「よし! デニスの対策はノーパンと……さて、最後に一番の問題はシエラ……お前だ!!」

最後まで私の話題が出てこなかったので、エリオットのことを見逃してくれるかもしれないと期待していたが、やはり無理だったようだ。

「お前の夫はどうにかならないのか! イアンもジュリアもジブリールも一応仕事はしていたというのに、お前の夫は仕事中にも交わりまくって、いい加減にしろ!!!!」

「部下たちに示しがつかないだろう!」

「……反論の余地がない」

エリオットの絶倫ぶりは、第一部隊で知らない人がいないほどだ。私も身をもって知っている。

「お前、ひょっとして夜、拒否とかしまくっているんじゃないのか? だから、反動でエリオットがあそこまで盛るんじゃないのか?」

「そんな! 確かに回数は減らして欲しいと頼んだ事はあるけど、行為自体は拒否した事はないのに……」

「でもさ、お前たちってエミリオ分隊長の罰で仕方がなく結婚したカップルだよな。どうしてああ、エリオットは盛るんだ?」

イアンはグレイ人形ちゃんを作成するくらいグレイシアが好きだった。
ジュリアもずっと前からフェルナンのパイパンが好きだった。
ジブリールも隊長のまねをしてパンツを被るくらいデニスのことがずっと好きだった。

だがエリオットと私は一見何もない関係に見えただろう。

あの事件でお互い交わってしまったので仕方がなく結婚したカップル……そう思われていた。


「エリオットは私の弟の婚約者だったんだ」

エリオットと私が出会ったのはずっと昔のことだった。弟のお見合い相手として現れたのがエリオットだった。
何事もなく婚約が成立し、その数年後お披露目の場で弟の婚約者として出会ったエリオットだったが、何を間違ったのか数日後エリオット家から婚約破棄の申し出があった。
いや正確には婚約者を変更して欲しいと言う申し出だった。

「何を言っているんですか? エリオット殿、貴方は私の弟の婚約者なんですよ。それをお披露目が終わったばかりだというのに、私と婚約したいと?」

エリオット家も相当困った様子で彼の父も馬鹿な事を言う息子で申し訳ないと恐縮をしていた。

我が家も相当戸惑っていた。もう何年も前に決まった婚約を、しかもお披露目まで済んでしまったというのに、弟から兄へ婚約者を変えて欲しいと申し入れがあったからだ。

「本当に申し訳ないと思っています。幼い頃婚約の話があり、私もそれで良いと思って今日の日を迎えました……ですが、シエラさんに会ってしまって一目で恋に落ちてしまいました。どうしてもシエラさんと結婚したいんです! 非常識な申し出ですが、許してください!」

「本当に非常識な申し出だな。エリオット殿は弟の気持ちを考えた事があるんですか? 貴方の妻になるべく今まで努力してきたというのに……それを兄に奪われたとなってはこれ以上ない屈辱でしょうし。貴方の申し出は私達家族を引き裂くようなものです」

「その通りです。本当に馬鹿息子で申し訳ない! 何度も言い聞かせたのですが、どうしてもシエラさんを諦めれないと言い出して。こんな気持ちで婚約を続けるわけにもいかないと、どうしても……」

エリオットの父親は相当困っているようだった。だが私がこの申し出を受けてくれれば、と僅かな望みで言っているのだろう。

「シエラに婚約を断わられても、私の気持ちはシエラにしかありません。どのみち弟君との婚約は貴方が了承する、しないに関わらず破棄をお願いするしかありません」

「シエラ、もう婚約は破棄することは決まってしまっている。あの子には可哀想だが、不幸になるのが目に見えている気持ちがない結婚をさせるわけにはいかない。エリオット殿と結婚をどうするかは、シエラに任せよう。お前のいい様に返事をしなさい。先方も了承されている」

当たり前だ。こちらに非はない。むしろ被害者側なのだ。問答無用で断わってもいいところを、私の意向次第だと言うのはかなり穏便な断わり方だろう。

「エリオット殿、もうし」

「いや、お願いだ! 今すぐ断わらないでくれ! 今すぐ返事をされてはいい返事が返ってこないことぐらい分かっている。俺のことを最低の男だと思うだろう。だからお願いだ……せめて一年経って、冷静に考えれるくらい俺を見てから返事をしてくれないか? ほんの少しでいい、考慮する時間を取って欲しい」

今すぐ申し出を断わっても非難はされないだろう。どう考えてもエリオット側が悪いのだ。
だが家同士で結婚しようとしていて間柄だ。商売上の付き合いもあり、無碍にするのもこれからのことを考えてよくないだろうと思った。
弟のことは気になるが、どの道こんなことになったので最早結婚は無理だろう。結局弟とエリオットは婚約を破棄することになった。

そして約束の一年、どうやってかエリオットは私が所属している部隊に移動してきた。同僚として働く事になり、おそらく猶予期間の一年の間に少しでも彼のことを知って欲しいとでも思ったのだろう。

悪い男ではなかった。勤勉だし、容姿も整って不快感は感じさせない。部下思いで、信頼も厚い。夫にするのだったら申し分のない男なのかもしれない。
あくまで弟の夫としてなら歓迎ができただろう。

そして一年が経った。

「エリオット……一年考えさせてもらった。けれど返事は変わらない。貴方と結婚はやはり考えられない」

「何故! ……俺の何処が、駄目だった? 気に入らない所があったら直すから!」

「エリオットの人格や人柄は申し分はない。直すところは特にない……ただ、やはり出会いが悪かったとしか言いようがない」

何度考えても弟の婚約者だったエリオットと結婚は考えられない。弟に申し訳ないという気持ちが先立ってしまう。

「出会い……?」

「そうだ……弟はずっと貴方と結婚する事を夢見ていた。幼い頃会っただけだというのにな……弟は身体が丈夫ではないし、魔力もそれほど優れているわけではない。だからエリオットの妻になって役立てるような教育を中心に受けてきた。結婚が破談になってもう結婚はしたくないといっている」

「そのことについては悪かったと思っている。けれどっ」

「いや、そのことでもう責めるつもりはない。感情の問題だ。君が弟を愛せず、私を好きになった事はどうしようもないことだ。婚約も幼い頃のもので、エリオットにもどうしようもなかったことだろう。そんな本人の責任でない事を何時までも責めようとは思わない」

「けれど、俺とは結婚できないんだろう?」

いくつも理由があった。彼なりに真剣なのだから私も真剣に断わらないといけないと思い、全ての理由を述べた。

「弟が結婚しないのでは、私が嫁に行くわけにはいかないだろう?」

エリオットは一人息子だ。私は弟と二人だけ。

「なら、生まれた息子の一人にシエラの家を継いでもらえばいい」

「私と君の魔力値はほぼ同じだ。若干エリオットのほうが高いだろう。だがこの状態では子どもを持つ事は難しいだろう。できたとしても一人がせいぜいだ。少なくても二人は作れないと、どちらかの家が断絶してしまう」

魔力値が同じだと子どもができない。全く同じというわけではないので、可能性はなくはない。だが子沢山とはどうやっても無理だ。奇跡的にできたとしても一人。二人は無理だろう。

「私は理性的に考えて、エリオットとの結婚は無理だという結論にいたった。一年真剣に考えてみた。だから……」

それ以上は流石に口にできなかった。だってエリオットが泣いていたからだ。

「そ、その……大丈夫か?」

「どうやっても、どうやっても無理か? そんな家同士のことなんかじゃなくて、俺を好きになってくれて……そんなことどうでも良いと思ってはくれないのか?」

「無理だ……君の事を好ましいとは思うけれど恋情ではない。何もかもを捨てて愛するような気持ちにはなれない」

「俺は……シエラが手に入るならっ……全てを捨てたって構わない。子どもだってできなくたって構わないっ」

「ありがとう……そこまで思ってくれたのは凄く嬉しい。でも、他の人を好きになる努力をしてくれないか。俺も他の人と結婚することになる」

いずれ好きになった人か、父が薦める縁談を受けることになるだろう。それはエリオットではないことは確かなのだ。

「俺は……シエラ以外を好きにはならない。シエラ以外とは結婚しない……出会いが悪かったって言うんだったら、お願いだ。生まれ変わったら俺は誰とも婚約なんかしない。だから、生まれ変わったら俺と結婚して欲しい。来世では俺以外と結婚するなんて言わないでくれ」

生まれ変わったら……来世…いきなり重い話になってしまった。だが、まあ、来世の話だったら、YESと言えばエリオットの気が済むんだったら構わないと思い頷いた。

これから先一生独身を通し、来世まで私への気持ちを貫き通すというエリオットにそれ以上追い討ちはかけれなかったからだ。



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