皆知っているなんて嘘だろう?と思っていたけど、本当に皆知っていた。部隊中のやつらが知っていて、当然俺と隊長はすぐに結婚すると思っていた。
これがこの国の常識であり、婚前交渉という事実がある以上、一刻も早く結婚しないといけないのだ。だから明日にも、いや今日にも結婚するんだろう?と口々に言われたが、俺は結婚するつもりはないと言った。
いくら常識だからと言って、愛してもいない男を夫にはしたくない。この国では浮気などもっての他どころか死刑であり、離婚もできない。ここで言うなりになって結婚してしまえば、もう俺の未来はないも同然だった。
だからどんなに非常識と罵られようと、結婚しないと言い張った。婚前交渉=結婚という図式はあっても、結婚を無理強いすることは国王でも出来ないので、俺が嫌だと言い張っている限り無理なのだ。
だが隊長は責任を取って結婚すると言っているので、非難は俺だけに向けられた。隊長が責められなくて良かったと思いつつも、皆から後ろ指を刺され村八分になれているので、俺の精神状態は最悪だった。
胃が痛く、食欲もなく、食べてもすぐに吐いてしまう。完全なストレス性胃炎だろう。

「大丈夫か?エルウィン……ずいぶん体調が悪そうだ」

「副隊長っ!?あ、はい!大丈夫です。何でもありません!」

まさか皆から無視されて悪口言われて、それで胃を悪くしたなんて兵士にあるまじきことを副隊長に言えるはずがない。

「分かっている……隊長もずいぶん大人気ない事をするな。あいつなら、この騒動を治めることなど容易いだろうに、エルウィンを辛い目に合わせて平然としているなんて。それが惚れた子にする仕打ちか」

確かに隊長の権力があればあの夜のことなんてなかったことにすることは容易い。だけどこんな目にあうとわかっていてそうしたんだから、自業自得だ。

「隊長と結婚すればこんな面倒ごとからは解放されるぞ?」

「分かってます……でも俺は嫌なんです」

「まあ、気持ちは分からないでもないがな。気持ちがなくして結婚しても幸せではないからな……」

「副隊長…」

誰も分かってくれない俺の気持ちを分かってくれた。でも副隊長はちゃんと結婚して子どもまでいたはず。俺と同じように婚前交渉の末だって聞いている。俺と同じように望まない結婚を強いられたのだろうか?

「とりあえず医者に診てもらえ。余り思いつめるな」

「はい、副隊長。ありがとうございます」

俺は胃をさすりながら医務室へと向かった。胃薬をもらえればこの胃痛が少しは楽になるだろうと思って。

まさか驚愕の事実を叩き付けられるとは思ってもいなかった。




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