副隊長になるより分隊長のほうがまだハードルは低い。
でも俺よりは魔力落ちるけど、それなりに高い魔力を持つ友人は勿論こんなに副隊長に目をつけられていないし、結婚の制限をかけられているわけでもない。
しごかれていないし、俺が未熟だと副隊長は言うが、アイツのほうが俺より剣も弱いし扱える魔法の数も少ない。まだ俺のほうがマシな出来なはずなのに。
妬ましい友人はイブちゃんにご執心なのだ。皆お嫁さんにしたい候補ナンバーワンのイブちゃんのことが好きなんだけど、イブちゃんが魔力が低いので結婚するのが若干ネックになっているのと、人気が高すぎるので皆ライバル達がけん制しあっていてお嫁さんにしたいはずなのにちっとも結婚する気配はない。
俺も本気で結婚する気もないし、可愛いなと思うだけだけど友人たちが恋愛や結婚で騒いでいるのを見ると羨ましくなってくる。
だから俺はイブちゃんが好きだから見ていたわけではなく、イブちゃんや友人たちが羨ましいなという思いでよく眺めていた。
そして部隊の仕事で国境の辺境に赴任した時のことだ。部隊は王都だけにいるわけではない、この国は広大なので、交代で辺境警備もしているし、国境警備もしている。魔獣や盗賊が出てその村や領主では対応しきれないときに出動することもある。
今回は、災害級の魔獣が出たと報告され100人体制で現場に向った。
これだけいれば、村人の保護も含めて充分すぎる人数のはずだった。
「あ、大丈夫か? イブちゃん!」
イブちゃんは魔力がそれほど高くない。今回一緒に来た人数に入っていたが、それほど戦闘能力で期待はされていなかっただろう。しかし彼も騎士になれるくらいなので、自分の身くらい自分で守れる力はあるはずだ。しかし可愛いから皆がちやほやして守ってあげようとしていた。
「大丈夫です。僕も自分の身くらい自分で守れますよ!」
「でも、俺の背中の後ろに隠れていろ」
俺はちょっと呆れた目で友人たちを見ていた。一応戦闘中だと言うのにいい加減にしろという目でだ。
「貴様らいい加減にしろ! イブもそれでも立派な騎士のはずだろう! いい加減貴様らのそのイブハーレムが部隊の調和を乱していることに気がつかないのか! いいか! これからあの魔獣を倒した男が結婚する権利を得る! 魔獣を倒した男の求婚を断る事は許さん! イブ、お前もいい加減に誰か一人を選べ、分かったな!!!!」
「え? い、一番強い男が求婚する権利を得るってことですか?」
「そうだ! 貴様らさっさと向っていけ!」
どう考えても副隊長が一番有利だろうが、それでも皆真っ先に魔獣に向って駆けていく。俺も勢いに釣られて一緒に向かって行った。しかしその中でも最も早いのはやはり副隊長だった。
数百もいる魔獣を剣でぶった切って、魔法攻撃で消滅させ、あっという間にボス魔獣だけになってしまった。
あまりの早業に部隊員たちが呆然と見ていると、その魔獣が最後を覚悟したのかいきなり自爆を始めてしまった。閃光がキラメキ、魔法結界を張るのが間に合わないと思った瞬間、副隊長が俺の前に立ち結界で皆を守ってくれた。
「怪我は無いか? ロアルド」
「あ、はい。副隊長のお陰で怪我はありません」
「……油断していたな? あれでもさきほどの魔獣は伝説級の災害魔獣だ。だから、貴様は魔法の発動が遅いと何度も言っているんだ!」
「申し訳ありません……」
「それに、貴様らも。何だ100人もいて、誰も防御結界を発動していなかったのか!」
勿論発動していなかったわけではないだろう。防除に徹するグループも存在する。ただ災害魔獣の自爆の波動がそれに追いつかなかっただけだ。副隊長がいなければ、今頃けが人が多数出ていたに違いない。命があれば治せるが、即死だったらどうしようもない。
「返す言葉もありません」
この中では俺が一番魔力が高い。なので、本当だったら副隊長の補佐をして俺が一番に動かなければいけなかったのに、すべて副隊長にさせてしまった。
「なら聞く。この中で魔獣を倒し、最も強かった男は誰だ?」
「副隊長です……」
「では、俺が求婚をする権利を得たということで間違いないな?」
そんな権利は国王陛下と言えでも得る事はできません。しかしこんな副隊長に逆らえる部隊員は存在しないはず。一同は皆頷き正座をして副隊長の言葉を待った。
きっとイブちゃんだと思っている者も多いだろう。なんせ副隊長はイブちゃんを熱心に見つめていたのだから。
「ロアルド……貴様が俺と結婚するんだ」
皆はイブちゃん、と思っているところに何故か俺の名前が……
「は?……お、俺、ですか?」
「お前は弱い! 今日だって俺が守ってやらなければ死んでいたかもしれないだろう! 俺が一生守ってやる!」
「え? あ、あの……」
副隊長と結婚?? そんなこと考えた事もない。副隊長は素晴らしい人だけど……けど、こ、怖い(((( ;゚д゚)))そ、それにどっちが奥さん?
「あ、あの俺は伯爵家を継がないといけませんし……副隊長とでは子どもができないような……」
どっちが奥さん? には関係がある。どっちが、と疑問になるほどに俺と副隊長の魔力は近い。俺と副隊長が結婚すると聞けば、きっと誰もが副隊長が夫のほうだと思うだろう。だって強いから。
「そんなもの気力で俺が産んでやる!……俺を妻にするよな?」
「は、はいいい!!!!」
あ、良かった。副隊長が奥さんになってくれるんだ……俺、今まで自分が妻になるなんて考えた事もなかったから、副隊長の奥様になるなんて想像できない……え? 副隊長が奥様??
な、なんで??
「あ、あの、俺って分隊長にならないと結婚できないはずじゃあ……」
「心配するな。俺が除隊する。どのみち夫婦では同じ部隊にいられないしな。俺が専業主婦になってお前のサポートをするから、俺の空いたポストを筆頭分隊長が受けるから、お前が空いたポストに就任になる。これで問題なく結婚できる。ああ、ついでにお前の両親にも話をつけてある」
そうだよね。そうだよね……分隊長がすることに、抜かりはないはずだ。あ、イブちゃんや友人達があっけに取られた顔をしている。
「そういえば、イブ、お前も身を固めろといっただろう。今すぐ決めろ」
「あ、あ、え? その……」
イブちゃんはきっと副隊長が指名する人はイブちゃんだと思っていたのかもしれない。俺だってそう思っていた。
「それに何だ? 皆、イブちゃんイブちゃんと、そんなことを戦闘中に叫んでいるからこんな体たらくなんだ! 見苦しい! 今すぐ皆身を固めろ!」
皆恐怖の余り、訳の分からないカップリングで結婚する事になってしまっていた。
え? そんな夫婦ありなの? っていうような……でも、一番有り得ないと思うのは、俺のような……
というか、本当に俺、副隊長と結婚するのか???
副隊長が専業主婦?……
「ほら、さっさとサインをしろ!!!! 何をぐずぐずしている!!!」
「は、はいっ!!!!」
「ほら、さっさと行くぞ」
「行くってどこにでしょうか?」
「籍を入れたら初夜に決まっているだろう!……覚悟をしておけ」
しょ、しょ、初夜??(゜ロ゜)
- 154 -
← back →