なんだか今日のお茶会は色々考えさせられることがあって疲れてしまった。
元々隊長が規格外な存在なのは知っていた。だからこそ隊長と結婚など恐れ多いと思っていたし、ありえないとも思っていたのだ。
まあ、規格外なのは今親しく付き合ってもらっているクライス様やエミリオ分隊長も同様なんだけど。
「あ、おかえりなさい隊長。ルカ、パパ帰ってきたよ〜」
「パパ〜」
「おお、ルカどうしたんだ? 今日は大歓迎をしてくれて」
ルカはパパが大好きなんだけど、今日はちょっと様子が変だな。パパに抱きついて離れない。
「パパ……ママだけがおじいちゃんになっちゃうの」
「ルカ? 何のことだ?」
「何でもないんです! 聞いていたの? ルカ」
お茶会は公爵家で開かれて、従兄弟と遊ぶのが大好きなルカやサラも当然連れて行った。
ルカはアンジェ君とはできるだけ離して置きたいところだけど、こんな幼い頃から大好きな従兄弟に会わせないのも大人気ない気がして連れて行ってしまう。
クライス様たちと話している間アンジェ君と外で遊んでいたはずだったのに、俺たちの話しを聞いてしまっていたのかもしれない。
「ママがね、ママだけおじいちゃんいなっちゃうんだって!……ぼく、ぼく、そんなの嫌だよ〜〜〜」
「ルカ! そんなことないから! 大丈夫だから!」
ルカは俺だけ老いてしまうことを知ってびっくりしたんだろう。泣いて隊長に縋っていた。
「エルウィン! どうことか良く分からないが……いくら息子を宥める為とはいえ嘘を言ってはならない!……このままでは、エルウィンだけ家族の中で違う時を刻んでいくのは違え様のない事実なのだから」
「そ、それはっ……」
確かに隊長の言うとおりだ。このままでは俺だけ老けていって、ルカやサラたちから見たら異様にしか見えないようになってしまうのだろう。
俺はそれでも良いと思っていたし、そもそもそれが当然だとも思っていたからむしろ若いままと言うほうがおかしい気さえする。けどルカにしてみれば、俺だけが年を取っていくというのはショックなことなのだろう。それは理解できる。
そしてその場限りにルカを安心させても結局嘘になるだけだ。隊長の言うようにいくら幼いからと言って嘘をついていいわけはない。
「でも、俺のように普通に年を取っていくのが自然の摂理だとは思いませんか? 隊長たちが規格外なだけなんです。ルカも王子なら将来の国王として大多数の国民は加齢をしていくのが当然のことだと知っていても良いと思います。俺が良い見本になるかと……」
「本当に良い見本になるとでも思っているのか?」
ルカはまだ幼いので細かい事までは両親の会話は分からないだろうが、それでも聞かれたくない話の時は防音の魔法を施す。今回も隊長がルカだけに聞こえないように魔法を使った。
「俺が魔力が高くないのは事実ですし、そういう人間がいるということの」
「いや、そういうことではない。普通に加齢をしていく人間の見本が欲しければ、乳母やメイドや庭師、王宮にいくらでもいる。エルウィンが見本である必要はない……エルウィンが普通に加齢していくことがどういうことを示しているのか考えた事はあるか?」
「俺が魔力が普通だという事の」
「私とエルウィンの……つまり両親が不仲であるという証だ。それを息子に見せ付けることになる」
「っ……」
その通りだ。俺単体なら普通に年を取っていくのもしょうがない。または伴侶が俺と同じように高位魔力保持者でなくても同様だ。
しかし隊長が相手なら俺も若いままであるのが当然なのだ。今は分からなくてももっと大きくなれば、俺だけ年を取っていく、つまり両親が上手くいっていないことを言わなくても示しているも同然になってしまうのだ。
「俺は……年を取っていくのが人間としての当然の営みだと思っています」
「分かっている」
「隊長は俺が老いたら嫌いになるんですか?」
「まさか! そんな訳はなかろう! エルウィンだったらどんなエルウィンでも大好きだ! おじいちゃんになったエルウィンもとても可愛いだろうし、おじさんになってちょっと腹が出たとしても愛らしいだろうし、私はエルウィンがどんなになっても愛しているし、年を取ったって全く構わない!」
「なら不都合はないですよね?」
ただ子ども達には不都合はあるが……
「ただ……エルウィンだけ年寄りになってしまったら……国民や他の事情を知らない貴族たちに、私達が……全くエッチしていないのがばれてしまう。国王がセックスレスなどとばれたらこの国は馬鹿にされて、侵略されて滅亡してしまうかもしれない」
え?
別に俺たちがセックスレスだってばれても、もう王子が二人もいるんだし何の問題もないよな?
馬鹿にされる事はあるかもしれないが、他国が面と向って言ってくるはずないし、侵略? ありえない。
うちの国の軍事力は他国の何百倍もあるし、義弟のユーリ隊長だけでもいれば、指一本で他国を壊滅されるだろう。ちょっといっちゃっている変態分隊長たちだっているし、隊長の言っている事は大げさすぎるだろう。
うちの国が敗北するとしたらギルフォード王子が他国に通じて、国全体に魔力阻害で魔法を使えなくして連合で攻めてきたら、有り得るかもしれない。けどエミリオ分隊長を熱愛している王子が裏切るはずないし、どう考えても有り得ない事態だろう。
ただ確かに俺だけ老けていると隊長は何をやっているのかとか、国王夫妻が不仲だとか、色々詮索されるだろうし、国民も不安に思うだろう。
セックスレスをしていても表面上仲良くしておけば問題ないと思っていたのに、こんな加齢するしないで露見するとは思わなかった。
「……隊長が面目がなくなることになりますよね……それに国民も国王夫妻がどうなっているのかと疑心暗鬼にかられるでしょうし」
「いや、私のことは良いんだ。エルウィンに国王の面子だとか、国民の生活がどうの、という理由で我慢して無理強いしたくはない」
「でもっ…」
クライス様を見ていると思う。あの人は本当にしっかりした方だと。
同じように騙されて結婚したのに、あの人は肝が据わっている。ユーリ隊長との不仲?を誰にも知られることなく、受け入れ、そして3人も子どもを儲けている。しっかりとした覚悟のある人だ。
それなのに俺はちゃんと同意して結婚したはずなのに、俺には何の覚悟もない。このままこんな生活を続けていけば、隊長にどれだけ迷惑をかけることになるだろうか。
恥をかかすことにもなる。
「しかし……私の面子はどうでも良い。誰に笑われたって構わないんだ。だって私にはエルウィンがいてくれるから、エルウィンと結婚できたという幸せがあるから、何を言われても構わん。しかし……誰に嘲られたとしても、ルカやサラだけは知らないでいて欲しいというのが、私の我がままだろうか?」
「隊長……」
俺だって分かる。子どもたち二人には俺たちは仲の良い両親だと思っていて欲しい。
隊長が変態だから常識を知らないから俺は隊長をどうしても受け入れられない。
でも、こうして真面目に話している隊長は昔の理知的だった隊長を髣髴させる。あの頃は隊長にずっと憧れていた。
「ママ……ママは綺麗なままが良いの」
「ルカ……」
「ルカ、ママに我がままを言ってはいけない」
けれど何時か子どもたちもこのままでは俺たち夫婦の実態を知ってしまう。国民も他の貴族たちも。でも隊長はそれでもいいといってくれている。
ただ子どもたちのことだけが気がかりだと……
「隊長……ルカを乳母に預けてきてください。そして朝まで寝室には近づけないようにと……」
*
い、いけるか?
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