私はリオン。ただの看護人だ。いや、ただのではない。大事ならラルフの命の管理をしているきわめて重大な仕事を任されている。

他にも些細な仕事をしているが、ラルフの看護をする以上の重大な仕事はない!

私とラルフは遠縁にあたり、幼い頃からの知り合いだった。とはいっても、初めて会ったのは8歳の時だった。
ラルフは貴族ではあったが、両親が事業に失敗し平民同然の暮らしをしていた。そのため親戚の集まりには殆ど来る事がなかった。

しかしラルフは魔力も高く、将来私の補佐にしてはどうかという私の両親の薦めもあり8歳の時初めて出会ったのだった。

そこで私は一目ぼれをした。補佐などではなく私の花嫁にしたい! そう両親に願い、両親もラルフなら魔力の釣り合いも取れていて構わないだろうと言ってくれた。
さっそくラルフの両親に申し込んだが、あまり良い顔をされなかった。
何故だ? 平民寸前にまで落ちてしまった身としては、辺境伯家に嫁ぐというのは悪い話ではないはずなのに。

ラルフにはもう婚約者がいたのだ。勿論まだ子ども同士の他愛無い約束だったが、お互い好きあっている。引き離すのは可哀想なのでとても素晴らしい申し出だが、今はお受けする事ができない。と言われてしまったのだ。

まだ8歳だと言うのに! 私だとてもっと早くラルフに出会いたかった。

ではラルフにうちに行儀見習いに来て、私の将来の補佐として勉強して欲しいと言えば、婚約者と離れたくないし、将来は軍に入りたいと言われてしまった。

そこで私も軍に入る事にした。ラルフと少しでも一緒にいたい。一緒にいれば私を好きになってくれるかもしれない。

しかし、ラルフは軍に入る前16歳で致死性の高い難病にかかってしまった。なんて可哀想なんだろうか。ろくな治療方法もない病気だ。私の元にきてくれれば全財産を使っても治療法を見つけ出して見せるのに!
しかしこれも断わられてしまった。

婚約者と結婚して残り少ない人生でも一緒にいたいからと。

私は何度断わられるのだろうか。寂しい人生だ。結婚の邪魔はしたかった。だがこのままではラルフはおそらくあと1〜2年の命しかないだろう。余命いくばくもない彼に、無理強いをして無理矢理私の城に来させるわけにも行かない。毎日私は泣いて、ラルフの結婚を見守っていた。

フェレシアが必死に働いていて家計を支えていたが、あの病はフェレシアだけの稼ぎでは到底維持できないほど治療費がかかる。
実際ラルフの治療に使っている薬は、効き目があるか定かではない、そんなようなものだった。

私は結局軍には入らなかった。通常貴族で魔力が高い者は跡取りだろうが、軍に入隊し騎士として王国のために尽くす。その後引退し領地や爵位を継ぐというのが一般的なパターンなのだが、父が早くに亡くなってしまい、私が思ったよりも早くに爵位を継がなければならなくなったのだ。

しかしラルフのために金を使いやすい立場になれたのは良かった。私はフェレシアが頼む医師に私が融通してきた薬を渡し、ラルフに飲ませていた。この薬は今手に入るもので一番高価な薬だった。フェレシアの年収の10倍はするものだ。そのお陰かラルフは発病から10年経っても生きていてくれている。この病の平均余命率はわずか3年ほどなのだ。

ラルフが発病してから私は領地を治める傍ら、医学を志、薬学にまで手を染めた。この手でラルフの病を治したい! ただその一心でだ。

その傍ら常にラルフとフェレシアの生活を見張っていた。二人は未だに結ばれていない。ラルフの病のせいだ。そのお陰で私は正気を保っていられる。私のラルフが他人を交わる事など、許せない!!!!

しかし見張っていたら、なんとフェレシアに懸想する男を発見した。しかもフェレシアはラルフを裏切ってその男と密通までしだしたのだ。

何てことだ、ラルフを裏切るなんて!!!!! 
いいぞ、もっとやれ!!!!!!

と、心穏やかに見張っていたら、向こうから接触された。こちらがフェレシアとラルフを観察していたのと同様、あちらもラルフたちを監視していたのだろう。
私の存在がばれてしまったが、お互いの意向ははっきりとしている。

私はラルフを、向こうはフェレシアを手に入れたい。協力ができるのだ!!!

勿論仲良くなった。彼、リーセットはフェレシアとの時間を増やしたいのでもっと看護師をつけたいと言い出した。
私も勿論ラルフを一人になどしておけない。だが、大事なラルフの変な人間を任せるわけにはいけないと、選抜を行い始めた。むろん、今までの看護人も問題がないかきちんと私がチェックしていた。

が、私がラルフの看護人になれば解決するじゃないか!!!

24時間一緒にいられる*:.。☆..。.(´ ∀`人) (人´∀`*).。:*+

領地? あんなもの、片手間でなんとかなる! 魔物が出て手に負えないときだけ帰れば良いだろう。



「リオン? 何故貴方が看護など」

ラルフは辺境伯である私が看護師などしていることに、当然疑問に思った。当然だ。普通看護師などいわゆる平民がする仕事だ。貴族でしかも領主である私がする仕事ではない。

「それが……実は、怪我をして魔核を破壊してしまい……魔力が使えなくなってしまったんだ。そのせいで当主の座も追われてしまい……路頭に迷っている所でフェレシアにうちで住み込みで仕事をしてはどうかと言われてたんだ」

勿論大嘘である。しかしこの仕事はラルフは魔力のある人間は触れられない。そのため、私が魔力のある状態とばれるのはまずい。
しかも当主だった私がこの仕事をとなると、明らかに疑わしい嘘を重ねないといけないのだ。

「そうだったのか……リオンも大変だったんだな。俺なんかの看護なんかさせて申し訳ないがよろしく頼むよ」

勿論だ!! このために私は国宝級の魔力遮断具を手に入れそれを身につけている。これがあればラルフに触れることも問題ない。


「こんなことさせてごめん」

「気にしないでくれ。私はただの看護人だ。気にする事はない」

ラルフの肌を温かいタオルで拭いてやる。具合がいいときは風呂にもいれてやる。ああ、天国だが私の股間の我慢が大変だ!!!!

ラルフの気分のいいときには散歩にも連れて行き、ご飯を作ってやり、一緒に食べる。眠っているラルフを見つめているとき、なんて幸せなのだろうか。

フェレシアは仕事とリーセットの相手が忙しいのか、ますます家にいる時間は減っていっていた。もはやリーセットとフェレシアが夫婦で私とラルフが夫婦同然の生活をしている。

だがやはりラルフはそこまで鈍くなかった。フェレシアの異変にちゃんと気がついていた。

「フェレシアは……俺なんかよりも、もっと頼りになる……ちゃんと子どもも作れるような男と再婚したほうが良いよな」

「もうすぐ死ぬだろうから……フェレシアは再婚して幸せになって欲しい」

そんなようなことをポツリと言い出すようになっていた。私にはフェレシアが不貞を働いているとは一切言わない。言えばそれがばれたときフェレシアは死刑だ。
だが他の男に任せたいようなことをしきりに言うようになっていった。

「俺は……フェレシアといると苦しい。フェレシアが俺のためにすることが、全部重荷なんだ。フェレシアはあんなに俺のために頑張って働いてくれているのに……俺は酷い夫だろう?」

そうだ、そもそもフェレシアとなんか結婚したこと事態が間違っていたんだ。こうなることは分かりきっていたはずなのに。だから私の求婚を受けてくれれば良かったのに。


「ラルフ、フェレシアの恋人が君に会いたいと訪ねてきた。会うか?」

ショックを受けるかと思ったが、ラルフはむしろ積極的に会いたいと言い出した。
リーセットは、フェレシアと愛し合っていること、お腹に自分の子どもがいることを告げた。ラルフのことは未だにフェレシアは情があり、見捨てられず、このままでは子どもの存在があやふやになってしまうこと。

ラルフは全てを受け入れて、自殺するとまで言い出した。リーセットも満足していたが、話が違うだろう!!!

怒った私に、それなら無理心中の振りをしてくれと言い出した。すべてリーセット側で用意するので、ラルフを連れてどっかにいってくれと言われ、ラルフは私が引き受ける事になった゚ヽ(*´∀`)ノ゚.:。+゚ (*´∀`*)ノ。+゜*。二度とフェレシアに会わせないでくれと言われて、誰が会わせるかこちらこそだ!

ラルフもフェレシアのためだと言えば、自分と言う存在が戸籍上いなくなることも了承した。

そして私はラルフを領地に連れ帰った。

「これで良かったんだよな……フェレシアのために」

当たり前だろう!!! そもそもラルフは結婚する相手を間違えたんだ。

「俺は夫として失格だった。フェレシアを幸せになんかできなかった」

それは妻属性同士が結婚したせいだ。ラルフは夫は似合わない。こうして私に守られて生活するほうが、相応しい!


「こんな大きな城……どうして?」

私は魔力を失って放逐されたことになっているからな。大きな城に住むのが不思議なのだろう。ここは領地のある城の1つだ。本家の城までだいぶあるが、用があれば転移すれば事足りるので、私達の新居はここになる予定だ。

「それは……リーセットが私がラルフの面倒をみることを条件に、この城をくれたんだ。手切れ金だろう」

ラルフは人に負担をかけることを嫌う。そのため私に養われていることの申し訳なく思うかもしれない(金を持っていないという設定なので)だからあくまでこれはリーセットがラルフに手切れ金を渡すという意味で、もらったと言い張った。

「それでもうラルフは戸籍がないんだ。新しく用意したので、一緒に住むという都合上、私の妻と言う事になる。便宜上サインをしてくれないか?」

サインをしてそれが本当になるまで………股間の我慢が限界を迎えそうだったが、私はラルフの治療薬の開発を続けた。


********

「リーセット……ラルフは……」

フェレシアは俺が約束を果たしていないと疑っているようだった。あの病の人間は長生きできない。
約束だけして、最後の時に会わせないと不安に思っているのかもしれない。

「まだ死んでいない、ちゃんと約束は果たすつもりだが……まあ、そんな時は来ないかもしれないな」

「そんなっ、会わせてくれるって約束したのに」

「あの看護していた男が特効薬を発明して、今は昔のような健康体同然らしいぞ。ああ、そうそう……そろそろ子どもが生まれると言っていたな。君の元夫は妻になったんだ」


終わり★
その言葉を聞いたときのフェレシアの心境( ゚д゚)



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