「リーセット優しいな! 一思いに殺せば良いのに、三年も奥さんに自由にさせてあげて」

「男気あるな」

僕だったらサクって殺しているけどな。だって僕の大事な愛するグレイが他の男の妻だったら耐えられないよ。
僕はなかなか勇気がなくてグレイに告白できなかったけど、もし他の男とグレイが結婚すると聞いたら、暗殺するくらいの勇気は持ち合わせている。
黙って3年も奥さんを前夫に貸してあげるなんて、考えられない。

「でも、リーセット先輩、下手を打ったんじゃないんですか? だってリーセット先輩どう考えても奥さんに愛されていないでしょ? それなのに更に追い討ちをかけるように旦那さんを毒殺しちゃったら余計嫌われちゃうんじゃないですか」

そ、それを言ったら可哀想だろう、ジブリール。
ここにいる皆もリーセットが奥さんに愛されていないことなんか分かっているのに、追い討ちをかけては可哀想だろう。

まあ、だからこそ暗殺するしか方法なかったんだろうけどね。

「私もそう思うな。前夫は憎いとはいえ、どうせ放っておいても長くは持たなかっただろう。薬など与えず、奥方に親切にしておき、旦那が病死したら再婚を申し込めば良かったじゃないか」

まあ、それが一番堅実な案だったんだろうね。
奥さんもそれなら、リーセットを愛してくれる可能性もあったんだろうけど……でも、そうできなかった気持ちも分かるんだ。

「いくつかの理由でそれは却下した。まず一番大きな理由は……そうしたところで必ずしもフェレシアは俺を愛して結婚してくれるとは限らない。一生あの男に操をささげて再婚しない可能性だって高かった」

うん、確かに。うちの国は再婚は許可されているけど、それはほとんどが死別になる。そうすると亡き夫や妻に操を立てて、再婚しない人が殆どなんだよね。

「それにあの男はしぶとい。いつ死ぬか分からなかった。俺はそんなに長い間待てない。フェレシアが他の男の妻という肩書きにあるのがどうしても許せなかった。早く俺の物にしたかった……身体だけでもな。だからあの男を生かし、確実に結婚できるために誓約の誓を立てさせた。上手くいくか、何時になるか分からない前夫の死後のことなどよりも、確実にフェレシアを俺の妻にできる方法を取ったまでだ」

「でも、それで奥さんに嫌われたら元も子もないですよね。たぶん……奥さん、愛する旦那さんを殺したの、先輩だって気がつきましたよね。もう少し上手く殺せなかったんですか? 少しの疑惑ももたれないようにしないと駄目ですよ」

「だよな。気がつかれたら暗黒の夫婦生活しか待っていないだろう……お前、子ども産んでもらえたのか?」

「2人目がこの前生まれたところだ。2人目はそれはフェレシアに良く似ている可愛い子どもだ。俺もフェレシアもとても可愛がっているし、俺に似た長男もフェレシアは愛して可愛がって育てている」

なんかうそ臭いと感じるのは僕だけじゃないよね。

「やっぱり信じられないです。だって知られているんですよね」

「お前達は何か勘違いをしているようだが、俺は一言も暗殺や毒殺したなんて言っていない。ただ、フェレシアが間違った夫を選んだので、間違いを正してやったといっただけだ」


俺が描いた理想としては、フェレシアは前夫を簡単に捨てる事なんてできない性格だと分かっていた。だから夫の命が尽きるまで、面倒を見て、納得して夫を見送って俺のものになれば良いと思っていた。夫との時間が俺が与えた薬のせいでできたのだったら、俺に感謝をして嫁いでくれるだろう。それが理想といえば理想だった。
だがあの男はしぶとかった。ほんの1〜2年も持たないだろうと思っていたのに3年も生きた。

けれど俺は待てるつもりでいた。実質的にはフェレシアは俺の妻だったからだ。

しかし待てなくなったのはフェレシアが俺の子を妊娠したからだ。このままでは夫の子になってしまうし、流石にフェレシアも夫には何も言い出せないだろう。
だから俺がケリをつけてやろうとした。

フェレシアの夫は頭は悪くなかった。俺のいう存在がいることも薄々感づいていたらしい。素直に身を引くと言った。
フェレシアとお腹の子のために、俺に二人を託すと約束してくれた。俺は楽に行けるように、薬を渡した。

「だがフェレシアはあの夫と俺の子を育てると言い出した。あの男もフェレシアがそう望むならやはり俺に渡せないと言い出した」

だけど、俺は何もしていない。フェレシアの夫の懸想していた男に介護をさせ、それとなくフェレシアの不貞を吹き込み、その結果前夫に渡した薬を使って二人の無理心中が起こっただけだ。

「先輩、用意周到すぎますね! 自分の手を汚さず、他人に押し付けるなんて」

「二重にも三重にも罠を仕掛け、あらゆる場合に備えた作戦だな……」

「でも、僕だったらせっかく看護人を三年間も送り込んでいたのなら、無理心中じゃなくて心中に見せかけるけどな。だって、裏で夫と看護人ができていたら、フェレシアさんだって幻滅するだろうし、夫に愛想尽かすでしょ? リーセットと再婚するのに何の罪悪感も沸かなくなると思うんだけどな」

「フェレシアも馬鹿じゃない。あの夫が自分を裏切るはずはないと簡単に見破るはず。そしたら俺がやったとばれてしまうだろ?」

「でも、無理心中に見せかけても結局、ばれちゃったし意味なかったですね」

「フェレシアは勘が鋭かったみたいだ……いや、俺が笑ったからいけなかったのか? でも仕方がないだろう、やっと邪魔者がいなくなったのだから」

僕でも笑っちゃうかもしれないけど。

「けど……さあ。前夫って生きているよね?」

「……何故、そう思う?」

「だってリーセット、だいぶ前に僕に人形作成依頼してきたよね? 確か二体……その二体はどう考えても片思いに使うものじゃなかったし、妙に変な指定があったから良く覚えているんだ。確か、病にやつれて痩せた体で、今にも死にそうな風貌とかだったよね」

今思えばそれって前夫と看護人のお人形さんなんだよね。

「ええ!!?? 何で邪魔な夫生かしているんですか?」

「いや、リーセットのことだ。保障を何重にも用意するために、だろう? ただ殺すだけじゃ勿体無い」

「そうだ……殺したら終わりだが、生かしておけば利用価値はある。実際……フェレシアは結婚してから俺を憎み、そして生きる気力をなくしてしまった……誓約によって自ら命を絶つことはできないが、生きたくないと思う自由はある。そのせいで、見る見るうちにやつれてしまったんだ……可哀想に。だから実は前夫は生きていると……言うしかなかった」

フェレシアにあの男からの手紙を渡した。


フェレシア、こうして手紙を書くことを迷った。俺はもうフェレシアの中で死んだと思ってくれていたほうが新しい人生を歩めるんじゃないかと思った。
酷い事を言うようだが、恨まないでくれ。
俺はフェレシアを愛していた。今もそれは変わらない。
けれど結婚した事は間違いだったとずっと思っていた。
俺が病気にならなかったら、フェレシアと何があっても添い遂げただろう。しかし俺がフェレシアに何が出来ただろうか。ただお荷物にしかなれなかった。
フェレシアはそれで良いと言ってくれた。一緒にいられるだけで幸せだと。
けれど俺は、幸せだけではなかった。フェレシアに苦労をさせ、フェレシアだけに働かせ、俺は何も出来ない。ただ毎日生きているだけで苦労をかけている。それがとても苦痛だった。
馬鹿な男のプライドだと思ってくれていい。
妻に何もしてやれない、そんな自分が憎くて仕方がなかった。俺なんかと結婚しなければフェレシアは、いずれ子どもも儲ける事もできたはずなのに。
だから、フェレシアが他の男と……と気がついたとき、安堵のほうが大きかった。ああ、これでフェレシアは俺から開放されるのだと。
彼からお腹の子がいると聞いて、身を引かなければいけないと思った。一度はフェレシアの涙のせいで一緒に育てるなどと言ってしまったが、やはりそんなわけにはいかない。
俺は何時死ぬか分からないし、子どもは実の父親の元で育てるべきだろう。
フェレシア、俺は君に愛される価値なんかない、卑小な男だ。フェレシアから離れられて、今俺のために身を粉にして働く君を見ないで済む。
俺のために不幸になって欲しくない。
新しい夫のもとで今度こそ幸せになって欲しい。
彼は君のことを心底愛しているよ。俺では与えられなかった家族を与えてくれるはずだ。

もう俺のことを思い出さないでほしい。それだけが俺の願いだ。

亡霊より


「それでフェレシアさんは許してくれたの?」

「許す?……ただ、実は夫に見捨てられたと気がついたんだろう。自分のしてきた事が夫を追い詰めていたことに泣いていたよ……でも、夫がフェレシアの幸せのために身を引いたってことも分かったんだろう。約束どおり俺の妻として生きていくから……ただ、前夫の死に目にだけは会わせて欲しいと頼まれた。今度こそ看取りたいと言われた」

「優しいんだね」

「それだけが望みだ、それさえ叶えてくれるなら……と泣いて頼まれたら仕方がないだろう。本当は死んだと思って終わっていてくれたら、それが一番良かったんだが」

前夫はいろんな意味で人質なのか。本当だったらさくっと殺したいところだろうに。
でも、たぶん、奥さんが無理心中したと思い込んでいたら、そのまま夫のことを生かしていく価値がないからサクって殺したんじゃないかな?



「じゃあ、リーセットは暗殺も毒薬もしていないってことで、問題なしっと」




*****
フェレシアは自分の存在が夫を苦しめていたことに愕然とし・・・もう一緒にはいられない
でも生きてくれただけで嬉しい・・・そんな気持ちです。
裏で夫同士が相談した結果ですが、ラルフは薬と引き換えに〜は知らず、純粋にフェレシアは自分を愛しているけど、満たされない部分をリーセットで補っていた。と思い込んでおります。



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