第六部隊にはアイドルがいた。
名前はイブという名前のキュートな18歳の新人だ。とにかく可愛い。つぶらな目に愛らしい顔立ち。部隊に入隊できるほどなのでそれなりの戦闘能力はあるのだろうが、守ってあげたいと思うような雰囲気をかもし出している。
今期のお嫁さんにしたい新入隊員ナンバーワンだ。

「可愛いよな、イブちゃん。お嫁さんにしたいなあ」

「本当だよな、けど俺たちにはチャンスありだろうけど、お前は無理だろ? ロアルド」

「何でだよ?」

何で俺だけチャンス無しになるんだ。皆平等にチャンスはあるはずじゃないのか?

「だってお前って伯爵家の一人息子だろ? 嫁にはそれなりに格式があってそれなりの魔力を兼ね備えていないと無理じゃないか? 家も認めないだろ?」

「まあそうだろうな。だってお前の実家って凄い金持ちだろ? 見合いの話もかなり持ち込まれているだろうし、いくらイブちゃんが可愛いからって、魔力はなんとか部隊に入隊できましたって程度だし。俺たちみたいな貴族でも下っ端ならイブちゃんと結婚しても許されるだろうけど、未来の伯爵様じゃ無理だろ」

俺もそこまでイブちゃんに本気というわけではないんだが。ただ可愛いと仲間と見ている程度だ。
ただこんなにあからさまにお前はイブちゃん対象外と言われるとムカつくのも事実だ。
確かに、実家の家格などを考えれば俺の妻になるのはそれなりの家でそれなりの魔力の持ち主で……夢も希望も無い。

「おい、貴様ら何訓練をサボっている!」

「あ、申し訳ありません、副隊長閣下!」

「特にロアルド! 貴様は魔力のわりに動きが遅すぎる! ほら掛かって来い!」

問答無用で副隊長が剣で切りかかって来た。その剣戟は重い。副隊長ともなると俺たち一般騎士とは中々訓練をすることも少ないが、この副隊長は自ら部隊の訓練の指揮をしてくる。

「くっ」

今は純粋に剣だけの訓練だが、副隊長のスピードと剣儀はおそらく部隊一だろう。素晴らしく早い剣裁きについていけずに、剣を弾き飛ばされた。

「ロアルド、貴様は魔力が高いせいで剣の訓練をおろそかにしてきただろう。それだけじゃない、魔法の魔力の高さに胡坐をかいで訓練を怠っている。それでは上にいけないし、俺にも勝てないだろう」

剣を弾き飛ばされたついでに、回し蹴りをくらい10メートルほど吹っ飛ばされた。
副隊長は強すぎる。何故かいつも訓練でしごかれ、ボコボコにされ、自信を無くす毎日だった。
確かに俺は副隊長よりも弱い。ただ、俺が弱すぎるんじゃなくて、副隊長が強すぎるんだと思う。俺だって一応将来を期待されている新鋭……のはずだと思うし、実際そう言われているのに。

「今日もボコボコにされたな」

「まあ、すぐ治るから良いけど……なんか俺だけ副隊長の目の敵にされているような気がするんだけどな」

物理的攻撃をしかけられると、体が反射的に治癒魔法を働かせるので、いくらボコボコにされてもそう簡単には死なない。ただし、これが魔法攻撃だと、自分より魔力の高い攻撃魔法を食らうと治癒魔法が追いつかない事態になる。まあ、実際そんな事になった事はないが。

「あ、俺も見ていてそう思った。ロアルド、副隊長に嫌われているような気がするな。なんか気に触るようなことをやったのか?」

「何もやってねーよ。あ〜あ、明日見合いだって言うのに気分が乗らないな」

「見合いなのか? どんな子? 美人か?」

「や、見たことないし知らない。父上が映像送ってきたけど、見ていないし」

興味がないというよりも、親に勧められて結婚というのが気が乗らない。
どうせ結婚するんだったら胸が高鳴るような出会いや、愛しくて堪らないようなそんな子と結婚したい。ただそんなことを言うと伯爵家の跡取り息子が生ぬるいことを言っているとか、笑われそうで言った事ないけどな。

と余り気乗りしない見合いだったが思いの他、見合い相手が美人で大人しそうな子だった。あの子だったら結婚しても良いかなと、良い返事を出そうと悩んでいた時。

「おい、ロアルド……貴様、見合いをしたというのは本当か?」

「副隊長! は、はい。本当です」

「それで、勿論断わるんだろうな?」

「え? いえ、とても素敵な方だったので、このまま進めてもらおうかと」

「貴様は愚かだ! お前みたいに弱い男が結婚して妻を守れるとでも思っているのか! 俺にも勝てないと言うのに、結婚なんて早すぎる! そんな台詞は一人前になってから言え!」

「で、ですがっ……結婚のことを副隊長にどうこう ぐはっ」

蹴られて呼吸が止まった。

「今は結婚よりも仕事で一人前になる事を考えろ! 良いな! 伯爵からは俺が言って断っておく! 今後俺の許可無く結婚などしようと思うな! 分かったな!」

と言うと、本当に結婚話は無くなっていた。父親からも副隊長が認めるような男になってから結婚すべきだと言われ、何故か俺は副隊長の許可がないと結婚できないようになっていた。

「何でなんだ? 何で俺だけ副隊長の許可がないと結婚できないなんて………」

普通は有り得ない。いくら上司だからと言って、結婚の許可を上司が左右するなんてありえない。

「俺、副隊長に嫌われているんだろうか……」

「ご自分が結婚していないから、部下が結婚するのが許せない……とかじゃないもんな。他の部下、普通に結婚しているしな」

「そもそも副隊長って旦那様にしたいナンバーワンだろ? うちの隊で。お前を妬んで結婚を許可しないなんて有り得ないしな……嫌われているんじゃないか?」

「あ、そうかもな。何かいつもロアルドのこと凄い目で睨んでいるからな。お前魔力は高いのに、不甲斐ないと思われているんじゃないのか」

「俺は副隊長イブちゃんのこと好きなんじゃないかって睨んでいる。特に、副隊長ロアルドがイブちゃんに話しかけている時に、お前を殺すんじゃないかって言うくらい憎悪のこもった目で見ている気がするからな」

「副隊長のほうが俺よりもずっとイブちゃんと結婚するのに向かないだろ? 俺よりも高位の家の出だろうし、格式高い魔力の高い奥方を娶らなければいけない立場じゃないのか?」

副隊長の凛々しく、貴公子のような姿を思い浮かべた。うちの国には珍しい黒髪に、マリーンブルーの目。文句なしにカッコいいけれど、皆のアイドルイブちゃんと結婚する立場ではないだろう。

「だからじゃないのか? 自分ではイブちゃんと結婚できないから、お前の事羨ましいとか? けど、別にロアルドだってイブちゃんとは難しいよな?」

なんにせよ、俺はどうやっても副隊長の許可がないと自由に結婚できないという事態になってしまった。父も見合いの話を持ってこないし、何で父は副隊長の言う事を聞くんだ?
何か弱みでも握られているんだろうか?


「ぐはっ……はぁはぁ」

「ロアルド! お前は魔力の高さばかりに頼っていて、発動も技も磨こうとしていない! だから、俺相手に一度も勝てないんだ。魔力の高さだけなら、お前のほうが僅かに勝っているはずなのに、勝てないという事はそういうことだ」

今日も副隊長に扱かれ、一度も勝てないままもはや日常のようになってしまったボコボコにされる扱きを受けていた。

「も、申し訳ありませんっ」

「魔力が高いほうが必ず勝てるとは限らない。技の発動時間も大切なことだ。できるだけ短い時間で発動して、相手を倒さないと相手の魔法の発動のほうが早くて殺されることだって有り得るんだ。実際、俺が本気だったらもうお前は何百回と殺されている」

魔力が高いほうが勝つ。これは当たり前と思うかもしれない。圧倒的な魔力の量がある場合は、こういう方式が当てはまる。だが俺と副隊長くらい魔力が僅差だと、受けるダメージも大きい。すぐに回復する前に何度も攻撃を受けると、回復が追いつかずに魔力の低い相手に負けることもある。

俺と副隊長は若干俺のほうが魔力が大きいであろうが、死闘になれば勝つのは副隊長のほうであろう。それだけ経験も魔法の技も豊富で剣儀にも優れていて、俺が勝てる要素が思いつかない。

「分かっています……分かっていますが、副隊長の訓練には感謝をしています! けど、俺の結婚にまで口を出すのは行き過ぎなはずです!」

「一人前ではない部下の管理をしているだけだ!」

「では、他の部下たちも皆結婚禁止にしているんですか?! 俺だけでしょう! 俺が一人前ではない事は納得しています! けど、俺だけ禁止なんておかしいです!」

「お前の魔力ならもっと上にいけるんだ! いずれ俺の代わりになって、部隊をまとめていけるほどになるはずだと期待している。だからそれまで結婚禁止だ」

「なら俺は副隊長になるまで結婚は禁止なんですか? そんなのあんまりです! 一体何年後になるんですか?」

魔力が高ければ上にいけるわけではない。年功序列の部分も勿論あるし、部隊によって上が産休や結婚退職などで順調にいなくなればあっという間に出世できる場合もあるし、反対に上がちっとも引退せずに現役でいれば、それだけ出世がしにくくなる。
実力だけで出世ができるとは限らない。
俺が副隊長に出世できる能力があったとしても、席が空いていなければ不可能なのだ。それに一体何時になるかすら不明だ。

「なら、お前が分隊長まで出世できたら、考えてやろう。それまでお前は一切結婚のことを考えるな」




どう考えても、ママの行動は攻めにしか見えない・・・



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