第一部隊、分隊長エミリオは隊長の婚約者候補……であった。
部隊1,000人はまず隊長が一番上だ。補佐として副隊長がおり、その下に10人の分隊長がいる。

私は一応、筆頭分隊長であり、部内ではナンバー3をしている。
なぜ私が隊長の婚約者候補だったというと、彼が結婚しないからであった。
公爵も陛下も嫁候補を引き合わせるのだが、隊長は全く興味がなく、政略結婚でもいいからしてくれというご両親の説得にも興味がなく独身を通していた。

しかし、隊長は公爵家の長男であるし、結婚してもらわなければ困る。従って幼い頃からの知り合いで、親戚筋の私が候補に上がっていたのだ。第一部隊に送り込まれたのも接点があればそのうち……という期待もあったのだろうが。
まあ、今となってはエルウィンという花嫁ができたので、私は用済みということになるのだが。非常に喜ばしいことだと思う。
婚約者候補に挙げられていたとはいえ、それは気心が知れた間柄と、家柄だけが理由で、これっぽっちも私には隊長に対する愛情もなく、結婚してくれてせいせいしたという気分だった。

婚約者候補として置かれていたせいで、結婚はお預けね。と、まあ、相手もいなかったが強制されていたので他の相手と結婚することはできなかった。しかし私は今日より完全に自由の身で、花嫁も自由に選べることになった。


「エミリオ!やっと自由になれたんだね?これで僕の求婚を受けてもらえるのだろう!」

花のような容貌……というのが表現するのに相応しいだろう、隣国の第4王子ギルフォードがそう声をかけてきた。
美しく、身分も申し分ない。むしろ、公爵家の分家とはいえ、王子たるギルフォードと私とだったら、彼のほうが身分が高い。まあ、私も一応王族の端くれだが、継承権も何も持っていない。ギルフォードは身分的には花嫁に申し分ない存在だろうが、あいにく私は何度彼に求婚されても心は動かなかった。

「王子……何度も言うようですが、王子のお気持ちにお答えすることはできかねます」

「僕は、エミリオが家を継ぐのなら、一緒に行くってずっと言っているじゃないか。第4王子だから、国に戻る必要はないんだし。エミリオの好きなようにして良いんだよ?」

ギルフォードは大使としてこの国に赴任してきている。いずれは国に戻って兄が即位したときに、要職について補佐をするのだろうが、彼は私のためなら国には戻らなくても構わないとまで言って、プロポーズしてくるのだが。正直、その気はない。
両親や陛下も、ギルフォードが私に求婚しているのを知って、隊長の婚約者候補をなかなか辞めさせてくれなかったのだ。他国からの諜報役のギルフォードが、王家の一員と結婚は歓迎できないということだ。

「率直に言いますが、私の家族も国も王子との結婚を歓迎しておりません」

「愛があればこの国では、身分も家柄も関係ないはずだ!僕はエミリオを愛している」

まあ、確かに愛が一番の結婚の条件なのは反論はしないが、それでも最低限の身分が必要だし、あまりにも相応しくない相手だと放逐されてしまう。私の兄のように。家を継ぐはずだった兄は、身分違いの愛に走り駆け落ちしてしまったのだ。
従って私が家を継ぐことになったので、余計ギルフォードとは結婚できない。

それに、言っては気の毒で言っていなかったが、ギルフォードの顔が好みではないのだ。顔が華やかで美しすぎて、人間ではないようで、一緒にいるだけで疲れそうになる。私はもっと穏やかで、地味な顔立ちのほうが好きなのだ。

しかしギルフォードは王子だ。消極的にしか断れない。今までは隊長と結婚するかもしれないと断ることが出来たが、自由の身になった今ではそうも出来ない。だから国の事情でと言っても聞く耳を持ってくれない。

「王子の国は、一夫多妻制ですよね。うちの国は厳格な一夫一夫制なんです。とても王子の常識とは合わないと思うので、無理です」

「僕はエミリオを知ったときから、純潔を守っている!妻も夫もいない!これからもエミリオ以外と結婚するつもりはない!僕もこの国の習慣に則って、エミリオ一人を守ると約束する!だからそんなことは問題じゃないだろ!」

「いえ……今とかこの先も問題ですが……これから先、私だけに貞操を貫いてくれるといっても、過去は変えられないでしょう?この国では、純潔のまま結婚するのが普通です。私もそうです」

「当たり前だ!エミリオが僕以外の人間と抱き合った過去があるなんて許せない!」

私が言いたいのはそういうことじゃないんだが。

「いえ、そうではなく……王子が純潔ではないのが問題なんです。まさか経験がないとは言いませんよね?」

「そ、それはっ!……どうしても僕の国では、成人の暁に相手が宛がわれて……でも、エミリオに出会ってからは!」

「過去のことは仕方がないといえば仕方がありませんが……私はそういうのはお断りなので、申し訳ありません。お国に帰って結婚されたほうがよろしいですよ。この国では伴侶以外と経験のあるものは誰も受け付けません」

両親も賛成しないのはそこが一番大きいと思う。あれでも私に幸せな結婚をして欲しいらしく、兄の結婚に反対して家出をされてしまったので、余計私の結婚には過敏になっているのだろう。

「……エミリオ。確かに僕はエミリオから見れば、不潔で卑しい存在かもしれない……過去に戻れたら、清い身のままでエミリオと結婚したかった。でも、どうやっても過去は変えられない。僕はドブネズミ同然だっ」

そこまでは思ってはいないが。ただ、どうでもいい存在でしかない。

「でも、僕は諦めないよ。必ずエミリオを僕のものにしてみせる」

「無理です。申し訳ありません」

私はそれほど真剣に王子の言葉を聞いていなかった。正直、王子と結婚など現実的ではないと思っていたし、誰も歓迎はしていない。
私はそのうち同じ貴族階級から、お見合いでもして妻を娶るか、または同じ騎士と恋愛結婚でもしないと思っていた。

ギルフォードの諦めないという言葉を、さほど真剣には考えていなかった。


それっきり私はギルフォードのことを忘れてしまった。
何故ならそれ以降アタックどころか、姿さえ見せなくなったからだ。諦めたのかと思うよりも先に、記憶からギルフォードを消してしまっていた。要するにそれほどギルフォードは私にとってどうでもいい存在だったのだ。
ところが、数ヶ月後、私がエルウィンの護衛をしているところに、突然現れたのだ。

しかも、エルウィンに誤解されるかのように、隊長に何度も求婚を断られていると。まあ確かに私への求婚は隊長が原因で全て却下されていたが、隊長のことがなくても私は断ったし、我が家も歓迎していない。
王族の末端であり、公爵家の分家でもある私の伴侶に隣国の王子など正直誰も要らないのに、エルウィンにまで絶対に諦めないと宣戦布告していくのは、どういうつもりなのだろうかと不思議ではあった。
一見すると王太子妃の座を狙っているかのようにしか見えなかったが、あとでギルフォードに問い詰めると、隊長がエルウィンに嫉妬してもらいたくギルフォードに思わせぶりなことを言うように頼んだらしい。
ギルフォードは点数稼ぎをしただけだと、僕の心は相変わらず私のものらしい。
外国人と国内貴族の結婚の許可は国王が出すもので、隊長を味方につければ承諾を得ることは難しくないからだろう。
未来の国王と仲良くしておけば、いずれは隊長命令で結婚できるかもという姑息な魂胆だったらしい。

従ってこのお茶会もギルフォードが隊長に横恋慕をする演技の一貫だろうと思って、気楽なつもりでエルウィンのお供として出かけたのだった。これが私の運命を変えてしまうとも思いもしなかった。


*実はエミリオは隊長の(暫定)婚約者でした。



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