マリウスは普段は子育てや義理の両親たちと仲良くしているので、それほど暇な時間は無い。
ただたまにぽっかりと空いた時間で、ボーとしながら画像通信映像を見ていることがある。

画像通信映像は魔道具で、王国中に番組が配信されているシステムだ。
勿論厳しい審査があって、不倫や婚前交渉など風紀に関わることは厳重に禁止されていた。

『Mさん聞いてください! 俺の夫は酷いんです。週2回は義務だから仕方がないと俺も諦めてちゃんと夫婦生活をしています。けど、それじゃあ足りないって無理強いしてくるんです。何とかならないんでしょうか』

「週二回って………足らないよな」

何時からか週二回法案が始まったか忘れたけど、そんな回数じゃ絶対に足りない。

『奥さん、旦那さんも週2じゃ足らないんだよ、もう少し気持ちよくやらせたげたらどうかな?』

『どうして世間は夫たちの見方ばかりなんですか!!?? たまには妻の権利も認めてくれないんでしょうか? 夫を拒否する権利が欲しい!!!』

「確かにこの国って妻の権利ってないよな」

弟のクライスを見ていて思った。夫は何をしても許されるのに、妻には何の権利も無い。勝手に週2法案が決まり、それに従っても、それ以上無理強いされても結局魔力が適わないから夫を拒絶する方法が無い。
クライスが可哀想……と常に思っているが、魔力の低い俺ではどうしてもしてあげれないのが、酷く悔しかった。

『ではここで視聴者アンケートです。画像通信映像を見ている奥様方、週何回が希望ですか? リモコンのスイッチで数字を押してください』

週何回希望か……今って何回しているだろうか。
ロベルトの事情もあるし、夜勤でいないときは当然ないし、子どもが夜泣きしていたりと、当然毎日は無い。
ただこのアンケートはあくまでも、希望なんだよな……と思って、7の数字を押した。

『はい、集計できました』

・週0・・・・・・・90%
・週1・・・・・・・5%
・週2・・・・・・・2%
・週3・・・・・・・0%
・週4・・・・・・・1%
・週5・・・・・・・0%
・週6・・・・・・・0%
・週7・・・・・・・2%
(*集計は貴族階級のみです。リモコンを持っているのは貴族だけ)

『こうしてみると、皆さん、0希望が殆どですね。おそらく週1がその次なのは義務で仕方が無く週1くらいはしようと言う感じでしょうかね? その次週2は義務感の強い方でしょうね、法案があるから。週4を希望した人は両思いなんでしょうね。ただ毎日は辛いから、4回希望じゃないかな。おや、この週7は……』

『セックス依存症じゃないでしょうかね? 普通毎日したいですか?』

で、でも、メリアージュ様は凄いし、オーレリーおばあさまたちも毎日しているし……俺ってそんなに変なんだろうか?
おかしい?
セックス依存症なんだろうか。

『では、この週7の方にインタビューしてみましょうか? リモコンを押した方に逆コールだ!』

『週7で何が悪い!!! 妻の権利だ!!! そもそも何故夫が性生活の回数を決める権利があるんだ!!! 妻が管理してもいいはずだ!!!』

『は、はい……確かに! ごもっともでございます……』

『つ、次ぎ行きましょうか?』

さっきの声の方って……と思っていると、突然リモコンからコール音が鳴り響いた。
反射的にボタンを押してしまうと男性の音声が聞こえてきた。

『奥さん、週7希望なんだって? 旦那さんそんなに奥さんを放っておくの?』

「そ、そういうわけじゃないんです……」

『じゃあ、ちゃんと満たしてくれているの?』

「……たまにもっとして欲しいとは思いますけど……でも、俺……ひょっとしたらセックス依存症なのかもしれません」

さっき、セックス依存症と言われ、俺もそうなのかもしれないと思ってしまったのだ。

『どうしてそう思うの?』

「夫を見ると……何時もエッチな事を考えちゃうんです……例えば夫が帰ってくると……今日は抱いてくれるのかな、とか考えてしまうし」

『うんうん』

「夫の裸を見ると、キュンってしちゃうし……凄くセクシーで早く抱かれたいってそればっかり思って」

本当に世の中の95%は夫としたくないんだろうか。クライスなら分かるけど……でも、皆そんなに無理強いされて結婚した人ばかりじゃないよな。

やっぱり俺がおかしいんだろうか。

「結婚する前からずっと……一度で良いから抱かれたいって……付き合うとか結婚とか全然考えずに、ただ抱かれたいってそればっかりでした。自分から誘惑して……結婚まで持ちこんでしまったんです」

なんか考えるごとに、自分がおかしい人間だと思い始めてきた。
俺ってエッチな事しか考えていない。
死ぬ前にしたかったことも、それだった。

ただでさえ押し倒して結婚してもらった不出来な妻なのに、セックス依存症ではロベルトもそのうち呆れてしまうかもしれない。セックスにしか興味がないのかと。

「俺ってやっぱりセックス依存症ですよね?」

『う〜ん。奥様の鏡だと思うけど……ちなみに、セックスだけが好きなの? 旦那さんのことも勿論好きなんだよね? 裸を見て胸がキュンキュンするって言うのなら』

「夫のことは勿論好きです!」

『ならセックス無しで、抱きしめられているだけで満足はできないのかな? セックスがないと駄目?』

「分かりません……」

『試してみて報告してね。リモコンで待っているよ!』

Mさんは結局俺が依存症なのか言ってくれないまま、他の視聴者に移って行ってしまった。

『ちょっと僕だって、旦那様に毎日抱かれたいのに何でインタビューしてくれないんだよ! 僕の旦那様は世界一なのに!!!』

そんな声がしていたが、俺は自分が病気なのかと心配で頭に入っては来なかった。


誰に相談しよう。メリアージュ様やオーレリーおばあ様はたぶんおかしくないって言ってくれると思う。
でも、俺が普通じゃないのは確かだと思う。
世間一般の声を聞きたかったけど、俺には知り合いにはいない。

知人や元友人には最近連絡を取っていないし、恥ずかしくて聞けない。

「で、僕?」

「俺っておかしいかな?」

ナナさんは呆れた様に見える。

「おかしいっていうか……おかしなことで悩んでいるなとは思うけどね」

「え?」

「エッチが好きだってロベルト様がそれで満足していれば何の問題もないわけでしょう? 相談すべき相手は僕じゃなくってロベルト様のような気がするけれど?」

「……恥ずかしくて言えない……俺がこんなエッチなんだって」

ロベルトがここにいれば黙っていただろうが心の中で『知ってる』と言っただろう。

「じゃあ、禁欲してみたらどうかな?」

「禁欲?」

「そう、マリウスさんからはロベルト様を誘わないし、誘われても断わる。それで我慢できるのならセックス依存症じゃないだろうし、できないんだったら依存症だと決め付けるわけではなく、改めてロベルト様と話し合うとか?」

「……」

禁欲は妊娠中していた。ちゃんとできていた。ということは俺は依存症じゃないんだろうか。でも、禁欲していてもそればかり考えていたような気もするし……と、言われた様に禁欲してみることにした。


「ごめん、疲れているんだ」

「分かった」


「今夜はその気になれない」

「……分かった」


「アルトが泣き出したから一緒に寝てくる」

「…………分かった」


「今日はちょっと体調が悪くて」

「………………分かった……と言うとでも思ったのか?」

「で、でも本当にっ!」

「今週に入ってから4回も断わられて、ただの偶然な訳はないだろう? 今度は何を悩んでいるんだ?」

怒っているかと思ったら、顔は怒っていないけど、オーラからは不機嫌ですと言っているように感じられた。

「……何も」

「何もな訳はないだろう? また俺に愛されていないとか不安になったのか? 一体何が心配なんだ?」

ロベルトは本当に優しい。誰と結婚しても良い夫になれただろうに、俺なんかと結婚したせいでいらぬ苦労をしている。本当に申し訳なくて仕方がない。

「本当に何も無いんだ、寝よう?」

俺ちゃんと禁欲できている。依存症にはならない。ロベルトに迷惑はかけられない。

「マリウス、言いたくないんだったら、身体に言わせてやろうか?」

禁欲しているからロベルトとは寝ない。だから逃げようとした。したくないわけじゃなくて、迷惑をかけないためだ。

「やっ……ああっ……駄目っ、やめっ」

逃げようとした先で捕まって壁に押さえつけられて、前から抱かれながら深くロベルトを受け入れさせられていた。ベッドやソファやお風呂以外でロベルトと繋がった事は無い。こんな壁際で無理強いされているような格好で抱かれているなんて、初めてだった。

「それで? どうして俺に抱かれたくなかったんだ?」

深く腰を突き入れられて、だけど急にロベルトは腰の動きをやめて、身動きをしなくなった。俺の中に入ったまま、どうしてだと何度も詰問をしてきた。

「…やっ、動いて?」

「俺に抱かれるのが嫌だったのに、お強請りなのか?……何でか言ったら、好きなだけ動いてやるから」

「あっ、だってっ……俺、セックス依存症かもって言われて……試しに禁欲をしたほうが良いって言われてっ……それでっ」

「誰に言われたんだ?」

「画像通信放送の人にっ……言ったから動いて」

「あのな……別にマリウスは依存症じゃないし……誰にも迷惑をかけていないのに悩む必要なんかないだろう?」

「でも、ロベルトに迷惑をっ」

「禁欲を言い渡されるほうが迷惑だ。しかも、毎日俺は何かやらかしたのかと悩んで、仕事もポカやりそうになった……」

「ご、ごめんっ」

急に態度を変えられたら悩むのは当然だよな。俺が反対の立場だったら、急にロベルトに気分じゃないからと4回も断わられたら立ち直れない。

「ロベルトに負担をかけたらとか、迷惑がられていたらとか……病気だったらとかっ。んんっ」

激しいキスをロベルトが仕掛けてきた。
そのまま舌を下に焦らしていきながら、乳首を口に含んだ。アルトに母乳をやってしばやく経つから出てきてしまうかもしれない。恥ずかしい。立ちながらロベルトを受け入れて母乳をすすられるなんて。

「マリウスっ……俺は正直、お前が奇想天外なことばかり考えるので、心臓が持ちそうに無い。マリウスが絶倫だったとしても付き合える自信はあるが、こう予想外のことばかりさせると寿命が縮みそうだから、お願いだから不安に思ったことや、その日あったことは有るがまま話してくれ。俺に秘密にするのは無しだ、良いな?」

それから分かったと言うまで、壁を背にしたり、逆に壁に押さえつけられたりしながら、長い時間を過ごした。

あと、変な番組を見るのも禁止を言い渡され、知らない人とは話さない、家族以外の人と接触したら必ず報告をする事と約束させられた。

ただ、経過を報告すると約束してしまったので、報告だけいれてリモコンは捨てる事にした。

『夫はセックス依存症でも良いって言ってくれました』とだけ、メッセージを送っておいた。

「俺が色々考えて変なことをするほうがロベルトには迷惑なんだよな……」

だから余り気にしないようにすることにした。
ロベルトはロアルド様の子だから淡白なところもあるかもしれないけど、メリアージュ様の子でもあるから大丈夫なのかもしれないと。

「でも……たまの禁欲って良いかもしれない」

ロベルトがいつもと違う人みたいで、違う場所で、違う抱き方で。

たまには禁欲も良いかもしれない、とまたロベルトに迷惑な事を考えたマリウスだった。


END
段々ロベルトを無自覚に困らせる小悪魔になってきたマリウスwでした。



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