あとは、問題は一人、いや二人かな。
ロレンスとパトリックだ。
ロレンスはたま〜に仕事に来ているけど、今日だって来ていないし、仕事していない事が多い。
どの分隊長も何かしら些細な問題はあったけど、皆仕事はしているのにロレンスの仕事放棄っぷりは流石にどうにかさせないといけない、かな。
「どうせ、花嫁の塔にいるんだよね。ちょっとパトリックのことも気になるし、会いに行こうか」
ロレンスだけ出頭させても、パトリックの行方分からないし、相手の陣地に入り込んだほうが一回で済むだろう。
「でも、花嫁の塔って公爵家の一角にありますよね。いくら部下や同僚だからって、入れてくれますかね? だってロレンス先輩居候みたいだし」
確かに公爵家の城は敷居が高い。
「でも、隊長の実家だしクライス副隊長だっているし、入れてくれるだろう?」
というわけで、クライス副隊長にアポイントを取って花嫁の塔に入れて貰う事になった。
クライス副隊長はものすごく行きたくなさそうな顔をしていたけど、そもそもの発端はクライス副隊長が部隊改革をしろと命令した事が原因だよね。
僕、この方の上司になるんだけど、やっていけるかな? ずっと部下だったのに、急に上司にされても困っちゃうよ。それを言ったらエミリオ分隊長もそうだけど。命令とか無理だよ。きっと僕はクライス副隊長からもエミリオ分隊長からもずっとこき使われるんだろう。
二人とも産休をずっと取って帰ってこないのが良いよ。
「お〜い、ロレンスいるのか?」
花嫁の塔は物凄く高い塔で、王都一高いらしい。何百メートルあるんだろう。勿論階段で行くのは無理があるし、そもそも階段は存在しない。魔法で転移するしかない。
花嫁の塔には巨大な一室しかなかった。まあ、その他にお風呂とかそういうのはあるのかもしれないけど、一室に暖炉があって、居間があってそして巨大なベッドが置いてあった。
「あっ……やっ、ロ、ロレンスっ、誰か入ってきてる」
行方不明になっていたパトリックがやっぱりいた。クライス副隊長はもの凄く嫌なものでも見るかのように見ていた。ちなみにユーリ隊長の腕の中でだ。今妊娠中だからクライス副隊長は魔力が使えない。だから旦那様に抱っこされてここまでやってきたというわけだ。別に僕らでも連れてきてあげれるんだけど、まあ大事な奥さんを他人に任せるわけはないよね。
「パトリック、余所見なんかしないでっ! 僕以外見たら駄目だよ」
僕らがいても、平気で腰を振っている男ロレンス。まあ、明らかにパトリックは薬に犯されているのか、誰かが来ていることに一瞬は正気に戻った様子だったけど、すぐにロレンスしか見えなくなったようだ。
そんな獣のように交わっている夫婦?の巨大なベッドの脇に小さなベビーベッドが置いてあった。
赤ん坊がすやすやと寝ている。
「え? これって、パトリックが産んだ子かな?」
「そうじゃないのか? ロレンスとパトリック両方に似ているしな」
「もう生まれているなんて、相当早いな……」
僕が一番だと思ったのに!!! もう先をとっくに越されていたなんて。でも、僕は真面目にお仕事していたし、ロレンスはほとんど仕事もせずに花嫁の媚薬を使って好き放題やっていたんだろうし。その差だ。愛情の差じゃない!
「おい、ちょっとその腰を振るのを止めて、俺たちの話を聞け!」
「え? クライス副隊長??!! 何でここに? 僕忙しいんですよ」
「忙しいって盛っているだけだろうが! 仕事もせずに、何をやっているんだ!」
クライス副隊長様、激怒です。もともとロレンスのこと嫌っていたもんね。花嫁の塔の中で何をやっているか分からない男って。
「僕にはノルマがあるんです! 二人子どもを作らないと、両親が許してくれないんです! 跡取りが必要だからって。それに、今やめたらパトリックが可哀想でしょう? 花嫁の毒薬は身体を鎮めてあげないととっても辛いんですよ。クライス副隊長だってユーリに使われた事くらいあるでしょう? だったら身を持ってその効果しっているはずだから、ちょっと待っていてくださいね」
「そんなものを使うほうが悪いんだ!」
とは言っても、流石にパトリックが可哀想なのかそれ以上文句を言うのは止めた様だった。
待っている間、ユーリ隊長とイチャイチャしていた。
「俺はあんな物ないほうがユーリのことを感じられるし。もう使わない欲しい」とか鬼のクライス副隊長と同一人物なのかと疑うような甘い顔をユーリ隊長に向けていた。ユーリ隊長も身重のクライス副隊長をそれはもう宝物でも扱うかのように、ずっと抱きしめて離さないし。「俺も一度クライスをこの塔に閉じ込めてみたかったな」とか甘い声で囁いているし。
噂には聞いていたけどクライス副隊長って本当にユーリ隊長のことが好きなんだろう。「ユーリのことは愛しているけど、ユーリの親戚たちは変態すぎて嫌になる」「クライスが愛するのは俺だけで良いんだよ。兄さんや親戚なんて無視していれば良いんだから。ごめんね、変な親戚しかいなくて」僕の周りには僕を除いて奥様にあまり愛されていない夫が多かったので、こんなラブラブな夫婦を見ると新鮮な気がする。
一部屋しかないからベッドから離れた今のスペースで僕たちは待っていた。声は丸聞こえだけどね。ソファセットは一組分しか置いてなかったのでユーリ隊長が座って、クライス副隊長を抱きしめているけど、僕達は立って待っているから早く終わらないかな。
一時間ほど経って、ようやく静かになった。すると反対に赤子が泣き出した。
「あっ、ローラントが泣いてる。お腹空いたのかな? パトリック、ミルクあげて」
ロレンスはローラントと呼んだ赤子を抱き上げると、パトリックにガウンを着せた後、背後からパトリックを抱き赤子を腕に抱いて器用にミルクを飲まさせていた。パトリックはぐったりとしていてされるがままだった。
「それで、皆さん何の御用なんですか?」
「ロレンスが仕事に来ていないから、真面目に仕事に来るように説得に来たんだろう」
「僕忙しいんです。ローラントが産まれたから、最近とみに仕事にもいけなくなっちゃって。僕しか世話する人いませんし。パトリックの身体も鎮めてあげないといけないですしね」
「貴様、それでも一家の主なのか!? パトリックを嫁にしたんだろう? だったら夫として恥ずかしくない仕事ぶりをしろ! 俺のユーリを見習え!!!」
「夫だからこそ、妻の身体を鎮めてやり、子どもの世話もするんです!!! 妻にばかり子どもの世話を押し付けるわけにはいきません! ユーリは子どもを可愛がるけど、世話はしていないの知っているんですからね!」
まあ、どうしても奥さんに子どものお世話を頼みがちになっちゃうのは……仕方がないかもしれないけど。けど、公爵家ともなれば子守もたくさんいるだろうし。僕もグレイが出産したら育児の手伝いも頑張らないといけないな!って思っているよ。うちの実家は辺境伯で僕もいくつか爵位持っていて、人形販売もしているしお金に不自由はしていないけど、夫としてグレイに尊敬されたいから。
「父親としての姿勢は褒めてやらないでもない! しかし社会人として間違っているだろう! 貴様は分隊長なんだ! 仕事もせずに給料だけ貰っている給料泥棒なら分隊長などやめてしまえ! 無職になって妻のヒモにでもなれば俺に関係なくなるから構わない! さっさと辞職しろ!」
クライス副隊長怖い(( ;゚Д゚))
僕の出番ないみたいだから黙ってみていよう。
「パトリックは……おい、お前意識はあるのか?」
「は、はい……」
「産後どのくらいだ?」
「4ヶ月です……たぶん」
「なら、パトリックは産休ということにしておけばしばらくは休みが取れるだろうし、お前の補佐が代わりを務めてくれているのでパトリックに関しては問題ないが……ただ、復帰できるのか?」
うん、どうやら花嫁の媚薬のせいで結構精神的に虚ろだ。この分だと復帰って難しいんじゃないのかな? 僕は花嫁の媚薬使った事ないけど、物凄く依存性が高いって聞くし。この様子だと常用されているみたいだし。数回くらいの使用なら問題ないって聞くけど、推測だけど妊娠している期間以外ずっと使用されているんじゃないのかな?
「パトリックは復帰しません。僕とこの塔でずっと暮らすんです! パトリックは外には出しません!」
「お前なあ……ちゃんと結婚しているんだったら、監禁する必要ないだろう? 何で花嫁の塔にパトリックを監禁して花嫁の毒薬で薬漬けにしているんだ? お前の趣味か? いい加減にしろ! それで良いわけないだろう! さっさと辞職してしまえ!」
怖い……(||゚Д゚) 奥様がクライス副隊長じゃなくって良かった。
でも確かに趣味で奥様を塔に監禁、花嫁の媚薬で意識朦朧とさせてちゃ駄目だよね。
公言していたもんね。いずれ花嫁を誘拐して塔に閉じ込めて一緒に暮らすんだって。
「クライス副隊長っ! そんなにロレンスを責めないで下さい」
「パトリック、お前は被害者なんだぞ! こんな目にあって、無理矢理子どもまで産ませられて、それでもこんな駄目男を庇うのか!?」
「まあまあ、クライス。そんなに怒ったら身体に良くないよ。赤ちゃんがびっくりする……仕方ないよな、パトリック。そんな駄目男でもロレンスは大事な弟なんだから」
「はい……こんなんでも弟です。責任は兄の俺にあります」
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クライスさまの心境( ゚д゚ )
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