「では、どうすれば良いのでしょうか?……ここで休んでいれば、持ち直しますか?」

「さあ、分からん。このような事体は私も初めてだからな……」

俺たちの国には魔力阻害症の人間は存在しない。隊長やユーリ隊長のように、非常に貴重である家系でしか生まれないような、特異魔法を持つ人は存在する。
隊長の特異魔法などは、当然機密扱いで詳細は不明だ。そんな特異体質同士がぶつかり合って、どんな弊害が生まれるか分からないのも当たり前だろう。

「……まさか」

死んだりはしませんよね?と問いかけようと思った口を閉ざした。そんな縁起でもないことを口にしたら、それが本当になってしまうのを恐れてだ。
今の隊長は蒼白で、吐血までしている状態なのだ。楽観視などとてもできなかった。

「部隊の連中を密かにこの国に潜り込ませてある……上手く合流できれば、なんとかなるだろう。軍医もいるしな」

俺も治癒魔法を使うことは出来る。だが医者ではない。そこまで治癒魔法に長けているわけでもなければ、魔法で負った傷の治癒は特別な手当が必要なのだ。
今ここで俺が出来ることは何もない。

できれば早く仲間と合流したかった。俺一人だけでは、追っ手が追いついてきたら対応しきれないだろう。でも今の隊長では移動に耐えられるとは到底思えない。

「あまりに……無理をしすぎです。こんな無茶をして」

「他にお前たちを助けるすべを思いつけなかったんだ。許せ……」

「隊長は国王になられるんですよ?こんな無茶をして、許される立場じゃないのに……」

でも隊長は俺とルカを助けるために精一杯のことをしてくれた。見捨てられたって、国のことを思えば仕方がないと諦められるのに。たった一人で助けに来てくれたんだ。

「国と、エルウィンとでは……私にとってどちらが大事だか分かっているだろう?」

「……はい」

自惚れでもなくこの人にとっては、俺が一番大事なんだ。そして俺が産んだ子だからルカも愛してくれている。だからこそ俺は隊長が自分の立場も弁えず助けに来ることを危惧していたのだ。

「隊長!」

隊長が再び吐血をした。俺はただ血を拭ってあげるくらいしかできない。ここから移動させることもできないし、隊長とルカを置いて味方を呼びに行くこともできない。少なくても今動けるのは俺だけだ。大多数の追っ手では無理だが、1〜2人くらいなら、どうにかなるかもしれない。だから置いてはいけない。ただ早く味方が合流してくれるのを祈るしかなかった。

「ルカを連れてきてくれないか?」

「は、はい」

まるでこの世での別れのように息子を呼ぶので、涙が出そうになった。ルカはすやすや寝ていて、抱っこして隊長の横に連れてきてもよく眠っている。

「ルカは私に似ているな……」

「ええ……隊長にうり二つで。きっと魔力も凄いと思いますよ……隊長のように素晴らしい騎士になって、国王になってくれると思います」

「ルカが私に似ているときは残念に思ったが、それも私の子だと思えば、愛おしいと思えるんだ」

「はい……俺も、俺に似るよりも隊長に似たほうが、才覚に溢れて将来が期待できると思います。隊長に似てよかったなって何時も思うんです」

国王になるんだったら、当然俺に似るよりも隊長に似たほうがいいに決まっている。魔力に優れ、特異魔法を持っていて、剣に優れ、カリスマ性があって。真面目で人望があって。
俺に出会ったせいで変態になってしまった隊長だけど、隊長という人間自体は素晴らしい人なんだ。

「だが、エルウィンに良く似た息子も欲しかった」

「何で過去形で言うんですか!……これからだって、俺に似た子どもが生まれるかもしれないでしょう!?」

俺が怒ってそう言うと、隊長は苦笑した。俺が体を許してない時点で、俺似の息子が生まれる確率は0だ。できるわけない。

「エルウィン……私は、お前を無理矢理手に入れた」

「はい」

「どうしても欲しかったんだ。私は……恋をしたのは初めてで、どうやってエルウィンに好かれたら良いか分からなかった。だからやること為すことがエルウィンにとっては理不尽で、気に障って仕方がなかったのだろう。だが嫌われても、気持ち悪がられても、どうでも良かった。エルウィンと結婚したかったんだ」

ちゃんと分かっていたんだ。言葉が通じないかと思っていた。俺がどうして隊長を受け入れられないか、考えたこともないかと思っていた。やること為すこと無茶苦茶で、でも一生懸命だったのは俺だって分かっている。絆されてあげた方が良いのかと思ったときもあった。

でもどうしても最初に戻ってしまって、俺を騙すとか薬を盛るとか、地位があれば何でもやって良いと思っている隊長のことを思い出すと、どうしても嫌だった。

「今は……あの時に戻りたい。ちゃんと初めからやり直したい」

「隊長……」

「愛しているエルウィン……私と結婚してくれないか?」

何度もプロポーズをされた。俺の拒否なんか聞いてくれずに、毎日毎日部隊のみんなの前で申し込まれ、いたたまれなかった。

「はい、隊長……俺、俺似の子どもを生みます」

今日は拒否しようとは思わなかった。



*いよいよ!



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