「ギルフォード王子……こんなことをして、余計私との結婚は遠ざかりましたね」

ギルフォードは、エルウィンとルカを誘拐するついでに護衛をしていた私も一緒に連れて、隣国リエラへと向かったのだ。まさかギルフォードがこんな無茶をしでかすとは思いもせず、たった一人で護衛についてしまい、エルウィン達を守ることが出来るのは私だけだった。しかし、二人を人質に取られては、魔力に自信がある私でも言うなりになるしかなく、無抵抗で無様に捕まってしまった。

ルカ王子は取り上げられ、意識を失ったエルウィンと2人だけで閉じ込められてしまい、魔法を使い逃げようと思っても何故だか魔力の発動ができず、隊長にこの事態を知らせることも出来なかった。

ルカ王子の行方は知れないままで、私だけギルフォード王子の元に連れられてきた。
エルウィンと離れるのは心配だったが、とりあえずギルフォードの目的を知りたかったのと、王子と交渉し国に帰してもらえないか頼むためだった。
つい先日まで私に求婚していた王子だ。私を殺すとは思えなかったし、私の言うことだったら少しは考えてもらえるかもしれないと思ったからだった。

「どうしてかな?こうやってエミリオは僕のテリトリーにいるのに……王子と王太子妃は可哀想だけど、これも皆エミリオのせいなんだよ?」

何故逃がさなければならないのかと、不思議そうにギルフォードは微笑んだ。

「国同士が戦争になったら、結婚なんか出来るはずはないでしょう!……こんな馬鹿げた事をしでかして本当に私と結婚をしたいと思っているんですか?」

「エミリオを返さなければ問題はないだろ?このまま国につれて帰って、結婚しよう」

エミリオの家に入るつもりだったけど、こうなったらそれも難しいから僕の国に連れて行くことになることだけはゴメンネと微笑まれた。

「次の王太子と王太子妃を誘拐するような男と、何があっても結婚するつもりはない」

だから、二人を解放してくれれば少しは結婚を考えると言おうとした。

「……いいよ、ならルカ君を殺そうか?」

「やめろ!」

「なら、王太子妃にしようか?」

簡単にルカやエルウィンを殺そうと楽しそうに言うギルフォードに、絶対に結婚してみせるという言葉に嘘偽りはなかったのだと思い知らされた。この場では私ではなくギルフォードのほうが遥かに優位な立場だ。譲歩する必要など全くない。ただ、私への情に賭けるしかなかったが、そんなものに惑わされるほど馬鹿な王子ではないらしい。
当然といえば当然かもしれない。私が結婚する気などこれぽっちもないことぐらい聡い王子は分かっているだろうし、だからこそこんな誘拐を企てたのだろうから。

「卑怯者だな」

一緒にいればエルウィンもルカ王子も命をかけて守るが、あいにく王子の居所は分からない。

「しょうがないだろう?エミリオは何度も懇願しても結婚してくれないっていうから、卑怯な手段をとるしかなかったんだ。こんな計画に手を貸したのも、国のためなんかじゃない。エミリオを手に入れたいだけなんだ」

こんなにこんなに好きなんだから、悪いことをさせたのはエミリオのせいなんだと、ギルフォードは逆に私を詰って来た。

「……例え今だけエルウィンたちを盾にして私に言うことを聞かせれたとしても、結婚は出来ませんよ?分かっているでしょう」

「うん、分かっているよ。エミリオは脅されたくらいでは結婚してくれないよね?魂の契約だもん、こればっかりは強要しても婚姻無効になってしまうから、脅しても無駄だしね。でも、1つ方法があるから安心して欲しい」

ギルフォードがどんな方法を考えているかは分からないが、ここで私がやるべきなのはギルフォードの殺害だ。王太子妃と次期王太子の誘拐計画のここでの責任者はギルフォードだろう。つまりギルフォードが死ねば、警備体制に大きな穴が出るはずだ。司令塔がいない組織ほど脆い物はない。

何故か分からないが魔法は使えないままだが、軍人で鍛えている私と文官のギルフォードでは私のほうに利があることは疑いようもない。
何も武器は持っていなかったが、ギルフォードの首に手をかけ折ろうとしたその手を、逆にギルフォードに拘束された。

「なっ」

思いがけない強い力で締め付けられ驚きを隠せなかった。一見箸よりも重いものを持ったことがありませんという顔からは想像もできないほどの握力だ。

「酷いな、エミリオ。こんなに愛している僕を殺そうとしたね?」

「お前は敵だ……当たり前だろう!」

「でも、無理だよ?僕こんな顔をしているし、大使をしているから、みんな文官で弱いって思うのかもしれないけど。僕、エミリオに会わなければ国軍総帥の地位を父上から打診されて、それを受けていたと思う」

なんでもエミリオは幼い頃から武術に優れ、国内の大会で何度も優勝したほどの剣の達人らしい。父王にも期待され、総帥の座を与えることを約束されていたらしいが、この国に遊学しに来た際に私を見て一目ぼれをして、総帥の座を辞退して大使の座を強請ったそうだ。

「魔法も使えないくせに、国軍総帥か?」

ギルフォードは魔法が使えない。この王子からの求婚を拒否する理由の1つがギルフォードに魔法の素地が全くないためだった。
貴族の当主の伴侶は男性が好まれる。男性同士は男しか生まれないからだが、女性は魔力を持たない。そのため男が好まれるのだが、例外はある。魔力を持たない男性と結婚すると、魔力を持たない子どもが生まれる確率が高いためだ。貴族男性の最もよい結婚相手とは、魔力を持った男性なのである。
そのため魔力を持たないギルフォードは害しかないと判断され、よけい敬遠されていたのだ。

貴族や王族は魔力がないと当主にはなれないことが多い。したがって魔力があるもの同士結婚することがほとんどなため、ギルフォードのように王子として生まれながら、魔力が全くないというのは非常に稀なケースだろう。





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