国に戻ってからは、結構忙しかった。普段の子育てや王妃教育に加えて隊長のお世話も加わったからだ。けど、隊長のほうはこの誘拐騒動の処理など様々な仕事があって大変そうだった。
けど、約束していた新婚旅行はどうしてもしたかったらしく、無理矢理2週間も休みを取ってハネムーンに出かけた。
前回は結婚した時妊娠していると騙していたので、ハネムーンは大事をとらないとということで予定に入っていなかったし、ばれた後もすぐ妊娠してしまって結局新婚旅行には行っていなかった。
だから余計隊長は張り切って、仕事を物凄い勢いで終わらせたのだ。

「エルウィン、仕事に行って来る。あまり無理はしないように」

「はい、隊長……大丈夫ですよ」

俺は以前のように拒否はしていなかった。そして二人目を妊娠中だ。おそらくハネムーンベイビーだろうと思われる。
隊長はつわりでベッドで横になっている俺を気にして仕事に行きたくないようだったが、部下が迎えに来たので名残惜しそうに、無理しないようにと言い残して出かけていった。

普通だった。何が普通というと、あれだけ変態だった隊長があまりにも普通なのだ。

パンツに執着をすることもなくなったし、変態活動の一つも行っていない。威厳のあるカッコいい隊長を維持していた。

やはりクライス様の言っていたことは正解だったのだろう。俺が隊長を拒否するから、隊長はあんなん(変態)になってしまっていて、俺が拒絶しなくれば隊長は昔のままのカッコ良いままの隊長なのだろう。
隊長は普段は真面目で、俺がきちんと隊長の相手をしてあげていれば、理知的でカッコいいままなのだ。

元々、隊長は俺にとって憧れの人だった。プロポーズされなければ、同じ部隊で働き、憧れの上司のまま存在していただろう。
それが、何の間違えか夫になってしまったが、変態よりもカッコいいままの夫のほうが、夫婦生活を送る上では良いに決まっていた。



「エルウィン様、エミリオ分隊長がお見舞いに来られていますが、お会いになられますか?」

「……エミリオ分隊長?」


俺はなんか忘れている、忘れていると思っていた。でもそれが何なのかずっと思い出せなかった。

「やあ、エルウィン……お腹の子どもは元気か?」

「え?……はい。元気、です。エミリオ、分隊長」


そうだ、エミリオ分隊長のことだったんだ。あの激動のさなか、エミリオ分隊長を助けるのを忘れ、隊長とルカとで逃げてしまったが、ここにいるということは無事他の仲間に救出されたのだろう。そう思いたい。俺を守るために、一生懸命だったエミリオ分隊長を忘れていたなんて、申し訳ない気持ちで一杯だった。

「あ、あの……エミリオ隊長は?」

「ああ……私も元気だ」

とてもそうは思えない。やつれた表情に、すらりとした長身というよりはやせ細ってしまった肢体。
当たり前だろう、平気なはずはない。ギルフォード王子にどんな目に合わされたか、俺が誰よりも知っているのに。なのに分隊長は平気そうな振りをしている。

「あの……あれからすぐに分隊長は救出されたんですか?」

すっかり忘れててとは言えず、できればあの後誰か第一部隊の人間が助けに言ってくれたと信じたい。

「いや……ついさっき、国に戻ってこれた」

ということは、ついさっきまでエミリオ分隊長はギルフォード王子の元にいたのだろうか。どう考えてもエミリオ分隊長は、陵辱を受けていた。
そしてギルフォード王子は俺たちを逃がしてしまって……たった一人残った分隊長がどんな目にあっていたか、考えたくもない。数ヶ月もあんな目にあい続けていたのだろうか。

「す、すいません、分隊長。俺の護衛をしていたせいで……」

「大丈夫だ、気にするな。私はお前の護衛だったんだ。エルウィンが無事で、綺麗なままでいてくれて嬉しい。私のことなど気にすることじゃない。私が無力なだけだったんだ」

俺だけ、俺だけ、無事で、しかもあんな酷い目にあった分隊長のことを気にかけるどころか記憶から消し去っていたのに。それでも分隊長は優しい言葉をかけてくれる。

「エルウィンのお腹の子は……第一部隊の血と汗の結晶だな」

「は?」

「私も、その犠牲の結晶か……」

それまで平気そうだったのに、急に泣きそうな声で言葉を震わせた。

「え?本当に大丈夫ですか?分隊長……なんか変ですよ」

「ちょっと精神状態が安定しないだけだ。あと数ヶ月もすれば安定するだろうから、気にしないでくれ……そうそう、今日はこれを渡そうと思って来たんだ。エルウィンお腹の子を大事にしろよ?」

そう言うと、エミリオ分隊長は俺に何かの本を手渡し去っていった。
一体なんだったんだろうか。
やはりあの陵辱のせいでどこかおかしくなってしまったのかもしれない。あんな目にあえば誰だっておかしくなって当然だろう。
隊長は部下があんな目にあったんだ、きちんとリエラに報復なり、ギルフォード王子の始末をしてくれたのだろうか。
エルウィンは政治の汚いところなど知らないで、美しいままで生きていって欲しいので、私に全て後始末は任せて欲しいと言われていたので、リエラとの後始末がどうなったのか俺は知らない。
国の重要事項だ。俺の個人的な気持ちで解決してもらうわけにもいかないので(例えば、ギルフォード王子は処刑か、または性器をちょん切るとか)隊長にお任せしますと、関与していないので不明だが、ギルフォード王子には相応の罰を受けてもらいたい。
俺とルカは無事で戻ってこれたので、俺のことはいいとしても、エミリオ分隊長にしたことの責任は取ってもらいたいと、今分隊長を見て改めてそう思った。
隊長が戻ってきたら、リエラやギルフォード王子に制裁を与えたのか詳しく聞こう。

「何が書いてある本なんだろう?………ん?」

エミリオ分隊長に渡された本を見ると題名は『隊長に頑張ってカッコ良くなってもらってエルウィンとエッチをしてもらうための大作戦』と書いてあった。長いな……パラパラとページを捲りながら読んでいく……。

「ふ、ふふふ……ははは…」

俺はクライス様を探した。クライス様は以前俺も妊娠して一緒に妊婦生活を送ろう!と唆してきたが、俺は嫌ですと答えたが、結局数ヶ月一緒に妊娠生活を送ることとなり、王城では落ち着かないのでと、里帰りも兼ねて今は公爵家の城に戻ってきている。当然、隊長も同伴なのだが。

「クライス様、教えて欲しいことがあるんですが……」

クライス様はかなり大きくなっているお腹を、ユーリ隊長に撫でられながら寝室で休んでいた。どうやら夫婦仲良くお昼寝タイムでイチャイチャしているところに乱入してしまったようだ。
最近はなんかもう、クライス様は身も心もユーリ隊長に洗脳されていて、それはそれはもう幸せそうな夫婦にしか見えない。クライス様は正気の時は見ないでくれって騒いでいたけど、今はもうユーリ隊長がいないときでも、洗脳が解けないでいるから……そういうことも言われないので、遠慮なく見てしまう。やっぱりお似合いのような気がするけど。

「ん、何だ?」

「お休みだったところ申し訳ありません。クライス様、ギルフォード王子のことをご存知でしょうか?」

「ギルフォード?ああ……エミリオのことを熱愛して、何度もプロポーズをして断られていたリエラの王子のことか」

「隊長にプロポーズしていたんじゃないんですか?だって、ギルフォード王子は何度も隊長に求愛を断られたって言ってましたけど…」

「あんまりしつこいからエミリオが泣きごと言って、隊長に代わりに断ってもらったんだよ。それでもあんまりしつこくて、あの隊長も匙を投げて国王陛下まで出てきて、ギルフォード王子をエミリオから離したんだが。何だ、まだしつこいのか?あの王子は」

「つまり……ギルフォード王子はエミリオ分隊長のことが好き、という訳ですか……」

「ああ、あのしつこさは隊長がエルウィンに断られても断られても求婚していたときと似ているな。全く愛されないところもそっくりだ」

クライス様はおかしくなっているといってもそれはユーリ隊長に関してだけであとは全く正常だ。

嘘を言うはずはない。ということは……騙されていたのは、俺とエミリオ分隊長……。

「何で国王陛下まで出てきてギルフォード王子を袖の下にしたんですか?エミリオ分隊長と隣国の王子なら、そう悪い話ではないのに」

「それはね、兄さんは結構どうでも良いとしか思っていないんだけど、エミリオは王族の一員だし、一応うちの親戚筋の家の跡取りでもあるし、魔力も高いから他国にやるわけにはいかないんだよね。あと、リエラって一夫多妻制だからね。離婚も出来るし、うちの国民性からいって、外国人と結婚しても上手くいかないことが多いから、エミリオを外国人と陛下も結婚させたくなかったんだよ」

代わりにユーリ隊長が答えてくれた。

「ユーリ隊長……今って、リエラとうちの国は仲は悪いですか?戦争とかになったりしないですか?」

「今までは普通に国交している感じで、可もなく不可もなくって感じだったけど。今度お互いの王族同士が結婚したんで、交流を深めて行こうって話になっているらしいよ。だから戦争なんて心配は有り得ないけど?」

どこの王族同士が結婚ということになったのだろうか……

そうか、妻に相手にされない夫と、エミリオ分隊長に相手にされたい王子がタッグを組んでこんなくだらない、くだらなすぎる本を作成したわけか。

隊長はともかく、ギルフォード王子もこんなにアホだったなんて……

グシャっと本を握りつぶすと、クライス様が何だその本は、と尋ねてきた。

「この本はですね。作成者は第一部隊有志一同らしいです。で、ストーリーは愛する妻と子どもを隣国の王子に浚われた夫が、命を呈して助けに行き瀕死の重傷を負うんです。自分の命を省みずカッコよく妻子を助け出し夫に、それまで夫を愛していなかった妻は感動して、熱く愛し合うんです。それはもう、濃厚にね……で、結ばれた夫婦はそれからずっとお互いを大切にし合って、幸せに生きていくという、感動のラブストーリーらしいですよ」

「良くあるラブストーリーだな」

「そうですね。ものすごっく陳腐ですね!!!!!!ただし、このハッピーエンドには裏があるんですよ!作られたハッピーエンドで、実は全てやらせって言う、あほらしい顛末が!」

ただし、悪役にされた王子は、実は見返りを求めて協力しており、見返りは……ああ、ごめんなさい。エミリオ分隊長。

「集団心理って恐ろしいですね……TOPが変態だとつられてお馬鹿集団になるんでしょうか……NO,2は産休中で、NO,3は生け贄に捧げられるせいで、ストッパーがどこにも存在しなくなってしまうんですね」

クライス副隊長がいてくれれば、きっと第一部隊全体が暴走することはなかっただろう。鬼の副隊長と言われている人だから、いるだけで空気が凍ると言われているほどに、怖がられて尊敬されていた。
その副隊長がいないせいで……ユーリ隊長は絶対知っていたの違いない。ユーリに後を任せていたと言っていたし、でもこの人も基本的にクライス様以外どうでもいい人だから、せっかくのラブラブ期間中に、わざわざ隊長の暴走を止めようなんて思わないだろう。時間がとられるし。どうせ兄さんの好きにすればいいよ☆くらいにしか思っていないだろう。

残念だ、本当になんて残念すぎる兄弟たちなんだろう……もって生まれた才能は抜群でも、性格がアホすぎる兄弟たちだとしか思えない。

しかし、もっとアホなやつらがいた……


「隊長!やっと三ヶ月目です!やはりエルウィンはカッコいい隊長に弱いと推測したのはしかったことが証明されました!」

「隊長のステータスの29歳一児の父経験値2回も無事解消されました!」

「このまま、カッコよく威厳のある隊長を維持できれば、無事エッチをし続けれると思われます!」

「三人目も夢じゃありません!」

三ヶ月経過会議と議題を掲げて、政務中のはずの隊長は……アホな会議をしていた。

「うむ……皆の協力を感謝しよう。私だけではここまでくることは難しかった。皆のお陰だ!」


俺はもう駄目だと思った。蹲ってお腹を抱えた。
別にお腹の子に何か異常があったとか、腹が痛くなったという訳ではない。ただ、こんな作戦に騙されて身篭ったしまったわが子のことが、物凄く可哀想になってしまっただけだ。

ルカを身篭ったときと違って、自分の意思で産もうと思って授かった子のはずだったのに。

産むしかないのは分かっているし、生まれたらルカと同様かわいがるだろう。けど、

「三人目はありえません!!!!」

「「「「「「「「え、エルウィン……」」」」」」」」」

「よくもこんなアホらしい作戦を……百歩譲って、騙された俺が悪いと思って、俺のことは諦めます」

騙されて、隊長がカッコいいなあと思ってしまったこととか、もう一度結婚してもいいと思ったこととか、二人目を産んでもいいと思ったこととか……もう諦めるしかない。
カッコいい隊長ならしかたがないと思い、新婚旅行だって後れながら行ったのに。

「けど、ルカを危険な目に会わせた事や、エミリオ分隊長を隊長の欲望のためにあんな酷い目にあわせたこととか、絶対に許せません!!!」

「エ、エルウィン、違うんだ!」

「何が違うって言うんですか!」

「ルカのことは全ての危険から守るように計画をしていたので、危険などこれぽっちもなかったのだ!」

「エミリオ分隊長のことは?……」

「エミリオが何だというのだ!エルウィンにカッコいいとか言ってもらって、いい気になっていた男だ!そもそもあれは私の一族で分家の跡取りだ!私の幸せのために何でもする義務があるし、私が結婚しないエミリオのために伴侶を選んでやったのだ!家長として当然のことをしてやったまでだ!」

ごめんなさい……エミリオ分隊長。俺がなんとはなしに分隊長のことをカッコいいと言ったばっかりに、身売りをされるはめになってしまって。
それに分隊長はいい気になんてなっていません。

「もういいです……この三ヶ月、隊長にやっと言語が通じるようになったと思っていた俺が馬鹿でした。隊長がカッコよく、常識的に見えるのも当たり前でしたよね。だって台詞を読んでいるだけなんですから」

台本があったんだもんな……『隊長に頑張ってカッコ良くなってもらってエルウィンとエッチをしてもらうための大作戦』という台本が。

「違うんだ!台本を読んでいただけじゃない!毎日毎日血反吐を吐くほど、練習したんだ!カッコよく見えるように何度も何度も!この私が『隊長、演技が下手です!』『そこではまだ勃起してはいけません』『エルウィンがYESっていうまでひたすら待つんです』と部下に怒られながら!」

否定するところは、そこなんだろうか……

「……だから、もう良いって言っているでしょう!国王陛下のご要望どおり、第二王子も生まれることですし、王家としては安泰でしょう。ですが、陛下に言っておいて下さい……第三王子は何があっても有り得ないと!!!」

「そ、そんな……エルウィンはエルウィンに良く似た私の子を産んでくれるといったではないか!約束したのに!!」

泣き崩れる隊長を見ながら、やっぱりカッコよくないと思った。本物の隊長がカッコいいはずないんだ……短い夢だったな。

「この子が俺に似ているかもしれないですし。似ていなくても、二度と!隊長と子作りはしません!!!!!!!」

俺は身に染みて分かっていた。俺は変態製造機メーカーだと……このまままた拒否すれば、カッコいい隊長どころか、変態隊長しか出来上がらないのだろうと。

それが分かっていても、もう二度と隊長とエッチはしない。

そう泣き崩れる隊長を見ながら誓ったのだった。


END
オチです!皆様に期待されていた隊長のオチです!
皆様からカッコいいと言われていた隊長。はい、一部の人に言われていた、エルとHがしたいがためだけの国を巻き込んだ壮大なヤラセでした。
アンケートでご協力いただいた結果の、この話です。
楽しんでいただけたら嬉しいですw
一応エンドマークをつけましたが、番外編とかもそのうち書くかもです。
何か感想があったら喜びます♪



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