サラを妊娠していらい、隊長とは何もしていない。
ルカやサラが見ている時に隊長がべたべたしてくることがあったが、それ以外では寝室で一切手も触れさせていなかった。

毎回思うのだが、俺が嫌だって言えばシクシク泣いているだけの性格は、これまでベッドで相手にしなくて済んでいたのでとてもありがたいと思っている。しかし実際にこうやって相手をしないといけない場合はユーリ隊長やギルフォード王子のように有無を言わせず奪うような性格のようがありがたいと感じてしまう。

でも、優しいは優しいんだよな……強引に奪おうと思えばいくらでも出来るはずなのに、俺なんかの言葉に一喜一憂して、この人国王になるって言うのに。

「エルウィン……良い、のか?」

「ええ……お願いですから、黙ってして下さいね。隊長がしゃべると失言ばかりで途端にやる気がなくなりますので……」

本人は失言だと思ってないようなことを真剣に話すので、せっかく俺がやる気になっても、隊長の発言のせいで台無しになってしまう事が多々ある。言っておくが、やる気になったのは、したくてたまらないというわけじゃなくて、国のため子ども達のために、普通の夫婦関係を築くべきだと覚悟しただけだ。

ただし、これまでそんな覚悟も隊長のせいで何度も駄目になってきているので、できれば台無しにされたくない。

「分かった……エルウィンを愛している以外、口にしないようにする」

「それが懸命だと思います」

こんな会話をする夫婦って、一体と思わないでもないけれど、隊長だから仕方がない。
国王陛下にもお願いをされていた。隊長は初代公爵に似てしまっているのだと。何もかも優秀で、何でもできる代わりに人の心が読めず、天然に迷惑を世間にかけてしまっているのだと。嫁がしっかりしていればきっと大丈夫だから大目に見て欲しいと懇願されたのは、即位式の練習をしている時だった。

「愛している」

俺は無言で隊長が俺の服を脱がすのを見ていた。
前回隊長に騙されたときに新婚旅行までしてしまっていて、そこで何度もしたので、行為が物凄く恥ずかしいという訳ではない。
むしろ隊長のほうが余程緊張しているように見えたし、服を脱がせる手が震えていた。

「あの……このままするのは問題ないんですが……またすぐ妊娠っていうのも困るんですが」

隊長と俺は相性が良すぎるのか分からないが、本当にすぐ妊娠してしまう。前回は逆算すると新婚旅行一日目でできちゃったようだし、リエラの小屋でできなかっただけまだマシかもしれないが。

隊長と初めてしてしまった時も、一回目は大丈夫だったけれど二回目であえなく妊娠してしまったし、毎回二回目で妊娠している気がする。
しかし、じゃあ今回も一回目なら大丈夫か? と言われたら、大丈夫なわけないと思う。

「で、できるだけ頑張るから……嫌だといわないでくれ」

「頑張るとは?」

「に、妊娠させないようになんとか頑張るので、今になって嫌だとは言わないでくれないか?」

「分かりました……言いません。努力してもらえれば、良いですよ」

妊娠するしないは本当に隊長の魔力操作にかかっている。俺ではどうしようもない事だ。
隊長は莫大な魔力があるのに、操作はどうして苦手なのだろう。

「優しいな、エルウィンは……本当に私はエルウィンと結婚できて幸せだっ」

優しいのは隊長のほうですよ、とは口にはしなかったけれどきっと隊長も分かっていると思う。



「んっ……隊長?」

「エルウィン、おはよう」

「……おはようございます」

昨日は何事もなく終わったな。何かあるかと思ったけれど、本当に何も無く終わってしまった。
何時も、覚悟してしようとして、駄目になる事が多かったから、なんとなく昨夜も駄目になるかもしれないと思っていたけれど、そういうことにもならなかった。

「エルウィン、昨日は最高に幸せだった……ありがとう」

真面目な顔をして、おかしなことを言わない隊長はとってもかっこよく見える。いつもこうなら良いのに。

「これからも、こうして仲の良い夫婦でいたいものなのだが……」

「それは……隊長次第ですね」

俺が老けないようにするためには、隊長と定期的にする必要がある。けれど普段の変態っぷりを疲労されるとしたくなくなるので、結構この隊長演技しているような気がしないわけでもないけど、頑張って格好良い隊長を維持するのなら。

「分かった!……エルウィンに相応しい夫になれるように頑張るから!……今度こそエルウィンの期待を損なわないようにする!」

「期待していますよ……」

俺だって好き好んで隊長に冷たくしているわけじゃないんだ。できれば優しくしてあげたい思う。
ただ優しくする前に幻滅していたわけなんだけど。



「エルウィン、ついに2年ぶりに隊長とやったんだって?」

「何で知っているんですか?」

隊長がまさか言いふらしているのか?
血祭りにあげるしかないのか? と一瞬思った。

「別に隊長が言っていたわけじゃないぞ。ただ、それはもう幸せそうな顔で政務をしていたそうなので、まあ昨日あんな会話をしていたからついにエルウィンも覚悟を決めたんじゃないかって思ったんだ」

エミリオ分隊長は第二子のウィルバーとギルバードを連れて遊びに来てくれていた。

サラとギルバードは同じ日に生まれたので、良い遊び相手になってくれている。王子の遊び相手って身分とかとても重要らしいが、ギルバードなら身分も家柄も全く問題がないし、ルカの遊び相手のアンジェ君もだ。アンジェ君は若干問題があるけど。

「覚悟って言うか……ルカが泣いて……俺が若いままでいて欲しいみたいなんです。まあ、気持ちは分かりますし、隊長も俺が年をとろうがどうでも良いけれど、家族のために考えて欲しいと言われたら……鬼嫁しているこっちが悪者ですよね?」

「まあ、子どもを盾に出されたら仕方がないな……俺も、ギルフォードはあんなだけど、ギルバードとウィルバーの父親だと思えば、可愛がってやろうと思うしな」

「ギルフォード王子は普段は常識人なので問題ないですよ……あ、そういえば、どのくらい夫婦関係を持てば老けないでいられるんでしょうか?」

「そうだな……通常は週に一回くらいだと言われているけれど、隊長は魔力も強いし月に2〜3回もすれば充分じゃないのか?」

「それくらいだったら、なんとかなりそうかな」

「まあ、エルウィンは高魔力の子どもを二回妊娠しているから、もっと少なくても大丈夫かもしれないけれど、正直誰もそんな統計とっていないし、セックスレスの夫婦は存在していなかったから何とも言えんな」

でしょうね。俺が初めての老ける王妃になるかもしれなかったんですから。
そもそも高位魔力保持者じゃない王妃自体が、女性である王妃様と俺くらいしかいなかったんじゃないのかな? 歴代王妃は。

「そういえば、サラはここにいるが、ルカはどうしたんだ?」

サラとギルバードは一緒に遊んでいるが、子どもたちが遊びに来てくれたときはルカも一緒にいるのが当たり前だったか。

「なんか、隊長とお話したいことがあるって、パパのところに行ってますよ」

「ルカはパパっ子だよな」

「似たもの親子で気が合うんですよ。でも政務の邪魔をしては悪いので、迎えに行ってきますね」

昔は俺を取る息子みたいな感じで、可愛がっていたが邪険にもしていた時もあったが、最近とみにルカは隊長に懐いて、隊長もかわいがっている。
悪くはないが、ママである俺が疎外感を感じるときもある。

「たいちょ……」

執務室のドアをあけて声をかけようとしたとき、声が聞こえてきた。

「パパ、僕ちゃんとパパの言うようにできた?」

「ああ、流石は私の息子だ! 完璧な出来だったぞ!」

「ほんと!? じゃあ、約束どおり僕とアンジェ君を結婚させてくれるよね?」

「ああ、勿論だ! なに、アンジェはユーリの息子だから嫁にくれと言えば問題ない。アンジェの婚約者はルカだ!」

「パパ大好き!」



……

………

そうだ、ずっと危惧していたじゃないか。
あんなに可愛くてもルカは隊長の子どもなんだって……

目的のためなら手段を選ばない隊長の血、公爵家の血を引いているのだって……

ママすら騙すようになったのか、ルカ。

「ルカ……隊長……夫と子どもに騙されるなんて、有り得ないですよね……」

「ママ!!!!!」

「エ、エルウィン!!!!!」

「ママ、僕ね、ただアンジェ君と結婚させてくれるって言うから、パパの言う事聞いちゃったんだ!」

「こら、ルカ私を裏切るのか!? エルウィン違うんだ!!! 私は何1つ嘘偽りを言っていない! ルカも同じだ!!! 私達家族のために、エルウィンが若いままのほうがっ!」

「どんな言い訳も要りません!!!!!! 正座!」


その日、執務室の廊下で王太子と王子が何故か正座をさせられてシクシク泣いているのを見られたらしい。何故正座をしているのか誰も知らないまま……なわけではなあったが、誰もが口をつぐんだ。

「エルウィン……寝室の廊下ならともかく、執務室の廊下は目立ちすぎるから」

「だから何ですか? 可愛い息子にまで裏切られて、また夫に騙されて、そんな俺に隊長の立場を考えてやれとでもいうんですか? 俺は構いません。世紀の鬼嫁と呼ばれたいです……隊長は世紀のヘタレ王とでも呼ばれるのが相応しいでしょう」

その後、隊長は寝室にすら入れてもらえず廊下で毎日寝ているのが目撃されたという。

夫会で「2年ぶりに一回でもできたんですから良かったじゃないですか」「この一回を噛み締めて、2年後また性交できるように頑張りましょう」「一回も出来ないよりよかったじゃないですか」と親戚に慰められたらしいが、隊長の気分はずっと(´;ω;`)だったと言う。



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