また謎の書類が届いたが、中身は余り見たくなく、何も言わずにサインした。

私は国王である。大陸で最も大きな国の国王であり、金持ちと言われている。

が、私は早く隠退したくて仕方がないのだ。


私は二人兄弟の兄として生まれた。生まれながらに将来の王の座が約束されていたが、私という存在はいわゆる期待外れと言っていいかもしれない。
この大陸一の王国を継ぐ者として莫大な魔力と知性が期待されていただろう。だが私はどちらとも持ち合わせてはいなかった。
魔力は弟さえに劣り、カリスマ性は親戚の公爵アンリにも劣っていた。皆、弟が跡取りだったらと思ってたことだろう。

だが私は国王なのだ。たとえ莫大な魔力を持っていようが公爵には劣らないはずだ。私が国で一番偉い。そう思い込み、誰の指図も受けない、私は私のやりたいようにすると思い込んでいた。
王妃に女性を迎えたのも同様だった。国王ともなれば勿論伴侶は男性でなければいけない。王妃に女性などこの国始まって以来だ。当然皆から反対をされた。
だが国王の私がそう望んだ。家臣から意見される謂れはない。そう思っていた。

将来の国づくり、王妃と私の間に出来る子のために弟が邪魔だった。遠くにやりたかった。

その結果、公爵の怒りを買い、コテンパンにやられ、嫁ぎ先の予定だったディアルは国王の精神が壊れてしまい、貴族たちも使い物にならなくなり公爵家の領地に編入される事になった。

私は敵対してはいけない男を敵にまわしてしまった事に気がついた。国王だというのに、これほど立場が低いことに哀愁を覚えずにはいられなかったが、もう二度と同じ過ちをしない事を誓った。

王妃との間に王子が生まれたら……可哀想だが、きっと魔力の低い子しか生まれないだろう。そうしたらどんな目にあうか。
ユアリスと公爵の間に生まれた子と比べられ惨めな思いをするだろう。いや、比べられるだけでは済まないだろう。きっと王位を継承する事すら適わない。
私と同じようにアンリと比べられ、アンリの顔色を伺っていく私の人生と同じになってしまう。
そんな可哀想なことはさせたくない。
だから女の子が生まれることを願った。どちらも王女で私を安堵された。王女なら何の権利もない分、何も期待をされない。比べられる事はないだろう。

私はユアリスとアンリの子に王位を継いでもらうことに決めていた。
二人子どもがいるので、公爵と王位を継ぐのに何の問題もないだろう。これで強い王が生まれる。誰にも遠慮をしなくて良い王家になれるだろう。
二人ともあのアンリとユアリスとの間に生まれたとは思えないほど、真面目で謙虚であった。そして膨大な魔力があり、カリスマ性を備え優秀であり、理想の王になれるだろう。二人とも士官学校を主席で卒業をし、公爵家の出という権門の力を借りずとも隊長にまでなった。
ただ、一つ欠点があるといえば恋愛に全く興味がなく二人とも結婚する兆しさえなかった。
密かに王女と結婚はどうかと、聞いてみたことがあった。勿論伴侶は男性が好ましい。ただこれほどの魔力の持ち主だ。一代くらい女性を入れたとしても、魔力の劣化はないのではないかと思ってのことだ。
しかし皆に反対をされ、王女たちは非常に少ない異性愛者の貴族の次男や三男に嫁がせた。私の二の舞にさせてはいけないので、当主には嫁がせられなかった。


「は? アレがパンツを被っている? 何のことだ?」

「はっ……甥であられる隊長閣下が、意中の男性隊員のパンツを盗みパンツをはきながら仕事をしているそうです。しかも同室者を虐待をし、意中の男性をストーカーし、見合いを壊し、今日隊員全員に意中の男性を強姦すると宣言したそうで……いかがいたしましょうか?」

ユーリが結婚してくれて、しかも相手は王妃にとても相応しい男性で、子どももできて一安心をしていたというのに。
ユーリの妻はとても美しく聡明で魔力も高く、彼以上に王妃に相応しい人はいないだろうと思うほどだった。

それなのにもう一人の甥は……初代公爵に似てしまったのか……

私の手元には初代国王の日記がある。

それには、天然の性格をした弟に散々振りまわれた兄の苦悩が記されていた。

ある日突然、当時の国よりも大きな国から国王を誘拐してきて花嫁にすると言われたときの衝撃。その国から誘拐犯め! と散々なじられ、対応に右往左往していたのに弟は無視あるのみと言い放ち、その国が国王がいなくなったせいで滅んでしまった。
それを悲しんで泣いていた妻の涙に激怒し、弟は滅んだ国と滅ぼした国をまた滅ぼして、併合してきた。妻の産んだ子に治めさせると言いはなった時の苦悩。
それに感化されて、花嫁は浚ってくるに限る! 公爵の花嫁美人すぎる! と発破をかけられた部下や親戚が、皆誘拐に勤しんで……誘拐大国になってしまった時の苦悩。
いろんな国から文句を言われ、どうしようと悩んでいたら、文句を言わせないようにしてやる! と、各国を占領しまくる家臣たち。

花嫁の毒薬をいうのを発明した! 公爵家門外不出のレシピにしよう! と弟に華々しくお披露目され、皆が公爵私達にも下さい! と弟に感化されまくっている部下たち……。

ある日、言ってみたことがあった。
何で誘拐してくるの? 普通にプロポーズして心を射止めて結婚じゃ駄目なの? もう少し友好的にやろうと、と弟を諭そうとしたことがあった。しかし、目を見た瞬間浚いたくなった、心を射止める時間が惜しい。そんなことをしている時間があったら、誘拐して監禁して孕ましたい。そう真面目に言う弟に教育を間違えたと、苦悩する日々。
その間、弟は花嫁の塔という監禁する建物まで建ててしまった。その塔の中で可哀想な花嫁を毎日……

公爵家の家訓を『誘拐しよう、媚薬飲ませよう、孕ませよう』にしようと思う。これを子孫に伝え、同じように美人で素敵な魔力を持つ花嫁を誘拐して欲しいと言う弟に『止めようよ……そんな家訓恥ずかしいから』と言ったのを何とか守ってもらえて良かった。とそんな些細な事が嬉しかったという、初代国王に思わず涙せずにはいられなかった。

いっそ国王にならなければ良かった。弟が国王になるべきだった。そうすればこんなに各国から文句を言われても、弟は堂々と知らん、弱い国は黙っていろと言えただろうに。胃が痛くなりながら各国の文句を握りつぶし無言で堪えていたのだという、初代国王の泣き言が良く理解できた。
私も弟一家の圧力に常に耐えているからだ。



甥はこの初代公爵の血を色濃く受け継いでしまったようだ。初代国王曰く、弟は天然天才変態であると。

「放っておくんだ」

「放っておいてよろしいのですか? 強姦を計画しているのにですか?」

初代国王も初代公爵のことを制御できず、その行動をただあっけに取られて見守って……片腕だった妻に愚痴を言う事しかできなかった。

「見てはいけない……アレはあれで良いのだ……」

そう真面目に仕事をしていてくれるなら……何故、ユーリが長男ではないんだ。ユーリなら完璧だったのに。アレは……真面目に仕事もしていない様子だったが、私は耳に入れたくなかった。初代国王を真似るしかない。

変な作戦にも何も言わずサインをした。そのせいで父方が公爵家の出で母方が王族の出のエミリオが甥の被害にあってしまった。
エミリオも発狂したのか変な罰を部下達に与え……私は何も見ず、ただひたすら黙々と婚姻許可証にサインをしまくった。

だが流石にその中に兄弟の申請書が紛れ込んでいたため、これには流石にサインをすることができなかった。
これはアウトだろう。兄弟でも結婚する血筋はいるがあれは例外中の例外なのだ。

しかしある日、アンリと甥二人が親戚の兄弟を結婚させてやってくれと頼んできて……私は何も言わずサインをした。
ついでに甥が週二回性行為を義務化する法律にサインしてくれと言われたが……これが甥が国王になって初めて通す法律にしなさいとした。

何故、王の後始末を両親ではなく私がしないといけないのか? 少しはアンリも苦悩すべきだ!

早く、早く、国王の座を譲りたい! 早く引退したい!

もう公爵家の一族に関わりたくない!
王族も元から親戚だけど、もういっそ皆公爵家化してくれたほうが……胃が痛むことがなかろう……。

そう私も日記に記し、甥に王座を渡そうと思う。

期待した甥は……今日も、エルウィンがエッチさせてくれないと廊下に出されて泣いていたらしいが、私は見なかった。




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