同期の友人が遊びに来てくれた。

「エルウィン、お前、部隊に戻ってくる気あるのか?」

「う〜ん……俺として戻ってみたい気持ちはあるけど。現実的に難しいかも。ほら、ほぼ研修で産休になっちゃったから、同期たちと差がついちゃってついていくの難しそうだし。子育てもあるし」

隊長のように育ててはいけないと、乳母や教育係りにまかせっきりにしてはいけないだろうし。

「それに、隊長も反対しているし。あと、たぶん隊長が王位継ぐだろうから、俺も色々勉強しないと駄目みたいだしなあ」

宮中のしきたりとか、礼儀作法とかね。基本的なことは分かっているけど、俺って男爵家の三男だから、家を継ぐということも可能性が低かったし、騎士として身を立てるって目標があったから、一から勉強しないといけないのだ。これがクライス副隊長くらいだったら完璧に身につけているだろうけどな。

「そうか……もう、軍に戻ってこないほうが良いだろ……そうすれば、あんな規則なくなるかもしれないし」

「あんな規則って?」

「それがだな……隊長が新しく作った規則でな。『私の愛しい妻が、自分だけパイパンで恥ずかしがっている。私だけお揃いにしても不評だったので、部隊一丸となってパイパンになるんだ!』って命令だされて、俺たち今下半身スースーの寂しいことになっているんだよな」

「な、な、なっ!」

「隊長、エルウィンの秘密しゃべっちゃったよ。それはもう、エルウィンのパイパンはいかに素晴らしいとか語っちゃったりしてな。お前のコンプレックスだって言ってるのに、何で暴露して平然としているのかなあ?」

余計嫌われるの間違いないだろうに。そう同期の男が話しているのを俺は震えながら、聞いていた。
勿論、隊長に下半身が恥ずかしいから、隊長とHできない、といったのは拒否するためのただの方便だ。だがしかし、コンプレックスだったのはうそ偽りもない。この世でそれを知っているのは、俺と、不本意ながら夫になってしまった隊長だけだったのに!

何を考えて部隊中にばらすんだ!しかも、規則に?

沸々どころか、もう沸点になりきっている俺に同期が、言い訳するように慰めてくるが、全く慰めになっていなかった。

「ほら、エルウィン、隊長は、その……あれでも頑張っているんだよ!」

「……何をだ?」

「一応お前のために……」

「俺のために本当になっていると思うのか?」

「や、でも、部隊のためにはなっているかなあっと……ほら、下の毛って知らないか?ないから分かんないかも知れないけど夏って蒸れるんだよな。だから、異臭がしたりする場合もあるし。剃ると異臭が軽減されるらしいし。清潔だし!パンツに毛を挟まないで済むし!衛生的で、性病の撲滅にもなるし!」

「うちの国で性病にかかっているやつなんて皆無に等しいだろ!」

「そうだけど……でも、よく考えると利点も結構あるんだよ。決して隊長は、自分の私利私欲のためだけにっ!」

「お前、隊長をかばっていて虚しくならないのか?」

「………ちょっとなってくるけど。お願いだ!パイパン令のことをばらしたのは俺だって隊長に言わないでくれ!俺のせいでエルウィンが怒ったら、どんな目にあわせられるか!」

隊長は俺の同室者を散々虐待していたらしい。そりゃ、俺も変だとは思っていた。何故か俺が風呂やトイレに入るときは、人っ子1人いなかったのだ。これだけの大所帯の部隊。かち合うことが半年の間なかったのはどう考えても変だったし、同室者は夕方朝と顔色がとってもおかしかった。

隊長が変態なら俺にだけ迷惑がかかるだけだけど、よそ様に迷惑をかけてはいけない。今回も部隊中が迷惑をこうむっているんだ。

「言わないから安心しろ」

隊長には怒らない。しかし、家出をしようと思う。


*****

実家に戻ってきました。実家は男爵家で地方にしか城はなかった。王都に住居を構えられるような貴族は伯爵以上で、大貴族たちばかりだ。勿論その中でもっとも大きな城は隊長の公爵家だ。王都にありながら、莫大な広さを持っていた。
しかししがない男爵家でしかなかったうちが、俺が公爵家に嫁いた後、何の功績もないのに伯爵家に格上げされたのだ。王都にも住居を与えられた。
まあ、これは次の国王の妻の実家をちょっとあげてあげようというご褒美だろう。実家の父や兄は喜んでいた。したがって領地まで戻らずとも同じ王都内で家出ができるのだ。

しかし、近いためすぐ迎えが来てしまうと欠点もあった。

「エルウィン、帰ってきてくれ」

意外なことに迎えにきたのは、隊長ではなく副隊長だった。

「何でクライス様が迎えに来るんですか?」

「隊長が迎えに来たがったが、あいつが迎えにきたのでは余計エルウィンが頑なになって帰ってこないと説得して、俺が迎えにきたんだ」

まあ、そうだろう。副隊長がきたら嫌味もいえないが、隊長がきたらきっと一緒に戻ったりはしないだろう。副隊長はそこらへんは良く分かっている。

「エルウィンがいないと、隊長は仕事もしてくれないし、泣いてばかりいる。正直鬱陶しい。できれば戻ってきて欲しいんだが」

「もう嫌なんですけど。隊長が変態なのはもうし方がないと諦めているんですけど……性生活のことも皆にばらすし、変な規則を作って迷惑を掛け捲るし。はっ、もしかして副隊長も……すいません!」

部隊にそういう指令が来たということは、副隊長も被害者の一人なのかもしれない。

「俺のことは構わない。ユーリが喜んだだけだ……だが、仕事に支障が出ているから、帰って欲しいだけだ」

「すいません……けど」

あんなのが夫だと思うと、どうなんだろうと思う気持ちが抑えられない。

「初心に戻って聞くが……どうしても隊長に抱かれるの嫌か?」

「え?……そんなの当たり前ですよ!俺元々男は好きじゃないですし」

本当に俺って珍しい異性しか駄目な珍しい性質だった。
この国の男女の比率は9:1くらいで圧倒的に男が多い。だから男同士の結婚は当たり前だし、男同士の夫婦ばかりだ。男が駄目な男は少ないどころか、絶滅危惧種並みだ。
ごく少ない女性は、女性同士では子供はできないため、女性同士の婚姻は許可されていない。というわけで基本的にこの国では男同士の夫婦か男女の夫婦しかいない。
女性は貴重だが、権利はあまりない。家督もつげないし、王家では王位継承権もない。魔力も女性は持って生まれてこない。男性だからと言って必ず魔力はあるわけではないが、全くない女性よりも優位だ。だから、隊長が……という話になるわけだが。
貴族階級はそういう訳で男性夫婦が一般的だ。国王陛下も普通なら男性と結婚して王子を儲けるべきだったのだが、この国では結婚は強制することはできない。つまり政略結婚はあっても、どうしても両者が嫌とか、ほかに好きな人がいるという場合はその人の意思が尊重されることが多い。したがって国王陛下も王妃様(女性)が好きになって結婚したのだ。
まあ、今となって王女しか生まれず責められているが。
そんな利点が少なく数も少ない女性と、一度結婚できるチャンスがやってきた。それも隊長に潰されたらしいが、あのチャンスを逃したから、たぶんもう俺は女性と結婚することはできなかっただろう。
異性愛者は相手が物凄く少ないため、あぶれる確率が非常に高い。しかし俺はあぶれたから、じゃあ、男と結婚というつもりは全くなかった。

「だからと言って、結局は隊長と結婚したのだろう?プロポーズにYESと言ったからには、隊長と夜の生活も含んでいることは承知だったんではないのか?」

「それはまあ……仕方がないかなとは思っていました」

「なら、なぜ拒否するんだ?覚悟があったのなら、いまさら男が好きじゃないから拒否します、は卑怯だろう?」

そう言われればそうなんだけど……何時もは俺の味方で優しい言葉をかけてくれる副隊長が、今日は厳しい表情でそう責めるように言った。俺の味方になってくれるのは、村八分にされていた時から副隊長だけだったので、こんな態度に俺はひどく萎縮してしまった。

「……すいません」

考えてみれば、補佐をしている副隊長が一番隊長の被害をこうむっているだろう。何時も優しくて、味方になってくれていたから、思い上がっていたようで、頭が真っ白になってしまった。味方はこの人しかいなかったのに。俺はいつの間にか、副隊長を兄のように慕っていたのだ。

「悪い……そう萎縮するな。ただ、俺が味方になってエルウィンを庇っていても、事態は進展しないことに気がついたんだ。結婚した以上、エルウィンも覚悟を持って隊長と接するべきだ」

「分かっています……でも、俺騙されていたから」

せめて隊長が妊娠していたなんて騙してなかったら、俺だってここまで隊長を避けたりしなかったかもしれない。

「それは騙されたエルウィンが悪いんだ」

「は?」

え?俺が悪いの?騙した隊長が悪いんじゃなくって?

副隊長があまりにもきっぱりと俺が悪いと言うのに、唖然としてしまった。どうして俺が悪いんだろう。

「俺の話しはしただろう?俺もユーリに騙された。どちらが悪いと思う?」

「それは勿論ユーリ隊長のほうです。どう考えたってクライス様に非はありません」

誰が聞いたって副隊長のほうが被害者だ。ユーリ隊長はやりたい放題で、無理やり副隊長に婚姻を迫ったのだ。

「まあ、ユーリが悪いのは当たり前だ。だが、そんなユーリに抵抗できずに結婚してしまった俺が非力だったからだ。あいつが最悪で非道な男だと分かっていて、むざむざと作戦にはまってしまい、言うなりになってしまった。力のない俺が悪い」

「そんなのおかしいです!」

「世の中は弱肉強食だ。結局ユーリの思うが侭になってしまい、俺は自分が騙されたことを立証することもできなかった。俺が負けたんだ。自分で結婚契約書にサインをした事実は変えようがない。だから、ユーリと結婚生活を続けている」

まあ、離婚のしようがないしな、と苦笑する。

「だから、エルウィンも同様だ。結局隊長に騙されて、結婚を決意したお前が馬鹿だったんだ。だから、もう諦めろ」

そんな加害者に優しい理論って、酷くないだろうか。でも、極論でも結局は同じことだ。俺は隊長と離婚することもできないし、騙されたとはいえ、死刑になりたくなくって結局隊長と結婚する道を選んだのは否定できない。

副隊長は例え妊娠していてもユーリ隊長と結婚する気はなかったみたいだし、精神的に操作されていなければ今も結婚していなかっただろう。それくらい強い意志がある人だと思うし、結婚してしまった後はそれを受け入れている。そんな副隊長から見れば、逃げ回っている俺は甘っちょろいようにしか見えないだろう。

「その、クライス様はユーリ隊長と夫婦関係をきちんとされているんですか?」

副隊長とユーリ隊長の過去は聞いたが、具体的に現在どうしているかまではそう詳しくはしらない。

「嫌だって言っても聞かない男だしな。俺の負けだから、今更拒否までしない」

「嫌じゃないんですか?俺、クライス様に覚悟を決めろって言われて……自分が甘ったれていたって分かりましたけど……どうしてもあの変態な隊長とするのは覚悟が……」

「隊長が変態なのはお前のせいだ」

「はっ??」

「考えても見ろ。以前の隊長は、ああじゃなかったはずだ。もっと理知的で、生真面目で、部下から慕われるそんな存在だったはずだ」

「そうですけど……」

それは確かにそうだったとは思う。俺はその頃の隊長って、見たのと噂だけで、実際にお話したこともなかった。だが優秀な隊長と評判ではあった。
俺が隊長と話し間柄になった頃も変態ではなかったはずだ。熱烈にプロポーズされていたが、実際に変態になってしまったのは結婚したあとのことだったと思う。

「エルウィンが性生活を拒否するから、パンツをかぶって代用して、息子と競って母乳を欲しがり、欲求不満なのをコレクションで自家発電したりと……エルウィンが相手をしてやれば代用品も必要なくなる。そうすれば変態じゃなくて、ただの妻を熱愛する男に戻るだろう」

「俺が拒否をしているから、変態になったってことですか?」

「そうだ……だから、今から戻ったら隊長の相手をしてやれ。もうエルウィンだけの問題じゃない。部隊にも悪影響が出るかもしれないし、いずれ国王になる隊長が欲求不満でアホなことをしでかして、部下たちに愛想をつかれたくないんだ。今日は逃げるな」

副隊長だって、好きじゃないユーリ隊長としている。だったら俺も皆や国のために……頑張らないといけない、んだろうな。
副隊長から、毎日とは言わない。週一くらい相手をしてやれと命令をされ、連れ帰られた。

男らしい人だよな。副隊長は。俺も副隊長が夫だったら、頑張っていい夫婦関係を作っていこうと頑張ったかもしれない。
隊長もあれくらい男らしくって、いっそのこと、無理やり押し倒してくれば良いのに。お伺いを立てて、ひもじそうな目で見てきて、嫌だって言うとシクシク泣いているだけだし。

隊長と初めてした時は記憶にないし、結婚してからの初夜は、まだ隊長があんなだってしらない間に終わったから、俺としてはまさに今夜が初夜ってくらいだ。

自室に戻ると隊長がもじもじした感じで、ベッドに待っていた。副隊長から、説得するからおとなしく待っていろと言われたんだろう。
期待するような目で見上げられ……どうしろって言うんだ?っていうのが本音だった。

俺から誘うのか?隊長から?

無言で見つめあうが、隊長は照れたようにモジモジしているだけで、何のリアクションも起こさない。

「俺……湯を使いますね」

とりあえずお風呂くらいは入っておきたい。

俺の人生って儚むわけじゃないけど、女の子とできれば結婚したかったんだけど、最早隊長と結婚して子どもまでいる。相手は……普段は変態だけど、スペック的には男として最高の人材かもしれない。変態要素を抜けば。

家柄はこの国最高だし、顔も悪くない。背も高く、頭もよく、金持ちで、将来の国王。玉の輿になった……あんまり嬉しくないけど。

だから頑張ろうと気合を入れてみた。


風呂から出ると、隊長は正座をして待っていた。

俺も一緒にベッドに座る。

「そ、その……良いか?」

「はい…」

わざわざ聞かないで欲しいっていうのが本音なんだけど。
そっと押し倒されて、服を剥ぎ取られていく。隊長も服を脱いで………

「隊長……すいません。隊長がはいているパンツって……もしかしなくても、俺のじゃないですか?」

見覚えがある。まさかおそろいのパンツ?いや、隊長がはいているのとは違うはずだ。あれは俺の……

「エルウィンがいなくて寂しくて……パンツを被るのはやめろと怒られたので、用途通りにはくのなら許されると思ってだな。魔法でサイズを調整してはいたんだ。エルウィンと一緒にいるようで心地がよく、寂しさも」

「……すいません。やっぱり、今夜無理です」

「何故だ!!!副隊長は今夜はいけるはずだとっ!」

「カッコいい隊長とだったらできると思うんです!!!でも、でも変態の隊長とは無理です!!!!……俺のパンツをはいたり被ったりしている限り、一生できないと思ってください!!!昔のカッコいい隊長になったら、受け入れますので」

無理!無理!無理!

やっぱり腹黒くて下種でも、ユーリ隊長のほうがスマートでカッコいいので、副隊長がうらやましいと思った。

当分、隊長の2回記録は更新させたくないんです!ごめんなさい!迷惑かけますが、副隊長これからも隊長の管理をお願いします。




「カッコいい私とは、どんな私だ?…」(´・ω・`)

「兄さん、まずエル君のパンツを手放すことからはじめようか?」

「なんだと!私の宝なのに!」

「だから、今日エッチできなかったんだよ。あとはね、人さまに性生活のことは話しちゃいけないし、仕事に私生活を持ち込んじゃ駄目だよ。エル君に会う前の兄さんに戻って、カッコいいところを見せればエル君エッチさせてくれるって」

「が、がんばる!」(`・ω・´)


END

*たまにはエルたん視点。
せっかく3回目のチャンスだったのに、宝物のエルたんのパンツのせいで、失敗してしまった隊長でした。



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