分隊長が連れられていって数時間が経っている。その間に想像もつかなかったことになっていた。ギルフォード王子は隊長のことが好きだったはずなのに、どうしてエミリオ分隊長と。混乱していたが気づかれるような真似はしていない。

「王太子妃さま、そんなところで覗いていないで入ってきたらどうかな?」

「分隊長に何をした?」

気がつかれたことよりも、ギルフォード王子が分隊長に何をしたかが気になった。近くで見るとただ全裸になっているだけではないことが良く分かった。ムッとする様な性の匂いがこの部屋に充満していて、そして分隊長の肌には明らかに故意に付けられた痣がたくさん残っていた。いわゆるキスマークや噛み跡だ。たった2回だが俺もつけられたことがあるので、どう見てもエミリオ分隊長は無事ではなかった。

「目当ては隊長じゃなかったのか?俺や隊長はともかく、エミリオ分隊長は護衛の任務についていただけで、無関係なのに!よくもこんな目に!……あんたの国じゃどうだか知らないが、俺たちは好きになった人としか抱き合ったりはしないんだ。一生一人だけって決まっているのに……」

死別したら場合によっては再婚することもあるが、そうでない限り一生離婚もせずに添い遂げるのが当たり前なのだ。一生一人とだけ愛し合う。
可哀想だが、性的被害にあった場合は結婚は諦めるしかないという風潮だ。例え周りに知られなかったとしても、エミリオ隊長は一生誰とも結婚できないだろうし、しないだろう。

「分かっているよ……だから、隊長もそうなんだろうってことは。ここで君を殺しても、隊長はきっと僕を恨むだけで絶対に王妃にはしてくれないだろうね。王太子妃がいなくなってももう跡継ぎはいるのだから、無理に再婚する必要もないしね。それに君を人質にとって王妃にしろと要求したところで、隊長が手に入るとも思えない」

「分かっているんだったら無駄なことだって分かっているだろ?ルカを返して、分隊長と一緒に俺たちを国に帰してくれ。今だったら……それほど騒ぎにはならない…かもしれない」

勿論国家問題になることは間違いない。でも3人のうちの誰かに危害を加えられていない今だったら……分隊長はもう汚されてしまったが、それでも今だったらなんらかの妥協点は見出せるかもしれない。

「もう、僕が降りればすむ問題じゃなくなっているのは分かっているだろう?ここで君たちを帰したところで、無事に済むわけないだろう。もうリエラはこの国を剣を交えても良い覚悟で事を起こしたんだ」

ギルフォード王子の暴走だけだったら、もっと簡単に済んだかもしれない。だけどこれがリエラの総意だとなると、簡単には行かないだろう。
最悪俺たち3人の命はない。

今なら分かる。国王陛下が王子一人だけでは不安だといっていたのも。こんな事態に巻き込まれる恐れがあるから、複数王位継承者を用意しておきたいのだろう。

「でも、安心しなよ。欲しいのは僕を袖にした隊長の命だ。ちゃんと隊長が助けに来てくれて、命乞いをするなら君たち3人は無事に帰して上げるから。あ、エミリオは駄目だ。僕、エミリオのこと気に入ったからね」

ふふ、と妖艶に微笑んだ王子に、普通だったら見ほれるだろうが、俺には悪寒しか感じなかった。

「エミリオ分隊長は関係ないじゃないか!……それに、隊長のこと好きだったんだろう?何で隊長の命を狙うんだ!」

「まあ、手に入らないなら、殺そう?ってことかな。こんなに侮辱されたのは初めてだし。本国との事情も一致したしね。あの国を侵略しようにも、軍の力が強いしね。特に、隊長は一人で一万人の武力に匹敵するらしいから。隊長を殺すだけで、随分楽になるらしいんだよね。だから、死んでもらおうかなって……奥さんが大事だったら一人で来てくれるだろうしね。もし来なければ、愛するお妃は死んじゃうから、どっちに転んでも隊長が苦しんでもらうことになるから、僕としてはどっちでも良いけどね」

王太子としては、いくら妃と息子が誘拐されても、脅迫に屈してはいけないと分かっているだろう。周囲のものも止めるだろう。
俺とルカは代わりはきく存在だ。例え殺されても、隊長さえその気があるのならすぐにでも代わりの妻を娶ってくれれば、一年後には子どもも生まれているということだって有り得る。
しかし、隊長の代わりはいない。隊長しか使用できない魔法もあり、隊長一人だけで一国の軍を破壊することも出来るほどの男だ。将来の国王として、大事な妻子といえども見捨てることも覚悟をしなければならない時もあるのだ。

密かに部隊が救出に来るならともかく、王子の脅迫で隊長だけがのこのことやってくるなど、余りにも愚かなことだ。だけど、隊長は俺やルカを見捨てる選択をしてくれるのだろうかと、王子を見ながら不安になった。

「来ないと思っているの?……ああ、来て欲しくないんだよね。でも、僕は絶対に隊長は来ると思うよ」






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