はっきり言って、ここまで自分に執着するユーリが気持ちが悪いというか、同じ人間だとも思えない。
絶対に心まで明け渡さない。結婚もしないと心に決めていたのに、いつの間にかユーリの希望通りにあの男の伴侶にまでなってしまっていたのだ。
心はユーリの物にはなっていない。だけど、それ以外のもの全てがユーリの物になってしまっている。

離婚は……できない。この国ではよほどの事情が無い限り離婚は許可はされない。今のところ、俺が申し立てて、許可をされる理由が見つからない。レイプされて孕まされて騙されて精神を操られサインをした。これが証明できれば流石に許可されるかもしれないが、俺にはそれを証明する術が全く無いのだ。何の証拠も残っていない。

家族も職も全部捨てて他国に逃げるくらいの思いではないと、ユーリからは逃げられないだろう。いや、例え全てをおいて逃げてもユーリは必ず見つけ出すような気がする。やすやすと逃げるのを待っていてもくれないだろう。
それに、息子のことはどうしたら良いのかという問題もある。連れて行ったら、すぐに見つかるだろう。逃げ切れない。
かといって置いて行ってしまったら……ユーリのような男に成長して、自分のような目を合わせるような男になってしまったら。世間様に申し訳なさ過ぎる。

そう思い、ユーリの籠の鳥の日々を続けていた。わりとのん気に逃亡計画を企てていたのは、ユーリは俺が元に戻っても無理強いしてこないせいだ。そのせいで決定力に欠ける。どうしたらいいかと悩む日々だ。


「クライス、仕事に復帰するか?」

「はあ?」

「もう産後だいぶ経ったし、仕事に戻っても問題ないだろ?」

体調は勿論問題ない。魔力も戻っている。何の問題もなく復帰はできるだろう。しかしユーリが自分から、俺に仕事に戻って良いと勧めるのか?
俺は訝しげにユーリを見た。何を企んでいるんだと疑問に思ったのを感じたのだろう。

「クライスが塞いでいるから、職場復帰はいい気分転換になるかな?って思って。仕事好きだっただろ?」

「好きだけど……」

こいつは俺が隊長の事を好きなのを勿論知っているのに、嫉妬していたはずだろ?なのに……

「兄さん、クライスがいないと大変みたいなんだ。部隊もクライスがいないと処理しきれないって、戻してくださいって泣きつかれてさ、クライスの部下達に」

「大変?」

隊長は仕事はきちんとやるし、部下たちもだ。俺が産休のせいで、少しは忙しいだろうが、部隊が回らないほどではないだろう。それが泣きついてくる?

………職場に行った。

……………

………………

「隊長……エルウィンのパンツ被りながら、仕事をするのを止めてください」

部隊は忙しいのではない。隊長の暴走を止める要員を欲しがっていただけなのだ……

俺は仕事をしているのか?
隊長がエルウィンのパンツを盗むのを止めようとし(隊長は新品と交換しているので盗んでいないと言い張る)、風呂の盗み見を阻止しようとし、あり得ない嫉妬で部下を虐待しようとするのを諌める毎日。
今は強姦しようと企むのを、止めているのだが……


俺の好きだった隊長は、一体どこに行ってしまったんだろうか……


「副隊長、仕事(隊長を止める)をして下さい!」


「……俺のしているのは仕事じゃない」


「そんなこと言っても、隊長をしばけるのは、隊長の弟のお嫁さんである副隊長しかいません!」


それはそうだろう。あんな変態でも、次期国王かもしれないんだからな……

もう駄目だ。もう気力がない。あんなアホな隊長を見ていられない……

精神的に疲れきって城に戻り、ベッドに横になった。

どうしてなんだ?どうして俺はあんな男を好きになっていたんだろうか。恥ずかしい過去を消したくてたまらなかった。

勿論隊長は知らないし、部下の誰も知らない。それだけが俺の救いだった。
ユーリにも言いたい。隊長が好きだったというのは、たぶん夢だったんだと思う。ユーリしか知らないから、忘れてくれと声を大にして言いたい。



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