「隊長、いってらっしゃい」
「うむ、行って来る」

私は愛するエルウィンに見送って貰って、王城へと出勤した。愛する妻に見送って貰ってなんら不満はないはずだが、最近何故だかもやもやする。理由は分からない。

「隊長、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」

「隊長、ごはんですよ」
「ああ、ありがとう……」

理由が分かった。エルウィンは私の事を隊長としか呼んでくれない!
部下と上司だったときは仕方がないが、今は夫と妻なのだ!
私の事を名前で呼んでくれて良いはずだ!
何故、他人行儀で私の事を何時までも隊長と呼ぶのだ?!

「エルウィン……何か間違っているとは思わないのか?」
「何をですか?……ああ、こうやって隊長に騙されて結婚してしまったことですか?そうですね。毎日のように間違っていると思っています」
「違う!!!何時まで、私の事を『隊長』と呼ぶのだ!!??私とエルウィンは結婚し、契り、結ばれ、2世までなした仲だというのに!!」

私の事をそろそろ名前で呼ぶべきだ!
あの弟夫婦でさえ、あの副隊長でさえ、夫のことは名前で呼んでいるというのに。

「………………………………え?だって、隊長は隊長でしょう?」
「夫婦でそれはおかしいだろう!」
「だからって今更、名前で呼ぶなんて無理です。もう俺の中では、隊長は隊長でしかありません」
「では、一生私の事を隊長と呼ぶのか!?」
「そうですね」

一生私は隊長としか呼ばれないらしい……

「だが!いつまでも私は隊長でいるわけではないぞ!」

いずれ父のあとを継いで将軍になるだろうし、その道がなければ、陛下の跡継ぎとして王室に入ることなるだろう。

「そうしたら私の事を名前で呼ぶか!?」
「いいえ」
「では、私がこの家を継いだらどうする!?」
「公爵様と」
「では、王太子となったら」
「王太子殿下、または殿下と」
「国王になったら!」
「陛下と」

駄目だ……私は何になろうとも、敬称がつく立場となってしまい、名前なしでもやっていけてしまう……もし、私が一介の農民や、名も無き市民であったら……

たいした仕事もなく、時間もあまり、金もなければやることは一つだ。家にこもってエッチやりたい放題……

『ああっ、もっと抱いてっ」
『エル……なんて可愛いんだ。毎日お前の欲しいままにいくらでも抱いてやろう』

こんな肉欲の日々が待っていたかもしれないのに。
私は何時になっても、たった2回しかさせてもらっていないなんて……
しかも名前さえ呼ばれない……

誰か言われたことがあった。(弟の嫁だが、私に突っ込むのは弟の嫁くらいなのだ)
そんなに欲求不満なら、エルウィンではなくて、親や陛下が勧めた嫁と結婚すればよかったでしょうと。そしたら夜の生活も拒否されなかったでしょうにと、冷笑された。
無理矢理エルウィンと結婚しておきながら贅沢なんですと罵られた。
副隊長は、私がエルウィンとの初夜のために勉強させて貰おうと思い、弟に頼み込んで、弟と副隊長の夜の生活を覗き見させて貰ったのだ。それがばれて、その時から、ゴキブリでも見るかのような目で見られるようになった。

弟は快く協力してくれたというのに……

私は最早、家庭にも職場にも優しくしてくれる人はおらず、居場所が無い。
しかし居場所が無くても頑張って作らねば……エルウィンと必ず愛欲にまみれた日々を送りたい!




「クライス様、俺、隊長に、何時まで隊長って呼ぶんだって聞かれて、隊長の名前知らないことに初めて気がつきました」

クライス様は俺の所属していた(今も名前だけはまだ在職しているはずだ)部隊の副隊長であり、義理の弟の嫁でもある。したがって、俺は副隊長から見れば義理の兄の嫁ということになり、様なんてつけなくても良いと言われているが、俺より年上なのと上司であるため、どうしても様つけになってしまう。

「あの人、隊長としか呼ばれていないからな」

身分の高い人なので、名前で呼ぶには許可が要るし、みんな階級で隊長と呼んでいるので、隊長は隊長としか認識していなかったのだ。

「というか俺は、隊長って隊長という生き物だと思っていました」

いろんな意味でおかしい人だし、普通の人間ではないような気さえする。新種の『隊長』という生物のような気がしてならない。

おかしいよな。訓練兵だった頃は隊長を遠くから見ていて、物凄くカッコいい人だと尊敬していたのに。
災害級の魔物が出たとき、あの人が一人で魔法を駆使し、伝説の剣で(王太子またはそれに準ずる人しか持てない)魔物を倒したのを見たときに、一生付いていこうと思ったくらいだったのに。

気がつくと、息子と一緒にミルクを欲しがっているただの変態のいう名の『隊長』という生物でしかなかった。
もう少し尊敬できる男になってもらわないと、夜の生活を解禁しようとは、絶対に思えないのだ。
だって昨日は息子にミルクを与えているのを、指をくわえて悔しそうに見ていたのだ。はっきり言って気持ちが悪い。

「気持ちは分かる……俺もあの尊敬する上官はどこに行ったんだろうと毎日悩んでいるんだ。過去の自分をぶん殴りに行きたい気分だが……ちなみに俺は隊長の名前を知っているが、教えようか?」

「いいえ、知ったら、毎日名前で呼んでくれとしつこいでしょうから……知らないままでいたほうが平和です」


こうして、隊長の名前をエルウィンは知らないままだった。それを隊長は知らない。

エルウィンはこの後、3つのオネダリに毎日悩まされることになる。

・名前を呼んでほしい
・ミルク欲しい
・エッチしたい

「結婚して夫が出来たというより、息子が二人できた気がしてなりません」

どれをかなえてあげるのが一番まだマシなのだろうか……


END
隊長の悪事がまた発覚★普段のかっこよさもいれておいた・・・
けどただの変態でしかやっぱりありませんね




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