「困っているんだろう?私に頼るしかないだろう?私の子を身篭っているんだ、今度こそ私と結婚するだろう?」
尋ねているが、誰が聞いても強制する気満々の声だ。こんな人と一緒にいたらいつも緊張して、精神的に疲弊してしまうだろう。
俺は頭を振って拒否した。
「エルウィン!この後に及んで私を拒否するのか!?」
「ひっ!」
隊長の部屋に無理矢理引きづり込まれると、なんと隊長のお膝に向かい合わせで抱っこされてしまった。隊長の超怖い顔が目の前にあって、俺は気絶したい気分だった。
「私の子がここにいるのだ。なのに父親である私をそれほどまでに厭うのか?エルウィン、答えろ」
「隊長……すいません。俺どうしても隊長のことが……好きになれません」
「ではどうする気だ?愛しいエルウィン……」
「や、止めてください!」
隊長の手が腹の上から、俺の胸を撫で回している。
「ん?少し胸が出てきたのではないか?私の子を身篭っているからだ」
「変なふうに触らないで下さい……」
「腹も張っている。摩ってやろう」
「止めてください!セクハラです!」
「結婚するなら止めてやる」
「ひ、卑怯です!」
「好きなんだ」
「知ってます!」
知らないはずないだろう。何回プロポーズされたと思っているんだ。だからあの酔った日の朝、隊長の訳のわからない言い訳を信じるわけもなかった。俺がそんな処女を貰ってなんていい出すわけないからだ。
「わざとだって分かっているんです!酔った俺を勝手に抱いたのは隊長の方でしょう!俺がプロポーズにYESって言わないから、既成事実を作ろうとして!……ひ、避妊もしてくれなくって、妊娠して困って隊長のところにすがりに来るのを待っていたんでしょう!俺だって馬鹿じゃないんです!それくらい分かります!」
むしろ隊長は分かりやすい性格をしている。怖いから言い返せないだけで。何を考えているかなんて丸分かりだ。
「だから、だから俺、隊長の言いなりになるのは嫌で……」
身分違いだとか、男だからとかだけじゃなくて、隊長のこの傲慢で手段を選ばないやり方がどうしても嫌だった。
「……知っていたのか?」
「はあ?」
な、何この人驚いているんだ。まさか俺が何も気がつかない馬鹿だとでも思っていたのか?酔って馬鹿なこと言って隊長を誘ったなんて、俺が信じ込んでいるとでも思ったのか?
俺が自分の事を自業自得だと思って反省していたのは、隊長を誘ったのは自分だから仕方がないとかそんなことが原因ではなく、隊長が仕組んでいるのを分かっていて、何も反撃できない弱い自分を分かっていたからだ。
「知ってますよ……たぶん酒に強い俺が酔いつぶれたのも、隊長が酒に何か薬を仕込んだんでしょう?」
「……」
「黙らないで下さい」
「好きだから……」
「止めてください!可愛い女の子が言えば許されるかもしれませんが、隊長のようにむさい男が言って許されるものじゃありません」
むさいと言っても、隊長はハンサムで文句なく良い男だろう。しかし俺から見ると男臭すぎるし、筋肉がつきすぎていて、好みの女の子とは正反対過ぎて、こんな男が好きだからと言って許されるものじゃない。
「今まで反抗しなかったのに、急に言うようになったな……」
「馬鹿馬鹿しくなったからです!分かりやすい隊長にまんまと嵌められて妊娠までしちゃって……文句くらい言ってもいいでしょう!」
「予定では『もう俺には隊長しかいないからお嫁さんにして。俺と赤ちゃんを幸せにして』って言ってくれると思ったのに」
「言いたくもありません」
「じゃあ、どうする気なんだ!私の子を身篭っていて!」
「謝って下さい!無理矢理抱いてすいませんって。避妊もせずに計画的に孕ませてごめんなさい。無理矢理結婚にもっていこうとした私は最低の男ですって!」
「そう言えば結婚してくれるのか?」
「………良いでしょう」
というか、隊長の思うがままと分かっていても、確かにもう俺は隊長に頼るしかなく、隊長の企みどおりに結婚するしかない。
この国のシステムがそうなっているから、俺が一人で反抗したってどうすることもできない。
だけど、こんな酷いことしておいて、俺から隊長に縋るなんてしたくない。
「酒に睡眠薬を混ぜてすいません。媚薬も混入してすいません。中にたくさん出してすいません。噂をばら撒いてすいません。村八分にしてすいません。部隊を首にしてすいません……」
どれだけやらかしているんだ。この隊長は……知らなかった事実というか、不幸の全てを隊長がやらかしていて、このまま頭を勝ち割りたくて仕方がなかった。
隊長が王位継承者じゃなくて、公爵家の息子じゃなくて……俺の腹の中の父親じゃなかったら、そうしていただろう。
「どうか結婚して下さい、は?」
俺が縋るんじゃない。隊長が懇願するんだ。
「結婚して下さい!お願いします」
土下座までしてきた。これが鬼隊長なのか。あんなに怖かった人なのに。もはやギャグにしか見えない。
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