俺がこの国に来て半年……護衛と称して第五部隊副隊長の家に住まわされていた。
名目は婚約者、だが何故か人に紹介されるときは妻だと言われている。

妻も婚約者もどの道同じようなものだが、もう国にも帰れないし、この副隊長リーフィアの妻になる事はもう決まってしまっている。
現在リーフィアは29歳独身。副隊長という地位にあり、貴族の跡取り息子で、一見非の打ち所のないように見える。

「私たちは、副隊長がこのままでは一生独身になってしまい、妖精どころか小鳥になってしまいそうでずっと心配していた! しかしイーディス君、君のように美しい少年が副隊長にお嫁入りをしてくれると聞いて、こんな嬉しい事はない!」

小鳥って何?と聞いたら、40歳を過ぎて独身の人を指すらしい。精力が落ちて、小鳥のように大人しくなる…年齢を示唆しているらしい。

しかもお嫁入りするのを聞いてって、あんたたちその場にいただろう。しかも半分王都まで誘拐してきたのも副隊長リーフィアの部下であるこの分隊長さんたちである。

もう逃げ場はないので、婚約者ということで副隊長さんの家に住まわされている。俺が書いた両親への手紙はもう10通を超えた。出していないけどね。

「私のことを副隊長さんをと呼ぶな! 私にはちゃんと名前がある」

「じゃあ、リーフィアさん?」

「いかんな、夫婦になるというのにそのような他人行儀な呼び方は。旦那様と呼ぶんだ」

「……旦那様」

俺はその旦那様に半分監禁されて生活をしていた。せっかく王都に来たんだから王都くらい散策したい。国中を回りたい。いや、俺もそこまで往生際が悪くないのでこの旦那様から逃げ出して国に帰ろうとまでは思っていない。色々噂で聞いているんだ。過去逃げそうとした花嫁の罰として国を滅ぼしてしまった人とか、帰る国がなくなれば諦めがつくだろうとか、そうやって無くなってしまった国は1つや2つではきかない。

だから俺も往生際悪く国に帰ろうとは思っていない。でもこの国では18歳で成人だから、俺が旦那様と正式に結婚できるのは18歳になった時だ。だからまだ18歳まで2年半くらいある。あと2年半くらい自由にしてくれても良いのに。

しかし旦那様は、いかん! イーディスが危険な目に会ったらどうするんだ! この家から出ては駄目だ! 欲しい物があったら何でも買ってやる。と物だけ買い与えて、外出できずにいる。
俺はこれでもこの国でも分隊長に準ずるくらいの魔力はあるらしいのに。


「兄貴! いないのか!?」

「えっと……旦那様は今日急に仕事ができてしまったとさっき出掛けてしまいました」

兄貴と呼ぶということは、この人は旦那様の弟なのだろう。急に転移して現れた人たちを見てそう思った。

「え? そうなのか? 今日来るって言っておいたのに。えっと、君は使用人? のわけはないか。なかなか魔力が高いし、兄貴の従卒か何かかな?」

使用人は普通魔力のない人間がする仕事だ。だから使用人には間違えられることはない。
取りあえず居間にでも通したほうがいいのかな?
弟さんと弟さんの伴侶かな? その人が赤ん坊を抱いていた。

「俺は旦那様……リーフィアさんの婚約者です。今ここに住んでいます」

「は? はああああ? 聞いてない……けど、そうだよな。あのマザコンが君みたいな母に似ている子を放置しておくはずないか……俺はグレイシア、リーフィアの弟でこれは夫のイアン。で、この子が息子のイリヤ。今日はイリヤの顔見世に来たんだけど……」

ため息をつきながら、グレイシアさんは俺を見ていた。

「どうみても未成年だよな。どこの貴族の息子さん? 普通は18歳にならないと婚約者といえでも同居なんかさせないんだけど。あの兄貴がどうしても同居したいとでも言ったんじゃないのか?」

「俺はこの国の人間じゃありません。レザンから来ました……リーフィアさん一派に勝手に嫁認定をされてここに半分監禁されて生活しています」

「誘拐されたのか……あの兄貴はっ……すまない! 常識が無くって」

「常識は無いですけど……この国では誘拐は合法なんでしょう?」

「まあ、そうだか……だが全部の国民がこの法律を歓迎しているわけではない。本人の意思を無視して連れてくるなんて俺は許されないと思っている」

この国でも、というよりも旦那様の血縁でマトモな人がいたんだ。驚きだ。

「僕は良いと思うよ。だって好きになったらしょうがないよ」

「イアン、確かに法律は合法だ。だが、考えてみてくれ……俺がもし誘拐されてイアン以外の男の妻にされたとする」

「そんな! 許せないよ!」

「だろう? 本人の意思を無視して、そんなことされたら可哀想だろう? お前ももうイリヤの父親になったんだ。イリヤの目の前で人の気持ちを考えないようなことを言うんじゃないかと心配になるな。そんな父親じゃあ、もう子作りできないかもしれ」

「グレイ! 僕、この法律には反対です! イーディス君、もし国に帰りたいんだったら僕たちがレザンに帰してあげるよ」

「ああ、遠慮なく言ってくれ」

「気持ちは嬉しいんですけど……俺、レザンの平和を乱したくありません。もう国に帰るのは諦めているので、大丈夫です」

いくら旦那様の弟夫婦が助けてくれるといっても、レザンを命がけで守ってはくれないだろう。

「……そうか……まあ、確かにあのマザコンがそう簡単に諦めるはずがないか」

旦那様の部下や弟さんもマザコンと言う。そんなに俺って似ているのかな? 確かにグレイシアさんと俺の目の色や髪の色はそっくりだ。でもグレイシアさんは男らしいイケメンだ。顔はそんなに似ていないよな?

「俺はまだ旦那様のお母さんにお会いした事ないんですけど……そんなに似ているんですか?」

「僕もグレイのお母さんに会った事ないんだよね。グレイには似ていないんだよね?」

「ああ、俺は色彩は母上に似ているんだが、顔はそんなに似ていない。兄貴は父親似だしな。兄弟そろって母上には似ていないが……君は本当に良く似ている。たぶん、先祖にレザンから花嫁を二回ほど浚って来ているから、母上はレザンの祖先に似たんだろう。イーディス君も先祖に似てしまったことを恨め」

「一度お会いしてみたいんですが」

「それは難しいだろう……俺はそれほど制限をされていないが、兄貴なんかは会うことすらなかなか許可されず、母上は家族以外にはこの30年会った事もないほどなんだ」


二人の母、ヴァレリーはストロベリーブロンドに緑の目をした美しい人だったらしい。しかし夫にと選んだ人は二人の父親よりも何もかも劣る人間だったらしい。
それでもヴァレリーは、身分も地位も魔力も何もかもが揃っていた二人の父よりも愛しい男を選んだ。
激しい求婚にも負けずに、たた愛を貫き通そうとしたらしい。

「いくら脅されても、俺は……貴方を愛したりはしません! 俺が愛しているのはあの人だけです」
「そこまで拒否されたなら仕方がない……私も鬼ではない。あの男を解放してやろう。ただし、あの男は、罪人だ。国外追放になる。元々無かったに等しい地位も名誉も職もかねも全てを失う事になるが、それでもついていくのか?」
「この世の果てまでもついて行きます」

この国民は国王といえども無理矢理結婚させる事はできない。すべての個人の意思にかかっている。例え男が名家で権力もあり金もあったとしても、愛しい男の意思を変えることだけは出来ない。結婚を強制することも、強姦する事も法律で禁止されている。
男は恋敵に罪を着せ、国外追放とすることにした。

「国外追放になった男についていけば、君もこの国の国籍を失う事になる。もう二度と自分の意思でこの国に入国する事は適わなくなるぞ?」
「それでも、貴方の妻になるよりか、どれほど幸せでしょうか」

ヴァレリーは愛しい男を追って、国を出た。絶望は感じていなかった。愛する男が行き先には待っているはずなのだから。

だが、恋人に会うことは適わなかった。

「ヴァレリー、これでもう君は私のものだ」

ヴァレリーはこの国の国籍を失っていた。結婚に両者の同意が必要なのも、無理強いが禁止されているのも、全て国民を保護しているものだ。外国人、つまり国籍を失ったヴァレリーには適応されない。
男はヴァレリーがこの国の国民としての権利を失うのを待っていたんだ。そのために愛しい男を生かして、国外追放にさせ、自分から権利を放棄させるはめにヴァレリーを追い込んだ。
全ての権利を失ったヴァレリーを国境を越えた瞬間浚っても、誰も咎める者はいない。だってヴァレリーはこの国の国民ではないのだから。
ヴァレリーを蹂躙しても誰も文句を言いはしない。男は外国人を浚って花嫁にしたのだから。合法なのだから。

「そうやって……父上は母上と結婚したんだ。子どものうちは母上を慕う兄貴のことを多目に見ていたが……何せ独占欲の強い父上だ。いくら長男の嫁でも家族以外の男にあわせようとはしないだろう」

「え? なんかドン引きなんですけど。普通に犯罪じゃないんですか? 相手の男に無実なのに罪を着せたんでしょう?」

「いや、別に普通の事だよ。だって自分の妻になるはずの人を奪おうとした男だよ。殺したって無罪だよ」

「イアン?」

「あ、うん……駄目? なんだよね。うん、国外追放なんてしちゃ駄目だよね。さくっと殺さないと」

「はあ……分かっただろう。この国の夫たちはとても独占欲が強いし、強ければ何をしても構わないと思っている、特に惚れた男を手に入れるためなら、人を殺そうが落としいれようが一家離散させようが、弱いのが悪いっていう思考しかない。だから兄貴も君を誘拐したことを悪いとも何とも思ってないぞ」

うん、それは旦那様とその部下と、このイアンさんを見ていて分かった。ただ、何を言っても聞く耳を持たないような旦那様たちに比べてイアンさんはグレイシアさんの言う事を聞いているよな。
何が悪いか理解はしていないけど、グレイシアさんに合わせようと努力はしている。

「旦那様も、イアンさんみたいに俺の話を聞いてくれるといいんですけど……最近、18歳になるまでどうしても待てないって言われて……貞操の危機を感じるんですよね。でも、仕方がないんですかね。一緒に暮らしているし、結婚はするのは決まっているから身体を許すべきなんでしょうか?」

「いや、それは駄目だろう! いくらなんでも! 未成年だぞ!」

「うん、流石にそれは駄目だよね。淫行だよ」

イアンさんも真面目に同意しているから、未成年との性交渉はこの国ではかなり駄目な部類に入るらしい。婚前交渉も駄目だとは聞いているけど、しちゃったらすぐ結婚しないといけないらしいから、俺と旦那様も婚約しているからセーフと言われるかと思ったんだけど。

「でも指ならセーフだから、とか……先っぽだけなら許されると言われて……俺の国は婚前交渉もOKだったし、一応国では成人しているから応じないと駄目なのかなって悩んでいたんです」

「この国では外国人の権利は無いが、未成年の権利だけはある。18歳以下に手を出したら死刑だ! まだ処女か?」

「一応そうです……でも…エッチな下着をはかされて、舐めさせてくれとか先っぽ10センチだけとかせがまれています」

「あ、そういえばお義兄さんから、下着を頼まれて渡したな。ジブリール特製のエッチな下着が欲しいって頼まれたんだ」

「アホか! 貴様は! 未成年の淫行に手を貸しやがって!」

「ご、ごめんなさい!」

「イーディス君、君も何も知らないからと言って、簡単に兄貴に流されては駄目だ! 君に妻の心得を伝授しよう」


その夜……

「イーディス! さあ、今夜もこのエッチな下着をはいてくれ」

「駄目です! 俺聞きましたよ。未成年には一切手を出してはいけないんだって。ばれたら死刑なんですってね」

グレイシアさんから、わざと手を出させて死刑にさせて国に帰るのも手だぞ、と教えてもらったけど、だってあの二人のお父さんって、奥さんの恋人を謀略で国外追放するほどの人なんだよね。だったらこの旦那様も、そんなことで簡単に死刑になったりしないだろう。むしろそんなことがばれたら二人のお母さんみたいに完全に軟禁される可能性もある。
だったら俺の地位向上を考えないと駄目だ。

「死刑なんて、ばれなければ大丈夫だ!」

「でも俺……旦那様が死刑になったりしたら悲しくて泣いてしまいます。少しの危険も犯して欲しくないんですっ……旦那様」

「イーディス……」

「それに処女のまま清らかな身で旦那様の妻になりたいんです」

「う、ううううう(:.;゚;Д;゚;.:)あ、あと2年半……処女の花嫁……」

グレイシアさんのアドバイス。

『せっかくの年下妻なんだから、我がまま言ってお願い攻撃をしろ。初夜まで清らかな身体でいたいと言えば、脂汗かきながら我慢するだろう』


「旦那様……俺、処女のまま初夜を迎えたいんです」

「イーディス……なんて清らかな。それに比べて私は薄汚れた欲望の持ち主だった。頑張ってあと2年半、が、が、が、我慢を、す、る(:.;゚;Д;゚;.:)」

それから旦那様はぎりぎりとした目で俺を見てきたが、手を出すことは無かった。そして居間にカウントダウンの数字が張られていた。

あと解禁まで○○○日。と

そしてグレイシアさんからの今日のアドバイス講座。

『エッチは三回に二回は断わってもいい。ただし一回は応じてやれ。そしてその一回は夫の要求を何でも飲んでやれば満足する。いや、応じた三回のうちの一回は、我がままを言いまくって翻弄してやるのも良いかもしれない。でもたまに甘えながら言いなりになってやれば、それで夫は満足する簡単な生き物なんだ。イーディス、君ならできる!』

結婚後、グレイシアさんに奥様検定一級を貰い、小悪魔型奥様の見本と褒められたのは内緒です。




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