そうかもしれないと、再び(豪華な)牢に閉じ込められてそう思った。
誰になんと言われようとも、隊長は来てしまうかもしれない……

「王太子妃さま、お待ちかねの旦那様だよ」

今度はきちんと牢番が置かれた扉をギルフォード王子が開けると、そこには隊長がいた。

「エルウィン!良かった無事なのか!」

「隊長!……どうして」

文句を言いたいことは山ほどあった。一国の王太子として軽はずみな真似を、と言いたくて、でもやっぱり来てしまったんだな。と思った。

「感動の再会だろうけど、隊長は明日処刑するから…それまで、短い間だけど最後の逢瀬を楽しんで」

王子は妖艶な笑みを浮かべて、扉を閉めた。隊長は俺の体に手を伸ばし、抱きしめてきた。今までこんなことをされれば文句を言っていたし、隊長も俺の許可をなく抱きしめたりすることもなかった。
でも、こんなときに触らないで下さいなんて言える訳はない。
隊長は自分の命の危険を分かっていて、ギルフォード王子の呼びかけに応じたのだ。俺とルカのために、ここまでやってきたのだ。そんな隊長に抱きしめられて、拒絶できるはずはない。
俺も隊長を抱きしめ返して、どうして?と聞いた。

「隊長……ギルフォード王子は隊長を処刑するって言ったでしょう?隊長も分かっていたんでしょう?なのにどうして!」

「エルウィン……お前を助けに来て、きっと怒られるだろうと思っていた。だが……エルウィンにとっては不本意だろうが、私はエルウィンの夫で、ルカの父親だ」

「はい…」

「夫の私が妻子を見捨てることなどできるか?エルウィンを愛し、結婚したときから、私は一生エルウィンを守って添い遂げると誓ったはずだ。なら、どうして私がエルウィンを見捨てることができる?エルウィンを失えば、私は生きている意味などないのに」

更に力を強めて隊長は抱きしめてきた。痛いです、と呟けば、そっと手を離しソファに座らせ肩を抱いてきた。それも拒否しようとは思わなかった。こんな状況で隊長の体温を心地よく感じられたからだ。

「隊長は王太子ですよ?……隊長は処刑されれば、せっかく決まった王太子の座は?軍事力だって半減しますよ!」

「私が無事で帰れなければユーリにあとを頼んできた。もともと王太子の座は私でもユーリでもどちらでも良かったんだ。ルカが無事に帰れればユーリが後見人となって、ルカが王太子になるだろう……私がいなくてもなんとかまわるはずだ」

「そうかもしれません……けど!」

「私はエルウィンのために死ねるんだったら、命など惜しくはない」

「だったら明日大人しく処刑されるんですか?!……隊長ほどの魔力があるんだったら、一人でも脱出できるんじゃありませんか?」

「……そうだな。私も、一人でも勝算があってやってきたつもりだった。これでも、エルウィンに恨まれるような役割はごめんだからな……私一人でも充分、エルとルカを救出して国に戻れると思っていたのだが。そうでなければ、いくらユーリにあとを頼んだとしても、私を一人で旅立たせてはくれなかっただろう」

隊長の魔力はすさまじく、国で1,2を争う存在だ。唯一匹敵する魔力の持ち主は弟のユーリ隊長だが、純粋な攻撃力に限っていえば、隊長が抜きん出ているだろう。
普通なら隊長一人で一国の軍隊匹敵するほどの魔力を持つ。だからこそ、勝算はあると一人で乗り込んでこれたのだろう。

「ここでは頼みの綱の魔力が使えない……剣だけでは、流石の私も何十人も相手にするのは難しい」

「……そうでした。ここでは何故か、魔力が使えないんです。俺もエミリオ隊長も駄目でした。やはり隊長も使えないんですか?」

「ああ……あのギルフォード王子がいては駄目だろう。噂でしか知らなかったが、王子は魔力阻害症らしい。聞いたことはあるか?魔力阻害症として生まれた子は、魔力を持って生まれてこない代わりに、存在するだけで魔力を阻害する働きをする。王子の側にいては、一切の魔力が使えない」

「なら……援軍はないんですか?第一部隊を動かしたりはっ!?」

「無理だ。ここはリエラだぞ……軍を動かしては戦争になる。勿論私の妻子をこんな目にあわせたのだ。戦争になってリエラを滅ぼすことぐらい容易い。だが、エルウィンたちが人質になっている今、軍を動かせばエルウィンの命はなかっただろう。私は一人でここにくる選択肢しかなかった」

隊長の魔力は使えない。援軍もない。敵国で何の支援もなく、隊長には足手まといにしかならない俺とルカしかいない。
これでは明日、本当に処刑されるしかなくなってしまう。

「安心しろ……エルウィン。私がどんなことをしても、エルウィンとルカだけは必ず助けると誓う。だから、そんな顔をするな」

俺の顔は、酷いものだっただろう。当たり前だ。歯を食いしばって泣くまいとはしているが、この状況で楽観視できることなど何もない。
すぐ明日に隊長は処刑されることになっていて、上手く助かっても俺とルカの命だけということになっている。
あのギルフォード王子は約束を守るとも限らないし、下手をしたら皆殺される可能性だってなくはない。
戦争を有利に進めるために、ルカは人質として残される可能性だって充分に考えられる。

「ルカは……」

「ルカの居所が分かれば、なんとか脱出を考えるんだがな。どこにいるか分からなかった……王子は明日会わせてくれるそうだ。私の処刑の時にな……大丈夫だ、助けると約束しただろう?」

もう寝ようと言われた。明日に備えて体力を残しておいて欲しいと、牢には相応しくない豪華なベッドが用意されている。そこに横たえられて、隊長も一緒に横になった。

ルカを助けるってどうやって?魔法も使えないのに、どうやって俺たちだけでも助けるって言えるのか?って、問いただしたかった。

でも明日確実に処刑されるのが決まっている隊長に、そんな酷いことを言えるわけなかった。こんな所まで助けに来てくれたのに。

一人で夜を明かさずにすんで……隊長がこうして一緒にいてくれて、酷く安心する気持ちは否定できない。こんな絶望的な状況なのに、隊長ならなんとかしてくれる、そんな絶対的な信頼が何故かあった。

初めて見た隊長は、古代魔物を相手に一歩も引かずに倒した。あの時から、隊長は変態だけど、誰にも負けない強い男だという絶対的な思いがあった。
あの時から俺はずっと隊長に憧れていた。結婚してからそんな隊長は破壊されたが、今日の隊長はあの頃の隊長を彷彿させた。

何時もだったら同じベッドに入ったら物欲しそうな顔で俺を見てくるのに、今日はただ俺を安心させるように抱きしめてくるだけでそんな気は微塵も感じさせなかった。

最後の夜になるかもしれない今日だったら、応じたのに。抱きたいというなら、何でもさせたのに。





- 40 -
  back  






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -