俺は混乱していた。
昨日は部隊の宴会で、確かにかなり酒を飲んだ記憶はある。しかし俺はかなり酒に強いし、滅多に酔わないはずだった。
なのに……
全裸の上司と、全裸の俺とが同じベットの中にいるとはどういうことなのだろうか?
酔っ払って服を脱いだだけ?
そう思いたい……しかし、俺の体中に散らばるキスマークと思われる跡と、物凄く違和感があるお尻と、謎の液体が全てを物語っているような気もして、現実逃避も中々難しかった。
しかし事実を解明するのを諦めて逃走しようにも、全裸の男が俺をガッチリ力とホールドしていて無理だった。
何せ、自分はただの下っ端兵士で、上司は部隊長なのだ。力の差は言うまでもない。

「ああ、起きたのか。おはよう」

「お、お、おはようございます……隊長」

隊長は起きたが、まだ俺を離してくれない。背後からホールドされているので、隊長がどんな表情をしているか分からなくて助かったが、俺の動揺は収まらないどころか上昇している。

分かる。この尻の違和感はまだ何か入っている。その正体は……隊長が起きると、違和感も上昇したのだ。

「あ、あ、あの。隊長!」

抜いてください!と言いたいが、それを言うと、今の状況を認めることになりそうで、とても言えなかった。言わなかったからと言って事態が良くなるはずもなく、むしろ悪化するのだが、下っ端の俺が隊長にその下半身のものを抜いて下さいなんていえるはずがなかった。

「何だ?また可愛がって欲しいのか?昨夜はあれだけ欲しがったのに、ずいぶんと欲張りだな?エルウィン。だが構わん、いくらでもくれてやろう」

「ひっ!ち、違います!お、俺、昨日の事何も覚えてなくて!……隊長に失礼な事をしたのなら謝りますので、どうかなかったことにして下さい!」

欲しがった?何のことだが本当に俺には分からないが、隊長と関係してしまった事実は変えられそうもないので、どうか忘れて欲しいと半泣きになりながら懇願したが、隊長の俺の言葉にかなり気分を害したようで、いつも訓練の時に怒鳴り散らすのと同じ声で、何だと?と言った。

「ひうっ!」

隊長と一体化していたものを強引に抜かれ思わず変な声が出た。それと同時に後口からあふれ出す謎の液体が太ももまで垂れてきた。しかし隊長はそんな感触に震える俺の体勢を強引に変えると、隊長の逞しい体の上に引き上げられた。
隊長の怒った顔を見て、さらに怯んだ。こ、怖い。

「エルウィン、まさかあれだけ愛し合ったことを覚えていないだと?お前から私の事を愛していると言って、私に抱いて欲しい、処女を貰ってくださいと言ってきたのはお前の方だ。私に全部を捧げたいと可愛らしく強請ってきて、結婚するまでそんなことはできないと言った私に、お嫁さんにして下さいとまで言って結ばれたと言うのにか?」

いや、そんなの嘘です!いくら覚えていないからと言って、自分が普段想像もしていないことを酔ったからと言って言うはずがないでしょう?
俺は男に抱かれたいと思ったことはなく一度もない。同性同士の結婚が異性同士の結婚よりも多いこの国で、珍しい生粋の異性愛者なのだ。隊長のことは男として憧れているが、性欲の対象外であり、男に処女を捧げたいなどと、そんな乙女なことを妄想するわけもなく。
だから分かる。隊長の言っていることは1〜100まで全部嘘だ。

しかし何度も言うが、俺は下っ端兵士であり、隊長は1000人の兵士のトップであり、国で1,2を争う名家の出だ。なんと王位継承権まで持ってらっしゃるのだ。
そんな隊長が黒だと言ったら黒になるのだ。
だから俺が処女を捧げたいと言ったと、隊長が言えば、そうなってしまうのだ。反論できない俺のチキンハートを笑ってくれ。

「そ、そのたぶん酔っていたのでしょう。だから忘れて下さい」

「ではエルウィン、お前は私に処女を奪ったのに責任を取らない、無責任な男に成り下がれと言うのか?王に剣を捧げた騎士であるこの私にそんな生き恥を晒せと?」

「いえ、そんなつもりは毛頭なく!……別に言いふらさなければ、誰も知りませんし。だから隊長の恥にはならないかと……」

この国では婚前交渉はもっての他と言われるほど性に厳しい戒律のある国だ。
姦通を犯せば死刑だし、隊長の言うように結婚前に性交渉を持ってしまったら責任をとってすぐに結婚しないと、周りから非難を受けることになる。ここでいう処女を捧げた俺は隊長の結婚しないと村八分にされるだろうし、隊長も騎士に相応しくないと降格させられるほどの事件と言っても過言ではない。
しかし、露見しなければ……実際、貴族の中では身分に相応しくない相手と性交渉に及んでしまった場合、金でもみ消してしまう場合も少なくないらしい。

「部隊のものは全て知っていると言ってもか?」

「ええ!!??何でですか?」

「お前の声が大きかったし、私がお前をこの部屋に連れ込んだのを皆見ている。隠したところで隠しきれるものではない。大人しく私と結婚をしろ」

「む、無理です!無理です!無理です!」

理由はたくさんある。
まず身分違いだ!隊長は公爵家の跡取り息子で、王様にこのまま王女しか生まれなかったら次の国王になる可能性すらある人だ。俺が王妃なんてありえないだろ!俺の家は貧乏男爵家で、しがない三男でしかない。
それに俺は異性愛者で、男には何の興味もなく、当然隊長のことなどそういう意味で好きでもなんでもない。
だからどれを取っても、隊長と結婚できるはずがない。
俺は決死の覚悟で、下に散らばった服を取って全裸で逃げ出した。隊長も全裸だったのですぐには追って来れない。
だれが見ていたって、昨夜の事を知っていたって、それが何だと言うんだ。とにかく逃げるしか俺は思いつかなかった。



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