嫁を助けた私は嫁にとってヒーローなはず!

嫁の父親である侯爵の魔の手から救ったのは、私が息子に通報したからであり、きっと今日会ったら『お義父様って優しいんですね、一緒に暮らして欲しいです。私と息子を守ってください』と言ってくれるかもしれない!

夢の同居wとワクワクしながら公園で待っていた。嫁と孫に会うためだ。

ところが一時間経っても現れない。いつもならこの時間には来ていたのに……孫がお昼寝でもしているのかもしれないと思って翌日にしようと去った。

翌日……来ない。

翌々日……来ない。




一週間後…… (´;ω;`) 

何故だ? 時間を変えたのかと思って10時間ずっと見張っていたけれど、やはり来ない。 (´;ω;`) 

私はただ孫に会いたいだけなのに。(ついでに美人の嫁にも)

息子に心話で連絡をしてみた。

『たぶん、あの老人が父上だと分かってしまったから、行かなくなったんだろう』

『私は嫁に悪意などないのに何でだ?』

『父上が悪意があるなんて思っていないはずだ。悪くは言わなかったし』

『じゃあ、何でなんだ!』

『まあ、父上に会いたくないからだろうな』

何故だ!!! 私は嫁を守ったのに! なのに会いたくないと言われてしまうなんて (´;ω;`) 

『そもそも勝手に会いに行ったのも悪いだろう? 会う許可なんか出してなかったのに』

『私だって孫に会いたかったんだ』

『分かってやってくれよ。マリウスは家族に関してトラウマがあるんだ。いくら父上に悪意がないと言ったところで、ずっと家族から迫害されて生きてきたんだ。今俺がやっとマリウスの家族として認められつつある、そういうレベルなんだ』 

それは分かる……私も目の前で侯爵の罵倒を見ていたのだから。

『それをずっと隠して生きてきて、人に好かれる自信もなければ資格もないと思っている。俺もマリウスがあんなに脆いとは思っていなかった……けど、今は俺を信頼しようとしてくれている。今のマリウスはそれだけで精一杯なんだ。父上がいくら好意的だからって、会うのは苦痛だと思う。だから会うのは諦めてくれ』

『そ、そんな! おい、ロベルト??』

心話を打ち切られた。その後いくらコンタクトをとっても無視され、息子と話すことは適わなかった。

美人な嫁に無理強いをするつもりなどないのに。ただ、できれば一緒に暮らしたい。嫁と可愛い孫と一緒に暮らしたいと思うのはそれほど贅沢な事だろうか?

世間では同居は嫌だという風潮もあるかもしれないが、うちの伯爵邸は広大だ。一緒の城の中にいても中々会う機会などないほどだろう。新婚夫婦のために別宅を建てれば、プライバシーの点では問題ないはずだ。たまにお茶会なんかしたり、孫が会いに来てくれれば満足なんだ。
私は一度も息子と嫁の結婚を侯爵のように反対した事はない。反対しておきながら嫁が美人だったから歓迎していると思われれば、とてもいやな義父だろうが、そうではないんだ!

同居が駄目ならせめて公園でほんのひと時孫と戯れたいと願うのに、それも叶えられないなんて (´;ω;`) 

公園を諦め、息子夫妻が暮らす家を眺めていると、嫁が孫とともに出てきた。公園に行くのか? と思いきや、買い物にお出かけのようだった。
後をつけると、パン屋でパンを買って出てきた。店の店員と仲がいいのか世間話を結構長い間していた。このパン屋が行き着けなのか?

とパン屋を確認すると、店の壁にパート募集の張り紙が……


「いらっしゃいませ!」

「あれ? 新しいパートさんですか?」

「あ、マリウスさんこんにちは。そうなんだ、新しく入ってくれたロアルドさん。ロアルドさん、こちらマリウスさん。うちの常連さんだから覚えておいて下さいね」

「こんにちはロアルドです。今後よろしくお願いしますね」

「こんにちは」

嫁が笑顔で笑いかけてくれる!!!

「ナナさん、あのロアルドさんってちょっとロベルトに似ていない?」

「マリウスさんもそう思う? 僕もロベルト様に似ている気がしてドキドキするんだ。アーセルがちょっとやきもち焼いて面白いんだけどね」

「アーセルさんナナさんにべた惚れだもん、しょうがないよ。でもロベルトがもう少し年を取るとあんな感じなのかな? 確かにちょっとドキドキするかな」

なんと、息子に似ているから好感触だったのか!
しかし私が息子に似ているのではない! 息子が私に似ているんだ!!

それから私はパン屋の販売員として嫁に毎日会えるようになった。なんと幸せなのか!
孫も可愛く成長していって、毎日会えるのが楽しみだった。

毎日ルンルンとパン屋に出勤していると……

「そこの伯爵様に似たお方……何をなさっているのかな?」

客が入って来ていらっしゃいませ、と言おうとして笑顔が凍りついてしまった。

「お、お、奥様……(((( ;゚д゚)))」

そこらのお客の奥様じゃない。とても凛々しくて格好良くて貴公子そのもの。

「最近領地に魔獣がよく出るから、と出かけていくからおかしいと思っていたら……パン屋の店員か?」

「す、す、すいません!!!!」

「あ、あの、うちの店員が何か気の障ることをしましたか?」

「いえ……うちの夫が勝手に転職をしていたので、ちょっと締め上げようと思ってお邪魔させていただきました。おい、ちょっと外に出ろ!!!」

外に出されて、妻にぼこぼこにされているのを不思議そうな顔の嫁が通り過ぎて行った。

妻は非常に強い……何で私の妻になったか分からないほどに。ほぼ魔力の量は同じ……若干妻のほうが低いだけ。ロベルトが授かれたのが不思議なほどだった。

プロポーズは妻から。俺を妻にするよな? と脅されて、ついハイと答えてしまった恐怖。初夜も妻にリードされて私がマグロだった。
ベッドでも日常生活でも常に妻に支配され……いや、愛している。愛しているけど怖い(((( ;゚д゚)))

「この国にあるまじき、浮気でも考えていたのか!? 俺から逃げれるとでも思っていたのか!!!??」

奥様は悋気深い。ほんのちょっと美人な男性をしゃべっているだけで浮気を疑われ、ぼこぼこにされる日々。
これで美人の嫁に会いにきていたなどと言ったら……嫁が酷い目に会わされる。それだけは避けないと。

「違うんだ! 私は奥様を愛してます! 浮気なんて考えた事もなかった!! そう、ただ、趣味でパンを作りたいと思って! ロベルトが美味しいといっていたパン屋で修行して、奥様に食べさせてやりたかったんです!」

そう、嫁のよの字も出したら駄目だ。

ロベルトがあのマリウスという嫁を選んだのは、この恐妻を見て育ったからきっとお淑やかで美人で優しい薄幸そうな姿に惹かれたんだろう……とは言えない。

同居はしたい。けど……よく考えたらこの妻と同居は……無理かもしれない。

毎度のようにぼこぼこにされ回収された私はパン屋でも会えなくなった。どうやったら嫁と会えるのだろうか(´;ω;`) 

息子に邪魔をされ、妻に邪魔をされ……私はただほんの少し憩いの時を持ちたいだけなのに。




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