拒否する声は大きくは出せない。だって今はベッドにうつ伏せに押し付けられて、背後から大きな男が自分を犯しているのだから。

「大声を出して助けを求めて良いんだよ、クライス?俺は大歓迎だ」

できるわけはない。そんなことをしたら身の破滅だ。男と密会し婚前交渉に及んでいる。しかももう何回もだ。そんなことがばれたら。
この男は良いだろう。

「クライス、愛している。早く俺のものになって欲しい」

「死ね」

俺のことを好きらしいから。ばれたところで何の問題も無いだろう。でも俺は違う。愛してなんかない。
なら、何で黙ってやらせているかって?
黙ってなんかいなかった。抵抗は自分できる最大限のことをした。
これでも副隊長という地位を陛下より頂いている立場だ。剣の腕や体術は自信があった。だが、目の前の男には適わなかった。

一度目は無理矢理襲われ奪われ、二度目以降は皆にばらされたくなければ言う事を聞けと、ありがちな脅しに屈してしまった。

「なあ、まだ孕まないのか?俺たちの子ども、絶対に可愛いだろうに」

死んでもごめんだ。お前の子どもなんて、孕むものか。

「今夜でできたかもしれないな。こんなに愛しあったんだもんな……できてるに違いない。なあ、そう思わないか?クライス」

「思うわけないだろ!お前なんかこれぽっちも愛していないし、むしろ憎んでいるのに!貴様なんか死んでしまえっ!」

「そんなこと言ってられるのも、今だけだ……俺の子を身篭ったらそんなこと言えないだろ?…うん?違うな。もう孕んでいるんだった。今日や昨日か、その前かできっとここにいるよ。妊娠している、妊娠している。俺の子がいる、俺の子がいる」

毎回のように俺にそう気持ち悪く囁くこの男を、毎回のように殺してやりたくなりながら夜を明かす。その呪いのような呪文にかからないように、必死で足掻いているのだった。
身体は自由に出来たとしても、この男に自分の未来まで自由にさせるわけにはいかなかった。



「クライス、寝不足か?……顔色が悪い。お前が倒れると部隊がまわらんから、夜更かしはほどほどにしろ」

あの男の兄だとは思えないほど、清廉潔白な男である俺の上司の隊長にそう言われ、こんな目に自分をあわせている男は貴方の弟ですと言えたらどんなに良いだろうか。
勿論言えない。言えば楽になるかもしれない。しかし仮にも副隊長という地位にある自分が、力づくで身体を蹂躙され昨夜も好き勝手されたなどと、どうして言えるだろうか。

あの男、ユーリの身勝手さを思えば、世間にこの状況を暴露し、無理矢理結婚に持ち込もうとしないほうが不思議に思っている。

勿論全くあの男のことなど愛していないが、あいつは愛しているらしく、結婚したいと言われていた。
あれでも最初のうちは、愛の告白らしいものからはじまって、デートの誘いなど紳士的に申し込んできたのだ。しかしそれを拒んだのは、ユーリという男を純粋に好きになれなかっただけだ。

けっして悪い相手ではないだろう。生まれも育ちも申し分のない男だった。公爵家の次男で、直接の上司ではないが、別の部隊の隊長を任されるほどの実力の持ち主。結婚相手として考えるとしたら、おそらくこれ以上ない相手だっただろう。
男だから駄目という訳ではない。好きな相手がいたからだ。

「分かっています……申し訳ありません」

目の前の男が好きだった。一緒に仕事をするようになってから、憧れから恋慕に変わった。しかし隊長は色恋沙汰に全く興味のない男だった。公爵家の長男でいずれは国王になるかもしれないということで、結婚の話も多数持ち込まれているというのに、仕事一筋で、肉欲など持ち合わせていないかのようだった。

だから部下として信頼されている身で、下手な恋慕の情を向けて気まずい間柄にはなりたくない。いくらなんでも未来の王妃など自分には無理だと分かっていた。何よりも彼は結婚する気はないらしい。相手にされるはずもないだろう。

だからこの気持ちを誰にも伝えたことはなかった。
隊長の弟のユーリ以外には。

ユーリはいくら俺は貴方のことが好きになれないと告げても、諦めることはなかった。そのうちに好きになってもらうから気長に待っていると、笑みさえ浮かべて穏やかな顔をしていた。

この国は貞操に煩く、男も勿論結婚するまで手を出すつもりは毛頭ない。そう言ってくれたのだった。だが、どうやってもユーリに答える術を持たなかった俺は、彼は早く別の男を好きになるべきだと思い真実を告げた。

絶対にユーリを好きになることはない。自分が好きなのはユーリの兄なのだと。この男と恋した男が実の兄弟だからこそ、愛せないと。二人は兄弟だけあって、容姿が良く似ていた。

もしまた別の男を好きになるとしても、ユーリだけは身代わりにするようで嫌だと告げた。それで諦めてくれたら良いとおもいながら。
正真正銘、あの男はその日まで兄と同じように清廉潔白で、紳士だった。俺が好きな人は貴方の兄だと告げるまでは。



*隊長はエルたんに会うまではそれはそれは真面目な男だったんです・・・・



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