この国では世継ぎがいないことが若干の問題になっていた。候補の公爵家の兄弟たちはそろって優秀で、次期国王となっても何の問題もないと思われるが、ただ1つ欠点があるとすれば2人とも独身であることだった。
これではまた次代の王がいなくなってしまう。王も公爵夫妻も2人に伴侶がいない事を心配していたが、今日のこの目出度い日、次男が結婚し跡継ぎ候補となる男の子が誕生までしたと発表された。
結婚も妊娠したことも内密にしていたのは、敵対勢力にばれ、身重の妻が危険にあってはいけないと判断をしたためだといわれると、国民も納得し、少し結婚が遅くなっただけかと将来の国王候補の誕生を喜んだという。

産後しばらく経ち、お披露目された公子と花嫁はとても美しく、幸せそうなカップルに見えたという。
特に花婿のほうが、花嫁を愛しているというのを隠そうともせず、花嫁も恥ずかしそうに微笑んでいた。


「……最悪だ。何だこの絵姿は」

ユーリと幸せそうに寄り添って、赤子を抱いているのはどうみても自分の絵姿だった。
勿論覚えはある。記憶が飛んでいるわけではないのだ。意識もあって、意思もあった。だけど、あの時は本当にユーリと結婚して、ユーリの子どもがいて本当に幸せなんだと、思わされていた。

「あ、戻っちゃったんだ」

それまでユーリに背中から抱かれ抱きしめられていた姿のまま、壁にかかっている絵姿を睨んだ。
数ヶ月幸せ家族をやらされていた記憶を思い返すと、ふつふつとユーリへの怒りが収まらなかった。こいつは何をした?
俺が産みたくもなかったこいつの子どもを、想像妊娠だと言い張って無理矢理産ませた挙句、俺の意思を無視して結婚誓約書にサインまでさせた。
だいたい想像妊娠だって、後半は明らかにおかしかった。いくら想像ですと言い張られたって、信じられるはずはない。騙しきれるはずはないのに、騙しきったのはユーリの魔法のせいだろう。

「お前、俺の精神を操っただろう?よくも恥ずかし気もなく!」

「うん……クライスは魔力が強いせいで、正気だとかからないもんなあ。妊娠する前は、あれだけ俺のことを好きになる、好きになるって暗示をしたのに効果なかったもんなあ。まあ、妊娠して魔力が無くなったのと、精神状態が安定しなかあったせいで、ようやくかかってくれたかな」

「お前、それは禁断魔法だぞ!許されるとでも思っているのか!」

精神を操る魔法は禁止されている。そもそも使える人自体が僅かで、この国では実はユーリだけだ。しかしユーリの言うように俺は魔力が強いほうなので、ユーリの精神制御魔法に対抗できていたようだったが、妊娠した状態ではそれもかなわなかったようだ。
今は出産を終えて、魔力が安定してきたのだろう。ユーリを好きというアホらしい感情がきれいさっぱり無くなった。

「愛があれば許されるよ……ま、でも許されなくてもいいよ。だってクライスと結婚できたんだから」

「この人非人が!地獄に落ちろ!」

全くわびれていないユーリに、怒りよりも何でこんな人間が存在するのか、疑問の方が先に立った。
普通は罪悪感ってものを感じるだろう?人間なんだから。
考えても見ろ。お前がしたことは、人を無理矢理強姦して、孕ませて、妊娠していないって騙して、精神まで操って結婚させて。どこの世界にそこまで相手の意思を無視してやる男がいるんだ?

「俺って可哀想だよね?こんなにクライスのことが好きなのに、全く報われなくって……あ、でもクライスに俺の子どもを産んで貰ったし、奥さんにもできたし、ちょっとは報われたか」

「相手の幸せも考えないのか?お前にしている事を考えてみろ!」

「だって、俺クライスのことちゃんと考えたよ?……一番初めはちゃんと紳士的にデートから申し込んだのに。クライスは兄さんが好きだって、俺のことを拒絶して。酷いよね……他所の男でも最悪だったけど、よりにも寄ってあの兄さん?クライスと兄さんが結婚したら、俺目の前で同じ城の中で、クライスが兄さんに抱かれているのを、歯を食いしばって我慢していないといけないんだよ?それで分かったんだ。耐えられないって……俺ってクライスの幸せよりも俺の幸せの方が大事なんだ」

ふふ、と笑いながらユーリは俺の空っぽになった腹を撫でてくる。正直気持ち悪かった。昔からユーリに抱かれるのは好きではなかったが、もはやユーリからは狂気しか感じられない。

「でも俺は、クライスが自分から結婚にYESっていうチャンスを何度も何度もあげたのに、拒否したのはクライスだから、こういう結果になっちゃったんだよ。一番最初はちゃんとプロポースした時。2番目はクライスが俺に処女をくれた時」

やったんじゃなくて、奪ったの間違いだろうと皮肉を言いたかった。

「で、三番目が妊娠してくれた時。俺もさ、流石のクライスでも、妊娠したら結婚するって言うと思ったんだけどなあ。だから頑張って孕ましたのに。クライスは魔力が強いから、俺の魔力と反発して中々孕んでくれなかったし。でも、その分たくさんクライスを抱けたから、ま、良いけど。だけど、まさか結婚しないんじゃなくって、堕胎までしようとするなんて流石の俺も考えが及ばなかった」

幸せそうに俺を抱きしめながら、無理矢理結婚させるまでのストーリーを楽しそうに語るユーリに、最早俺が何と言っても言葉を理解してくれるとは思えなかった。
分かった。こいつは聞く気が全くないのだと。
相互理解だとか、人の意思とか、相手の気持ちとか、そんな当たり前の事を言っても仕方が無いのだと。そういうことを理解できないわけではなく、理解する気が無いのだと。

「お前、それで幸せなのか?俺に愛されるどころか、憎まれて。俺に愛されない子どもを産ませて、可哀想だと思わないのか?お前の子どもが」

「死にまでには、愛されるように努力するよ?……それに、俺に愛されて良かったって思うくらい優しくするし、大事にするから安心してくれ。それに、子どものことは分かるよ。クライスは優しいから、大嫌いな俺の子どもでも憎めない。今も憎めないだろ?」

確かに……騙された感情の中だったが、俺は自分で産んだ子供を愛しいと思っていた。抱きしめて一緒に眠って、母乳を飲ませて。
今更、嫌いになれるかと言ったら……無理だろう。例えこのユーリに犯されて、無理矢理産ませられた子供だったとしてもだ。

「クライスは結婚誓約書にサインしたんだから、もう一生俺の妻だよ。大丈夫だよ……一生愛するから……だから、逃げられないよ?」


*あれ?・・・・ユーリたん黒い?



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