15歳になったばかりの俺は大陸中を旅をするために国を出た。
俺の国では15歳が成人だった。成人年齢はそれぞれいろんな国で違う。俺の国ではもう結婚も出来る年齢だし、一人前だと見られる。
狭い国にいることが我慢できなくなったため、両親の反対を押し切って旅に出た。

最後には両親もしぶしぶ賛成してくれて見送ってくれたが、絶対に行ってはいけない国はここだからね、と念押しされた。
あの国だけは行かないでね。と懇願され、分かったと言ったが、大陸中を旅をしたいのだ。
あの国を通らないわけには行かない。だって大陸の半分を占める巨大な王国なんだから。

その国は滅茶苦茶大きかった。大陸中の東西南北全ての端っこに国が面していて、要所を全て確保している。この国を通らないで大陸を横断する事など不可能なのだ。
要するに有り得ないくらいの大国で、無茶苦茶軍事力がある国だったりする。

しかも治安も良い。お金持ちの国で、国民は皆貞節を誓っている純朴な国民性を持っている。浮気もしない、婚前交渉もしない。聞けば聞くほど素晴らしい国にしか聞こえないが、よく聞くととんでもない国だったりするのだ。

まず入国して分かる事。平和だ。
国境はきちんと整備されていて、盗賊や犯罪者などを見かけることもない。勿論いないわけではないらしいが、あっという間にこの国が誇る騎士団によって殲滅されてしまうらしい。
魔獣や猛獣もいるが、これも報告すると王都から来てくれる騎士団があっという間に退治をしてくれるらしい。騎士団に所属する全ての騎士が魔法騎士だというのだから凄い。
うちの国なんて魔法剣士や騎士は全員集めても100人くらいしかいないと思う。
でもこの国は正規部隊が6000人もいて、すべて魔法が使えるエリートらしい。しかも一人一人の魔力が高く、普通の国の騎士の何倍もあるらしいし、戦争しても絶対に勝てない。
うちの国の軍隊なんかこの国の騎士達なら10人もいれば殲滅できてしまうかもしれない。隊長クラスにもなると一人で一国を滅ぼす事ができるらしい。

しかし歩いていても女の人を滅多に見かけない。男ばかりだ。たま〜に女の人を見かけるけど、明らかにこの国男女の比率がおかしいよな。


「おじさん、どうしてこの国こんなに女の人が少ないんだ?」

うちの国でも男同士結婚は許可されているし、俺の両親も男同士だけど、それでもこんなに男女の比率がおかしいことってないぞ?

「平民では女性はある程度いるけど、それでも10人に1人程度かな? うちの国は女性の権利がないも同然だから、貴族階級ともなると女性なんか100人に一人もいないくらいだ。基本うちの国は魔力主義だから、魔力があってなんぼって世界だからなあ。強ければ結構何をしても許されるから、どうしても女性と結婚する人が少ないから、段々と女性の数が少なくなっていっているんだよ」

このままだと女性はこの国からいなくなるかも知れんなあと、店屋のおっちゃんは言っていた。
俺は食事を食べながら、やはり変な国だと思う。

「要するに同性愛者ばっかりなんだよな?」

「そりゃあそうさ。貴族様なんて特に女性と結婚なんかしたら追い出されるだろうしな。魔力の高い男と結婚してなんぼよ」

「俺さ……外国から来たんだけど、父さんたちに絶対にこの国立ち寄るなって命令されていたんだよね。俺結構国では魔力高いほうでさ……この国に入国したら問答無用で誘拐されるかもしれないぞって言われて」

結構魔力高いほうどころではなく、実は国で一番高い魔力を誇っていたりする。あのまま国にいれば宮廷魔法使いのトップか軍の総司令官も夢じゃないと言われたが、俺は旅がしたかったのだ。5年旅をして戻ってきたら何でも役職につくよ、と国に偉いさんにお願いして5年だけ猶予を貰ったんだけど。

「ははっ。ありえるな。うちの国の貴族さんたちは誘拐大好きだからな。誘拐は国法って法律あるのはうちだけらしいぜ。しかも美人で魔力の高い男性は余計大好物らしいからな。うちの大貴族さんたちはそりゃあ美形ぞろいで魔力も強いのは、各国から可哀想な美人の魔法使いばっかり誘拐してきてかららしいぞ」

誘拐は国法……合法。そんな国はここ以外何処にもない。

しかし結構条件が煩いらしい。
・ある一定の魔力以上を所持していること
・処女であること
・うちの国民は駄目(強姦は死刑なので、相反する法律になってしまうため。他国民ならOKという非道)
・必ず典礼省に届け出て結婚してから強姦する事

条件に入っていないが、皆面食いなのか美形ばかり浚ってくるらしい。

いろんな国から魔力の高い美人ばかり誘拐してきて、しかも詫びれもしない素晴らしい国風。
各国が連合して批難しても、我関せず。
証拠を出してみろといわれ、証拠などない。証拠を出した所でコテンパンにされるだけ。
各国は魔力の高いものばかり誘拐され国力は下がっていき、反対にこの国は富んでいく。

多かれ少なかれこの国の貴族の祖先は誘拐花嫁の血筋が入っているらしい。
中でも誘拐公爵と名高いのが、次期国王の実家の公爵家だ。平気で一国の国王とか浚っていくらしい。しかも堂々と。
戦争中の将軍まで浚って行ったりして祖国が滅んだり、結婚式に招待された公爵が花婿に一目ぼれをしてしまい結婚式前に花婿を花嫁にしてしまったとか、悪評は数限りない。
公爵が公爵ならその部下や親戚も同じように詫びれもしないで、あっちに美人がいると聞けば突然転移して現れて浚って行き、ともうやりたい放題。

俺の両親がどうしてここまで行くなと言うのかというと、俺のご先祖様も誘拐されてしまったらしい。しかも二人くらいいるらしく、突然将来有望だった人たちが姿を消してしまったのだ。
誘拐されやすい血筋かもしれないので気をつけないとと、俺は特に魔力が高く生まれついてしまったせいで幼い頃は城から出してもらえなかったくらいだ。

「でも、最近は誘拐していないって聞くけど?」

「そうだなあ。めぼしい花嫁を誘拐しつくしちゃったらしいぞ。国内でもう魔力の高い人が多いしわざわざ他国から誘拐しないでも大丈夫になったからだって聞くがねえ、だから坊ちゃんも大丈夫だろうよ」

うん、だから俺もそう心配しないで入国したんだ。俺が祖国でいくら魔力が一番と言ったって、この国でTOPなわけないし。

「一緒に領土とかも奪ったりしていたんだろ? 一国で大陸の半分の国って普通ないと思うけどなあ」

この世界には他にも大陸あるし貿易もしているけど、他の大陸にもこんなに大きな国はない。しかも変な法律やら変な風習が一杯あって、無理矢理併合された際には有無を言わさずこの国の法律が適応されるので、それまで一夫多妻とか婚前交渉、浮気当たり前だった国とか相当戸惑うそうだ。しかし犯罪率は低下するし、警備もしっかりしてくれる騎士たちもいるし、他国みたいな戦争はないし、物凄く超軍事国家なので誰も怖がって戦争を仕掛けてこない。良い事もあるので黙って変な風習を受け入れるそうだ。

「だからこそ貴族様たちは魔力がないと領土を治められないんだ。大貴族なら下手な小国家よりも大きな領地をお持ちだそうからな。魔力で領地を把握して治めていらっしゃるんだ。その魔力を血統で維持するためにも、誘拐は国技はやめられないって噂だなあ」

やはり他国から見たら嫌な国にしか見えない。自分が良ければそれで良い。自分のものは自分のもの。他人のものは自分のもの。そんな国……


「あと、この国って結婚まで貞節誓うって言うけど、本当に本当なのか? だって30歳になっても独身なら童貞なんだろ? 恥ずかしいとか思わないのかなあ?」

「むろん誇りだ! 純潔のまま愛するものと結ばれるのが、わが国の伝統であり、国策だ。むしろ童貞でないと分かったら、皆から軽蔑される。童貞を恥ずかしいなどと思う男はいない!」

それまで店のおっちゃんとしゃべっていたのに、何故か隣に座っていた騎士たちが答えた。しかも何故か威張って、物凄く威圧的だ。

「そ、そうなんですか…」

「相手に純潔をささげてこその、わが国民だ! むしろ経験者で童貞ではないなど、相手に失礼すぎる! 君は外国人のようだが、まさか童貞ではないのか?!」

ここで童貞じゃないんですなどといったら、騎士に捕まって牢屋に入れられそうな雰囲気だった。

「いえ……まだ童貞です」

嘘は言っていないが俺の国ではこの発言は恥ずかしいことなのだけど……

「処女か?」

「は、はい」

成人したばかりなんだ。うちの国は一夫多妻だし、夫は浮気はOKだし、愛人も持っていいし、婚前交渉もOKだけど、未成年は保護しないといけないという法律はあるので、まだ一応清い身だったりする。

「というか……俺、一応国では一番の魔力の持ち主だったんで、処女を捨てるつもりはないんで、考えた事もありませんけどね」

「うむ、良い事だ。わが国を旅をする限り、君の童貞も処女も捨てさせるわけにはいかないな。そうだ、護衛をつけよう!」

「は? いえ、何でですか? 要りませんよ!!! 俺は自分の身くらいは自分で守れます!!!!」

「そうはいうがな。確かに君は外国人にしてはかなりの魔力の持ち主だ。しかし、わが国でいったらせいぜい分隊長まで出世で来たら万々歳だ……程度に過ぎない」

「それって褒めているんですか? それとも貶されているんですか?……」

せいぜいだから通常は分隊長には出世できないくらい。運がよければ出世できるかな、程度だろう……

「いや、外国人にしては素晴らしい魔力の持ち主だと褒めているんだ。しかし、君より強い人間はわが国にはたくさんいる」

「君は幼いながら、かなりの美人だ……放置しておいたら、どこかの貴族に見初められてどこかの城に閉じ込められて、花嫁にされる可能性もある」

「あるな……」

「ありだな……」

「こ、怖いこと言わないで下さい!」

「だからこそ保護をしてやろうと言うのだ。わが第5部隊に来なさい」

第5部隊分隊長だという青年を筆頭に無理矢理王都に転移させられてしまった。王都には行きたかったからまあいいけど……

「副隊長! 誘拐される可能性の高い少年を保護しました。保護対象として申請したいと思います」

連れられていった先にいた偉い人に引き合わされて、物凄い魔力の持ち主に圧倒された。分隊長さんも俺よりも高かったけど、この副隊長さんは半端じゃない魔力の持ち主だ。
俺これでも国一番なのに、副隊長でこれだけって……この国どれだけ魔力の強い人多いんだよ。

「ふむ……母上にとても良く似ている気がする」

「副隊長閣下の母上と言うと、マザコンで有名な閣下がお慕いするだけあってとても美しい方とお聞きします」

「そうだ……私ですら、滅多に母上にお会いできないほど父上の寵愛が激しくてな。この少年、その母上の若い頃の映像にとても良く似ている」

こんな格好いい副隊長がマザコンなのか……

「少年はひょっとしたらレザンの出か?」

「え? 良く分かりましたね。俺はレザンからやって来ました」

俺の国レザンはこの国の南方に位置している小国だ。

「祖先も二人ほどレザンから花嫁を迎えたという。母上はお前のように美しいストロベリーブロンドの持ち主だ……」

何故か俺の髪をうっとりと見つめてくる副隊長さん。

「俺の先祖に二人ほどいなくなってしまった人がいるんです。もしや、その迎えた花嫁って……」

「副隊長、保護をどうしますか? このまま放置しておいたら処女が危険だと愚考しましたが」

俺の疑問は無視された。

「そうだな。危険だ……よし、私がその処女を守って、奪ってやろう」

「副隊長が保護をしていただけるのでしたら安全ですね。お願いいたします」

え? なんか、守るって言葉と同時に奪うとか言っていなかった??

「あ、あのお?」

「処女は守ってばかりいたら価値はない。奪ってやってこそ意義があるのだ。奪ってしまえばもう誰にも奪えないからな」

「言っている事の理屈は通っているような、間違っているような……って遠慮します! 俺ももう国に帰ろうと思います!!!」

転移で帰るには遠すぎるが、何度か休憩しながら帰れば数日で帰国できるだろう。やっぱり両親の言っていた事は正しかった。この国に関わるべきではなかった。

「待つんだ。逃がすわけはないだろう。私の血筋はレザンの花嫁が好みのようだ……特にこの顔、一目見て私の花嫁になる者だと分かった。わが家特製の拘束具をプレゼントしてやろう……私の花嫁」

この国が最近誘拐をしなくなった理由。それは魔力が高い子どもが生まれるようになり、わざわざ他国から誘拐する必要もなくなった。というのが表向きの理由だが……段々と誘拐してきた花嫁の血筋に似た子どもも生まれるようになってきており、つまり国内で需要と供給が釣り合うようになって来たためである。
可哀想な花嫁に似た薄幸の子が生まれ、強者に好かれるわけであるが……今でもたまに、供給が足りず他国で自分の好みの花嫁を見つけてくる花婿もいる。

そのために誘拐合法は改正されないまま、今でも残っている。



お父さんお母さん、申し訳ありません。言いつけを守らなかったために、俺はマザコン男に捕まってしまいました。この国では18歳が成人なため俺はまだ清い身でいられますが、手続き上はすでにマザコンの花嫁にされてしまって、18歳を迎える日に俺の処女は奪われてしまうらしいです。
帰りたいと思いますがご先祖様と同じように帰る方法が見つかりません。
どうか俺を探さないで下さい。探したり抗議をしたらきっとレザンはなくなってしまいます。ご先祖様もきっと俺と同じことを思って耐え忍んだはずです。この手紙も出すことは適わないと分かっていますが書かずにはいられませんでした。

イーディスより



END
第5部隊副隊長は誰かのお兄さん。
この国で誘拐花嫁(美人で薄幸系)の血筋が色濃く出ちゃったのは、クライス様w マリウスw フェレシアw 副隊長のお母さんw





- 143 -
  back  






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -