すぐに仕事に戻ろうと思った。せっかく休暇を取ったが無駄になってしまったし、どうせ王都にいるのなら仕事をして少しでも隊長の負担を減らそうと思ったのだ。

しかし、しばやく療養をしろと無理矢理一時除隊を命じられてしまった。

「ユーリ、お前なにを……」

そう考えてもユーリが手を回したようにしか見えない。

「クライスお前にはしばらく安静が必要だ」

「どこも悪くないのにか!?」

「身体はどこも不調は無いかもしれないが、精神面ではどうだ?妊娠していると思い込むような状態のまま、仕事が続けられるのか?実際に魔法も使えないのでは、副隊長という職務を全うできるはずはないだろう。そんな状態で、もし部下を死なせるようなことになったらどうする?」

「くそっ」

反論できなかった。俺が副隊長という職を陛下から賜ったのは、人よりも高い魔力のせいだ。もちろん剣も使えるが、どちらかというと攻撃魔法に秀でているのを買われての抜擢だった。その魔力が無い状態では、ただの少し武術に秀でている一般人とそう変りはない。
ユーリは兄と同様隊長という職務についているのは、高い魔力をもつ俺よりもさらに高い魔力を持っているからだ。
そうではなければ、やすやすと押さえ込まれたりはしない。

「そうだな……取りあえず、想像妊娠の症状が治まるまで、うちの城にいようか?俺の部屋は最近使っていなかったけど、これからは毎日戻るようにするから、新婚ごっこみたいで嬉しいな」

「何を勝手な事を言っているんだ!お前の家になど行くわけはないだろ!」

「駄目だよクライス。だって、想像妊娠していることばれたくないんだろ?今この事を知っているのは軍医と俺だけ。他の人に知られたくないんでしょ?だって知られたら、皆から結婚しろって言われるよ?クライスのご両親だって、俺となら反対するわけないし?でも、俺と結婚したくないんでしょ?だったら秘密にしないといけないだろ?」

要するに、内緒にしておいてやるから、ユーリの鳥の籠になれということだろう。

「俺はお前との関係がばれたって、誰に何と言われたって結婚しない!」

「兄さんにもばれても良いの?」

「……隊長は知らないのか?」

「うん。クライスは流石にそこまで知られたくないかな?って思って。だからね、俺と病気が治るまで一緒に暮すんだよ?いいね?」

他の誰にも、勿論隊長に一番知られたくなかったし、しつこいユーリに負けたというのもあった。ユーリは一度言い出すと引いたためしがなかった。
それこそ、初めて告白された時からだ。断った時、ユーリはそれでも絶対に自分の物にしてみせると言ったのを思い出した。

それほど長い時間がかかるとは思えなかった。想像妊娠は妊娠していないことが分かると、その症状は治まることが多いと言われたからだ。だから安心していた。

ユーリも約束を守って、抱こうとはしてこなかった。一緒にいる時はいつも強引に抱いて、無理矢理抱きしめて眠って行ったが、今は一緒のベッドに入るものの、俺が眠るのを穏やかな目で見つめているだけだ。

ユーリとの間に性的な関係が無いからか、ユーリとけんか腰で話すことが少なくなった。元々、ユーリは悪い男ではなかった。自分に欲望をもって近づかなければ、友人として付き合えただろう。


「クライス、俺は何度お前を抱いても、一度も俺の物にできた気がしなかった」

「そんなものは当然だろう。俺はお前を好きじゃないから……身体だけ自由に出来たところで、お前の物になんかならない」

今日もベッドに入りながら、俺を見てそんな事を言い出した。
俺からしてみれば、腕力(+魔力)で無理矢理押さえつけて犯したところで、俺がユーリのものになるはずがない。
体は好きにできるかもしれないが、心まで自由にできるはずはない。
なんてことを思ってしまった。この貞操に煩い国でも、性犯罪の犠牲になる女性や男性はいる。そんな被害者に、心までは汚されていないはずと、慰めの言葉をかけたこともあったが、自分がそんなことを言い訳がましく思っているとはと、苦笑してしまった。
だけど、俺は心は純潔のままだと言い聞かせているが、もう結婚できるような身体ではないことは自覚している。けれど、何があってもユーリとだけは結婚しない。

「けど……今はクライスが俺のものになったっていう実感がある」

「は?何を言っているんだ?俺がお前の城のお前の部屋で大人しくしているからって、どうしてお前の物になるんだ?」

ユーリとだけは結婚しないと心で思った瞬間に、ユーリは俺がユーリの物になったような気がすると言うのだ。

「分からないかもしれないけど、もうクライスは俺のものだよ」



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