とにかく、隊長が王位を継ぐってことでこれまでお世話になった公爵邸から、王城に移らなければならなくなったので、忙しくなるため隊長の相手をしている暇は正直ない。
この分だともう部隊に戻ることは出来ないんだろうなって思う。18歳で入隊して半年で隊長と結婚しちゃったからなあ。同期でまだ結婚しているやつはいない。いないのに、余計な口挟んでくるんだよな。

王城に住まいを移したら、たくさん俺も教育受けないといけないし。王妃は政治に関わることはないけど、社交の場ってものもあるし。公爵家にいた頃のようにそうそう自由には出来ないだろう。

今の王妃様から譲られた王妃の間に、引越しの荷物を運んでもらっている。王妃様は珍しく女性だったから、王妃の間も女性っぽい可愛らしい感じだったが、俺が好むように変えてくれるらしい。こんな豪華な部屋いらないんだけど、いい機会だから王妃様は離宮に引っ越すらしい。

俺は未来の王妃様らしいから、引越しのお手伝いもさせてくれないので、ルカと一緒に庭園を散歩していた。まだルカは歩けないので、抱っこをして側には護衛の騎士がいる。


「やあ、久しぶりだね」

庭園でお茶を飲んでいると、庭の花々よりももっと美しい男性が現れた。一目見たら忘れようがない美貌の青年だった。久しぶりといわれたが、俺には見覚えがない。一応軍人なので一回見たら俺は顔を忘れないし、この美貌の青年は誰が見たって忘れるはずはないだろう。

「お久しぶりです。王子殿下」

護衛についてくれた分隊長のエミリオ様が、王子と呼んだ青年にそう返答をしていた。

「エルウィン様、こちらは隣国リエラの第4王子ギルフォード殿下です。大使としてこちらに赴任されています」

エミリオ様も王家の遠縁なので、こういうことに詳しいのだろう。隊長と同じように上司だった人に様をつけられて呼ばれるのは慣れないが、次期王妃に向かって隣国の王子の前で呼び捨てには出来ないだろうことは分かっている。

「はじめまして、ギルフォード殿下。エルウィンと申します」

「お会いできて光栄です、王太子妃殿下。あの堅物だった隊長が結婚した方と一度お会いしてみたかったんですよ……僕は何度も隊長に求婚を断られていたので」

「……そ、そうですか」

隊長もなんでこんな美人を袖にしたんだ。隣国の王子だったら男爵家の三男よりもずっと条件が良いだろうし。

「でも、僕は諦める気はないから。ずっと好きだったから、絶対に結婚して僕のものにしてみせる」

そうしたいんだったらそうしてくれてもぜんぜん構わないが、いかんせんこの国の結婚システムでは無理だ。
離婚は基本的に出来ないし、リエラのように一夫多妻制でもない。

「勿論、僕は愛する人を誰かと分かち合うことなんかしない。僕だけの物にするつもりですよ」

ニコリと笑うと優雅に去っていった。

「分隊長……あれって俺、宣戦布告されたとかですか?」

「気にするな……ギルフォード王子は、物凄く粘着質だが……何をしでかすか分からない性格だが……私が守るから心配しないでくれ」

どうやらエミリオ分隊長は王子と面識があるだけではなく、よく見知った間柄のようだ。

「分隊長……」

エミリオ分隊長は部内でNO.3で現在産休中のクライス副隊長の代理をしている。すらりとした長身で、凛々しい容貌をしていて、俺の今一番憧れの人でもある。隊長よりもユーリ隊長のほうがマシだっていったけど、もし俺が男性の中で結婚したいと選ぶならエミリオ分隊長だろう。でも、クライス副隊長も捨てがたい。

「エミリオ分隊長ってカッコいいですよね」

王妃の間が俺仕様に整えられて、ベッドで横になりながらそういうと隊長はこの世の終わりというような目で俺を見てきた。

「ユーリの次はエミリオか!?どうして私では駄目で、他の男ばかり褒めるんだ!こんなに私はエルウィンのことを愛しているというのに!」

「ギルフォード王子もとても美しい方ですね」

「ギルフォード王子?……ああ、大使か。そうだったか?私にはエルウィン以外誰も美しいと思ったことがない!は?まさか、エミリオやユーリだけではなく、大使にまで興味が出てきたのか?!何故だ!?男には興味がなかったはずだろう?なのに、私以外の男に何故そんなに好意を抱くんだ!!!」

「いや、俺ではなくって……ギルフォード王子からの求婚をお断りになったそうですね?あんなに綺麗な方見たのは俺初めてですよ。もったいないとは思わなかったんですか?」

いや、俺の周りって美形ばかりだけどな。隊長も顔は悪くないし、弟のユーリ隊長ももう少し柔和な感じだが良く似た兄弟だし。
クライス様もギルフォード王子に引けは取らないと思うけど、あそこまで妖艶な感じじゃない。クールで男らしい性格だし。
エミリオ分隊長も凛々しくて素敵だ。
ただ王子は妖艶というか色っぽいというか、物凄く性的アピールが凄い感じがする。

「陛下が乗り気ではなかったらしい。まあ、私はほとんど興味がなくて知らんが……」

物凄くどうでもいい顔をされた。本当に隊長って自惚れでもなくて俺だけのことが好きなんだよなあ。もっと他の人を選べば、幸せになれたんだろうと思うと、ちょっと隊長が哀れに思えてくる。
俺は被害者のほうなんだけど、俺のやることに一喜一憂する隊長を見ていると、申し訳なさが出てくるのも確かなんだ。
俺さえ、隊長に優しくなれれば、受け入れてあげれば、色んなところで丸く収まるんだろうということも分かっている。
クライス様みたいに根性が座っていればなあ。
なんかさあ、俺今ベッドに横になっているんだから、有無を言わさずやれば良いのにって、何度思ったことか。

「エルウィン……私がエルウィンの意思を無視して、強引に結婚してしまったことは悪かったと思っている。私は……人を好きになったのがエルウィンが初めてで、どうやって手に入れたら良いか分からなかったんだ。おまけに異性愛者で私と愛し合うのは苦痛かもしれない……しかし、他の男を好きになるのは耐えられないんだ!……できれば私を好きになれるように努力して欲しい。私もエルウィンに愛されるように努力をするから」

「隊長……」

こんな真剣にまともなことを言うなんて一体どうしたんだろうか。強引に結婚したことは真剣に悪いと思ってくれていたのだろうか。

「……別に他の男性もカッコいいと思うだけで、恋愛的な意味で好きになったりはしませんよ。一応、隊長って言う旦那様がいるんですし」

正直、俺が一番カッコいいと思った男って、隊長なんだけどな……今は見る影もないけど、今の真剣な表情は、かつての面影があった。

こうして真面目な事を言っていると、悪くないって思うんだけど、トキメキは感じない。トキメクのは女の子にだけだ。

俺のほうが少数派というか絶滅派なのは分かっているけど。大抵、男だけを好きか、両方とも大丈夫という人が大半で、女性しか駄目というのは滅多にいない。俺も男性を好きになれたら、隊長と幸せになれていたかもしれないのに。

だけど、隊長が好きになれないからといって、他の人と浮気などするわけはない。死刑うんぬんの前に、これでも隊長と生涯を誓った身なので、そんな不義理な真似はできないからだ。

「ならエルウィン……どんなに時間がかかっても、私のことを好きにさせてみせるから、待っていてくれ」

「はい……」

そうなれたらいいなとは思うので、素直に頷いた。最近言動がまともなことが多いなと思いながら。



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