でことを済ませた……そなたが生きていたことだけが今となっては問題だ」

死んだことになっているのだから、当然だろう。

「しかもギルフォードが散々陵辱の限りを尽くしていたと聞いた。こんなことがばれたら、せっかく講和が終わったばかりだというのに、もっと問題になる。死んでいてくれたほうがどれほどマシだったか」

普通は生きていれば喜ばれる物だが、私がこんな扱いを受けていたことを知れば、戦争になりかねない。国の面子の問題なのだ。

私がここに呼ばれた理由が分かった。私を殺すためだろう。




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