「兄さん、今日の合同……」
「ああ、ユーリか、どうした?」
俺は言葉を詰まらせ、兄の隣にいる男性に目を奪われた。
「クライス、紹介しよう。弟のユーリだ。第三部隊の隊長をしている。ユーリ、クライスだ。私の副官をしてくれる、新しい副隊長だ」
よろしくお願いしますと微笑む顔を見て、俺は分かった。彼は俺の妻になる人だと。
俺は兄と同様あまり結婚には興味がなかった。いずれはしないといけないとは分かっていたが、それは兄よりも先ではない。兄は国王になる人だし、俺もいずれは公爵家を継ぐかもしれない。だから後継者は必要だが、兄よりも先に設けるのも問題だったので、婚約もしていなかった。
兄が結婚した後に、適当な相手と結婚すれば良いと思っていた。
俺は今まで人を好きになったことがなかった。だからこの先もそんな人は現れないと思っていた。
でも、違ったんだ。これまで人を好きにならなかったのは、クライスのためだったんだと分かった。
「あの!……俺とデートをしてくださいっ!」
「え?……」
ああ、行き成りすぎるだろう!もっと親しくなってから、誘うべきだろう!
でも止まらなかった。早くクライスを手に入れたくて仕方がなかったんだ。サラサラの銀色の髪に触れたい。あの唇にキスをしたい。
「すいません、お断りをします」
断られても断られても諦められなかった。
クライスは侯爵家の次男で家柄も良い。誰も反対はしない。魔力も申し分なく、容姿は文句なく美しい。副隊長に任命されるほどだ、その実力も申し分ない。どんな縁組も望めるはずだ。王妃にだってなれるだろう。
そんなクライスにとって、俺との結婚は悪い話ではないはずだ。この国で、兄を除いて俺が最も良縁な縁組だと自惚れでもなく思っている。兄が結婚しないままなら俺に国王の座がまわってくるだろうし、そうでなければ公爵家を継ぐことになる。
勿論俺はクライスの家柄やその他もろもろで、公爵家に相応しいから申し込んだわけではない。平民だったとしたって構わない。奴隷だったとしても結婚してみせただろう。でも、これほど相応しい結婚になるというのに、クライスはどこまでも俺を拒絶した。
「どうしてです?何も今すぐ結婚して欲しいって言っているわけじゃないんです」
勿論今すぐ結婚したい。すぐにでもクライスと結婚して、全部を俺のものにしたかった。でも俺だって順序ってものは分かっている。だからデートから申し込んだ。この国では遊びで付き合うなんて人はいない。デートの申し込みですら結婚前提だ。
「俺のことを知って、好きになって欲しいんです!」
「ごめん……できない」
「どうしてですか?!俺の何が駄目なんです?」
結婚まで手を出すつもりはなかった。純潔のままのクライスと結婚したい。俺はどうでも良いけど、クライスが後ろ指をさされるような真似はできない。その一心で目の前の愛する人を、大事に大事にしていた。
中には衝動的に婚前交渉に及んでしまうカップルもいるというのにだ。
「……真剣に申し込まれているのは分かっています。でも、俺には無理です」
「だから、どうしてかって!」
「たぶん、俺はあなたのことを世界で一番好きになれないと思います」
好きになれなかったにしても、何故世界で一番なんだと、愛するクライスでも怒鳴りつけたかった。こんなに俺はクライスを愛しているのに、そのクライスは俺のことをこの世で最も嫌いだとでも言うのか?そこまで言われるようなことを俺はしただろうか?
「……何故?何故俺が?どうしてなんですか?!」
「好きな人がいるんです……俺が好きなのは、貴方のお兄さんなんです……貴方は隊長に良く似ている」
昔から良く似た兄弟だと言われてきた。別に何とも思わなかった。兄弟だから似て当然だと思っていたし、それほど自分の容貌に興味はなかった。兄弟も仲が良く、兄のことを尊敬していた。
だが、この日俺は自分の顔を嫌いになったし、兄のことも嫌いになった。
「……良く似ているんだったら、兄の代わりに好きになってくれてもいいんじゃないんですか?」
兄は結婚する気はないのだ。
「兄さんは、クライスと結婚する気はないはずだ」
どんな縁談が持ち込まれても興味がないと断っていた。だから最近では両親も陛下も半分諦めていて、俺に期待をするようになってきていた。
「分かっている……別に、俺は隊長となんて、何の期待もしていない……ただ、好きなだけだ。隊長にも、誰にも言うつもりはなかった。だけど、ユーリ隊長があんまり真剣だから、言わないと諦めてくれないと思って。俺は一生誰とも結婚をするつもりはないし、このままでユーリ隊長も中途半端なまま時間だけ過ぎていくのも悪いと思って言ったんだ。だから、誰にも言わないで欲しい」
あの兄に貞潔でも誓ったつもりで、一生結婚するつもりはないとでも言うのか?
「身代わりだって良い!兄さんと俺が似ているんだったらっ……俺と結婚してくれ!」
兄の代わりだって思われたっていい。切欠はそれでも構わない。
長い年月がかかっても、俺の愛に絶対にクライスは答えてくれるようになるはずだ。だってこんなに愛しているんだから。
身代わりにしてくれと頼む俺にクライスは哀れむような顔をしてきた。
「ごめん……できない。俺はずっと一人で過ごそうと思う。例え、結婚したとしても、それは貴方だけはありえないと思うから」
どれだけ頼んでも、何を言っても拒絶された。
俺は城に戻り、クライスのことを考えた。
クライスは兄のことが好きで、報われないことは分かっている。分かっていてずっと側にいて一生一人で過ごす気なのだ。兄を思い続けて……。
今は兄は結婚にも、何も興味はない。だけど、このままいれば、そのうちにクライスの愛に気がつくかもしれない。美しいクライスを愛するようになるかもしれない。
そんなことにならなくても、周囲に結婚するように言われ、面倒になり頷くかもしれない。そんな時に気心の知れた副官と結婚しようと思うかもしれない。
そうしたら、どうなるのか?俺こそがクライスを思って一生独身で、兄とクライスが結婚し、同じ城で暮らし、兄に抱かれているクライスをただ見ているだけなのだろうか?
兄だけを思って生きているクライスは綺麗だ。だけど、そのクライスが兄に抱かれる?兄のものになる?
有り得ない、許せない。
クライスを不幸にはしたくなかった。誰からも祝福されてクライスと結婚したかった。クライスを穢そうだなんて思ったこともなかった。
ただ、愛したかった。愛されたかった。
とんとん、とドアをノックする音が廊下に響いた。
クライスが不思議そうな顔でドアを開けた。官舎のクライスの部屋は副隊長という地位になるので、一般とは比べ物にならないほど広い。防音もしっかりしている。
「クライス……俺ね、昨日ずっと眠れなかったんだ」
昨日しつこいほど振ったというのに、性懲りもなく現れた俺をきっとクライスは面倒だと思っているだろう。だけど俺は今までずっとクライスに対して真摯だった。なので特に警戒もせずにドアを開けてくれたんだと思う。
「兄さんがクライスを抱く姿ばっかり思い浮かぶんだ。クライスは兄さんの腕の中で幸せそうにしていて……酷いシーンばっかりしか想像できなくって、ずっと眠れないままだったんだ」
「……馬鹿馬鹿しい。そんなこと起こるはずもないのに」
「そうかもしれない。でも頭の中を離れないんだ……クライス、助けて」
兄とは結婚しないかもしれない。一生誰のものにもならないかもしれない。でも、俺のものにだけは決してならないと言った。他の誰かと結婚するかもしれない。
「助けてって……俺にどうしろとでも」
「俺のものになって?」
承諾を勿論得ていないまま、クライスを部屋の中に連れ込み、反論を言う時間を与えないままベッドに引き倒した。
「俺のものになってくれて、俺に抱かれてくれたら、兄さんに抱かれるクライスの夢はもう見ないと思うんだ。ね、だから俺に抱かれて?」
懇願をしているが、クライスの肯定など必要なかった。どうせ嫌だと言われるに決まっている。
可愛そうなくらい混乱してどうしてこんなことになっているのか、きっとクライスは理解できていないだろう。昨日まで指一本触れてこなかった男がいきなり豹変して、襲い掛かってくるとはきっと思いもよらなかったのかもしれない。クライスの中ではひょっとしたらもう、俺のことは終わりになっていたかもしれない。
誰にも暴かれたことのないだろう、クライスの唇にそっと俺のそれを重ねた。驚いて息もできないクライスが可愛くて、愛おしくて堪らない。
初めて会った時から分かっていたよ。クライスは、俺のものになるんだって。それが合意なら素晴らしいだろうけど、もうどうでもいい。こうしてクライスが俺のものになってくれるのだったら。
「や、止めろ!何を考えている!……こんなことをして恥ずかしいとは思わないのか!」
「昨日までの俺だったら、そう思っただろうけど……今はクライスを手に入れるためなら、どんな卑劣なことをしたって、恥ずかしくも何とも感じないよ」
このままだと自分の貞操が危ういと感じたとか、ようやく混乱から立ち直ったのかクライスは無駄な抵抗をしようとする。
魔法を使って攻撃しようともしてきたし、それが適わないと今度はその体を使って逃げ出そうとしたけど、俺はこれでもこの国で1,2を争うほどの魔力の持ち主だよ。いくらクライスでも適うはずないのに。
「クライス……可愛いね。そんなに俺のものになりたくない?無駄な抵抗までして?頭のいいクライスなら分かるよね、どんなことをしても俺に勝てるわけないって。俺も優しくしたいんだから、お願いだから素直に抱かれて?」
そう懇願したが、別段このままクライスが抵抗し続けたって構わない。無理やり抱くだけのはなしだ。
「お前がっ!こんな男だなんて、思ってもいなかった!」
「うん、俺も思っていなかった」
魔力を使ってクライスを押さえつけて、自由になった両手でクライスの衣服をはいでいく。処女地に触れていくと、俺がクライスを穢していくのが、酷く興奮させた。だって俺がクライスの初めてで最後の男になれるんだ。初めては当然だが、最後もこのクライスの性格だ。俺に抱かれた後、他の男に身を任せるなんてことができるはずない。
俺の入る場所を傷つけないように丹念に解していく。クライスは俺を睨み付けていたが、それ以上のことは何も出来なかった。こんな一方的に蹂躙されることなどこれまでの人生でなかっただろう。クライスは何時でも支配するほうにいたはずだ。これが俺相手でなければ、負ける相手など兄くらいだったかもしれない。
「クライス、そのまま俺を見ていて」
睨んでいるクライスの目に欲情した。
「で、クライスが俺のものになる瞬間をその目に焼き付けて?」
痛いほど勃ちあがったものをクライスに見せ付け、思わず彼が目を背けると、再び魔力で固定して俺から目を逸らせないようにさせた。
「ほらっ、入っていくよ。これでクライスは俺のものだよ」
思わず声が上ずってしまったけれど、ずぶずぶと俺のものがクライスの中に挿入していくところを、クライスの膝を折りたたんで見えやすいようにしてあげた。
「触ってみて、ほら、凄いだろう?」
動かせないクライスの手を握って、結合しているその部位に手を這わせた。するとクライスの目から涙が零れ落ちた。ずっと俺のことを睨んでいたのに、泣き出すと子どもみたいになった。
「泣かないで、クライス。泣いても止めてあげれないよ……」
泣かれたくらいで止めれるんだったら、こんなことはしない。
「痛い?クライス処女だったもんね、仕方がないからちょっと我慢して。俺もね、うちの家にある媚薬を使ってあげようかなって思ったんだ。痛くしたら可愛そうかなって、思ったんだけど。でも、痛みがあったほうが良く分かるだろう?俺のものになってくれたって」
可愛くて、愛しいクライス。夢の中では兄さんに抱かれていたけど、実際は俺がクライスを抱いて泣かせている。凄く素敵だ。
俺に犯されて、俺のものになって痛みですすり泣くクライスを見ると、これ以上我慢できなくなった。
もう欲望の任せてクライスの中を散々蹂躙し、奥の奥まで汚しつくした。抜くと、俺の形に空いた穴から、俺の残滓が流れ落ちてきて、一回では足りなかった。
「クライス、明日結婚しよう?」
押さえつけていた魔力を開放し、クライスを話せるようにした。勿論俺は結婚できることを疑っていなかった。だってクライスはもう処女じゃない。俺のものになったんだ。
「っ……誰が、貴様なんかと!」
「何で?クライスはもう他の誰とも結婚できないよ。俺に抱かれて、他の誰かと結婚できるとでも思ってないよね?兄さんとだって無理だよ」
「一生結婚なんかしないといっただろ!お前とは絶対に結婚しないって思っていたけど、無理やり犯した奴とどうやって結婚しろっていうんだ!……お前なんか人間じゃない!」
「怒っている?」
「当たり前だろ!こんなことをされて、ほいほい結婚するとでも思っていたのか!?」
普通は結婚する。例え無理強いされたとしても世間体というものがある。でも一生独身を通す気なら、それもあまり意味はないかもしれない。
「じゃあ、俺の子を孕んで貰おうかな。そうすれば流石のクライスも結婚してくれるよね?」
お前なんか人間じゃないって、散々言われたけど。でも、あのまま黙ってクライスの幸せでも祈って、兄さんと幸せになれると良いねとでも笑って祝福して、俺に何が残るんだろうか。
一生、俺はクライスを愛して、苦しみぬくことになる。
「さっき、クライスを抱くのに夢中だったから、孕ませようって魔力を込めなかったから、さっきのでは妊娠していないかもね。だから今度はたくさん魔力を込めて抱くから」
クライスも魔力が強いから、俺の注ぎ込もうとする魔力と反発してなかなか孕んでくれないかもしれない。でも、何百回と挑戦すればきっと大丈夫。俺の子どもを孕んでくれるだろう。
「いやだっ!それだけは止めてくれ!」
「大丈夫……俺、他の誰よりもクライスを愛するし、幸せにするから。今から孕ませてあげる赤ちゃんのことも大事にするし、だから安心して抱かれて」
愛している、クライスも俺を愛するよね?と初めて使う禁断魔法をこの目にこめてクライスを見つめたが、効果はないようだった。精神を操るだけあって、ある一定の魔力量があると効果がないと言われていたけど、どうやら本当のようだった。禁断魔法なので使ったことはなかったが、結構使い勝手が悪い魔法だな。
何を俺はやっているのだろう。昨日まで、強姦も禁忌とされた魔法を使うことも、軽蔑していたんじゃなかったんだろうか。
でも、今は全く罪悪感などない。
クライスが俺に貫かれて、嫌がって泣いている姿に興奮して、欲情している。
「クライス、俺、今夜はたぶんよく眠れるよ。クライスが他の男に抱かれている夢を見なくてすみそうだから」
代わりに今犯しているクライスの夢を見るだろうけど、でもそれは歓迎すべきものだろう。
「……っ、悪魔」
「そんな男にしたのは、クライスだよ?」
今度こそ魔力をクライスの中に注ぎこんだ。そのまま抜かないで、俺のもので栓をした。
「零さないように、今日はずっとこのままで寝ようか?ずっと抱きしめて、俺のが出ないようにしていてあげるから、安心して孕んで。クライス」
魔力で動けないようにしなくても、何度も抱かれた疲労とショックでもはや指一本動かすのも億劫だろうクライスを抱き込んで、初めての夜を過ごした。
クライスに憎まれたって、愛されなくたって、こうして俺の腕の中に抱けるんだ。一方的に手に入れて何が悪いのだろうか。
やっぱり、もう悪夢は見ずにすんだ。
今夜の夢は、クライスが俺の子を産んでくれて、結婚して、嫌がられているが幸せに暮らす夢だった。
大丈夫。だって俺が愛しているんだから。きっとクライスも幸せになれるはずだ。
END
ユーリたん視点が1つもなかったので、挑戦してみました。
隊長がエルたんのせいでおかしくなったのと同様、ユーリもクライスのせいでこうなっちゃいました。
ユーリたん視点いかがでしたでしょうか?
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