言ったというか言わされたのだろう。記憶がないとは言わない。だがそんなものは無効だし、結局は私が結婚するといわない限り、王子とはいえギルフォードではどうしようもできないことだ。
「言ったかも知れんが、私の本心から言ったことではないことは、貴様が一番良く知っているだろう?全部秘薬の効能だ。貴様は虚しくならないのか?夫と言い張ったところで、私に貴様への気持ちがこれぽっちもないことを……ああ、そんなものがあるわけないか。薬に頼らないと私を気持ちよくさせることもできない、下手くその早漏がっ」
ふっ、と冷笑をしてやる。
私が乱れたのは薬のせいであって、ギルフォードの技能のせいではないと、あざ笑ってやった。
こんなものに頼るしか能がない、ヘタレ王子、と言ってやったが、後ろから抱きしめられているので、ギルフォードがどんな顔をしているか分からない。
「ああ、でも早漏なのを責めているわけではない。私としては早く終わってくれたほうがありがたいからな……遅漏よりは余程良いと思っている。言っておくが褒め言葉だ」
たまには褒めておくか。勿論本心から褒めているわけではない。そもそも性経験がわずか数日でギルフォードしか相手をしてことがない私では、ギルフォードが早漏かどうかさえよく分からないが、本人が自己申告をしているので構わないだろう。永遠にそう呼んでやろう。
「……そんなに僕の早漏が嬉しいのなら、もっと早漏にする方法があるよ?エミリオのパイパンを見ながらならきっと数秒で果てるだろうから、エミリオのためにも協力してね」
話題を逸らしたのにあだその話を忘れていなかったのか。というか、そんなものを見て何が楽しいのだろうか。
隊長は物凄くエルウィンのそれが好きらしい。そのために、全隊員にアホらしい指令を出したほどだった。あのクライス副隊長ですら止められず、仲良く全部隊員そうなったわけだが。
私は他人のそんな物を見ても何も楽しくないし、隊長は全裸でどうどうとしていたので見てしまったが、何の感慨も起きなかった。というか、心底隊長の嫁にならなくて良かったと感謝したほどだった。
しかし、代わりに今相手をしているのがギルフォードだと思うと。正直、ギルフォードに犯された当初は死んでしまいたいほどショックだったが、なんかもう今はどうでもいい気さえしてきたのが不思議だ。
ギルフォードのアホな性格と私の態度で一喜一憂する様を見ていると、悲壮感を漂わせているほうが馬鹿馬鹿しくなってくる。
なんかもう、早く国に帰りたい。もう一生独身で良いし、これほどギルフォードに好きにされた体なので、黙って結婚相手を探すわけにもいかないので、兄を探して、兄の子どもを養子にしても良いと思う。
ギルフォードがパイパンに拘るなら、好きにしろとさえ思う。
黙ってギルフォードの行動を見守っていると、チリンと鈴を鳴らした。そして私の身体に布団をかけると、使用人がやってきた。
使用人を見るのは初めてだ。私の世話は全てギルフォードがやっていたから、他に人がいるのを見たことがなかった。
「剃刀を用意してくれ」
「おい!」
というか、いくら布団で私の裸を隠したとはいえ、ギルフォードに突っ込まれている姿を使用人に曝すなんて、どんな神経をしているアホなんだ。この国では普通なのか?私の国では王族でもやらないぞ?
私も騎士だし、貴族の師弟は士官学校などで、自分のことは自分でやることを覚えるため、使用人に何でもやらせることはしない。
やはり国が違うと、風習も違いすぎて、やはりギルフォードとはどう考えても有り得ない。
「さて、エミリオのパイパンを」
「待て、まさかこのままやる気か!?」
先ほどからずっとギルフォードは私を後ろから抱きしめたままの体勢で、しかもその性器を突っ込まれたままだ。後ろから覗き込むような体勢で、剃ろうとするなんてアホじゃないか?
「だってこうでもしないとエミリオ逃げちゃうでしょ?まあ、押さえ込めるけど、暴れられると肌を傷つけちゃうかもしれないから。ね、大人しくしていて?」
「大人しくしていたって、この体勢からだと血まみれになるだろ!というか、剃刀でするんだったら普通は石鹸くらいつけるだろ!」
直に剃刀なんて恐ろしいことをするギルフォードに王子様育ちだから、準備が必要なことも分かっていないのだろう。
魔法も使えないしな。
「エミリオ、パイパンのスペシャリストなんだね?エミリオはどうやって剃ったの?」
「そんなもの、剃刀など用意しなくても魔法でちゃちゃっと」
「僕がやるのが不安なら、エミリオがやって僕に見せて?」
「貴様にやらせるよりはそのほうが安心だが、貴様の魔力阻害のせいで魔法は使えんから無理だ」
どうせこの王子様は、使用人に着替えから何までやってもらっているのではないだろうか。そんな男に大事なところを任せるなど危険極まりない。
「エミリオは気がついていなかったかもしれないけど、僕今能力使ってないよ?」
「……何故だ?」
「だって使ったら、エミリオが妊娠できないから」
今すぐ逃げようかと思った。しかしエルウィンとルカの顔がよぎる。ここで逃げたら、あの二人をとまた脅迫が始まるのだろう。
そもそも今自分がギルフォードとこうしているのも、そのためだった。
私は今、媚薬は抜けかけているが、散々ギルフォードに貪られてほとんど体力は残っていない。
全裸で身につけているものといえば、ギルフォードの母親の形見の宝石類だけだ。これは逃走資金にできるといえばできるが、全裸で逃げる勇気もないし、あの二人を放っておいて自分だけ逃げるわけにもいかない。
要するに、今ギルフォードが魔力を使えるようにしてくれたとはいえ、せいぜいこのアホで変態で絶倫で早漏な男を喜ばすために、自分の毛を剃るくらいにしか使えないという訳だ。
「……わあ!凄い、可愛いwwずっとこのままでいて!」
はしゃぐギルフォードに、私は何とも言えない虚しさを感じた。
私が魔法の訓練をしていたのは、パイパンにするためじゃなかったはず。
いや、そもそもこんな変態を喜ばすためでは……
エルウィンが隊長と結婚して、変態さを部隊内で平然と暴露をしているのを見ていて、私はあんな人と心底結婚しなくて良かったと安堵したものだった。
しかし、私の股間を見るために合体を解いて、被っている布団の中に潜り込んで私の股間の中に顔を埋めている、顔だけは非常に美しい残念な王子を見るにつけ、隊長と結婚したほうがまだマシだったのではないかと、落ち込んだ。
*まだギルたんの野望は続く
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