「魔力は僕生まれつきなかったから、代わりに武術を極めようとこれでも努力したんだよ?」

それも分からなくはない。貴族や王族として生まれ、魔力を持っていない子の扱いは惨めなものだ。嫡子としてすら認められない場合すらある。ギルフォードが魔法を使えない代わりに、武術の才能を磨いたとしても不思議はないのだろう。
ただその麗しい顔に騙されて、弱いと判断したのが間違いだっただけだ。

「そこまで努力したんだったら、大使なんか辞めて国に戻れば良かっただろう」

まずいなと思った。魔力が使えないこの状況で、ギルフォードと素手でやりあって勝てるとは思えなかった。勿論私も武術の訓練は受けている。が、どうしても魔力が高く生まれついたため、魔法のほうに頼ることが多く、武術だけを磨いたギルフォードに勝てる自信はなかった。
孤立無援の状態で自分しか動ける人間はいないというのに、ルカをエルウィンを守る方法が今見つからないでいた。

「エミリオ、今、どうやって逃げようかって思っているだろう?」

「……この状況で、それ以外考える余地はないだろう」

「無駄だよ。僕、王族に生まれながら何で魔力がなかったと思う?僕って、魔力阻害症なんだよね。子どもの頃は魔力がなくってこんな体質に生まれたことを恨んだけど、結構重宝がられるんだよ」

「魔力阻害症か……どおりで魔力が使えないわけだ」

「うん、僕の半径最大100メートル内では魔法は使えないよ?まあ、意識すればもっと広げれるし、狭めることも出来るけど、今は最大に広げているから、エミリオも無力だよ」

魔力阻害症とは非常に珍しい生まれつきの体質だ。魔力を受け付けない体質で、どんな魔法攻撃や精神魔法や呪いも跳ね返してしまう特殊体質であり、その効果は当人だけにとどまらず、意識して広げることもできるそうだ。わが国には魔力阻害症の人間はいないため、詳しいことは私は知らない。
だがギルフォードがいる限り、純粋に肉弾戦しか手段はないということは理解できる。そしてその肉弾戦では、私はかないそうもない。だいたいが敵はギルフォードだけではない。他にも兵士はたくさんいるだろう。
つまりエルウィンとルカを脱出させることは、ほぼ不可能に近いという事だ。

「逃げれないことは分かってくれた?」

「……」

「だから、具体的に結婚の話に移ろうか?」

だから、どうしてそこで結婚の話になるのだろうか。

「僕がこの計画に参加したのはエミリオと結婚するためだって言っただろ?王太子と王子の誘拐までして戦争が起きてもおかしくない。そんな危険だということが分かっていて実行者になった僕の目的はエミリオだ。僕の祖国の目的はあの国の侵略だけど、僕はそんな小さなものが欲しいんじゃない。僕はエミリオが欲しいんだ……身も心もって言いたいけど、今は身と結婚という確かな誓約が欲しいんだ。まあ、分かりやすくいえばオーソドックスに僕と結婚してくれないと、あの二人を殺しちゃうよって脅しているわけなんだよね。力で抑えつけて無理やりすることも出来るけど、それだと体だけ手に入れるだけになっちゃうから、あんまし好ましくないしね」

侵略は大きな目的であり、私を手に入れるギルフォードの目的のほうが余程小さなものだと思うが、ギルフォードにとって国よりも私を手に入れるほうが優先されるという馬鹿馬鹿しいものだった。

「だから、結婚は許しが出ないって言っているだろう!何度言わせたら分かるんだ!うちの国の王子と王太子妃を誘拐して、国がそんなことを許可すると思っているのか?いくらここで私を脅したところで、どうやったって陛下から結婚の許しなどは無理だ!」

「エミリオの家族に許しを得るのも、エミリオが心のそこから僕との結婚に頷いてくれる方法が一つだけあるよ」

「はっ、どんなだ」

「赤ちゃんができれば、結婚するほかなくなるよね?エミリオのご両親も最後に残った息子が死刑にさせることなんかできるはずないから、結婚の許可を出してくれるはずだし。エミリオだって子どもができたら結婚してくれるだろ?」

最近私の周りではやっているのが、できちゃった結婚だ。勿論良くはない。普通は既成事実の前に結婚をするし、盛り上がった挙句先に既成事実を作った後は3日以内に通常は結婚する。できちゃうまえに全て済ませるのが普通なのに、隊長といい(隊長は誤解だった)、ユーリといい、部下の軍医といい、できちゃった後に結婚しているのだ。

確かに王子との結婚に反対している両親も陛下も、子どもができたといえば、仕方がなく結婚に許可を出すだろう。ただし2つ条件がある。
特に問題のない状況という条件の下、私がギルフォードを愛しているということが重要だ。

こんな誘拐され、無理強いされたと知れば、いくら子どもができたとしても許可など出るはずはない。
しかし、こんな緊迫した状況で、お前のしていることなど無駄で、有り得ないと論破したところで、ギルフォードを怒らせるだけであり、何もよいことはない。

「いくら、エルウィンたちを人質に取られたからって、私は愛してもいない男を抱くことは物理的に不可能だ」

ギルフォードの国から見るとありえないくらいの古臭い習慣を持つ国の人間だ。今まで誰も抱いたことなどないし、愛してもいないギルフォードを抱くことど無理だ。しかもこんな緊迫した状態で、欲情しろといわれても到底出来ない。

従って、物理的に無理なので諦めてもらおうと諭そうと思った。


「大丈夫だよ、だって僕がエミリオを抱くんだから」



*可哀想なエミリオさんは、この時までギル王子は嫁志望だと思い込んでいました。



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