「というわけで、グレイシア、お前を副隊長代理に任命する。頑張ってくれ」

そんな無体な指令が、クライス副隊長とエミリオ分隊長から発せられた。

「え?ええ??!! ど、どういうことなんですか??」

「……次の隊長は誰がなると思う?」

「……他の部隊から連れてくるのが妥当でしょう?」

クライス副隊長とエミリオが駄目なら、他の部隊からお願いをして異動をしてもらうのが本来の動きだ。

「お前の夫イアンが次の隊長だ」

「………は?」

俺の夫のイアンが次の隊長?

昔、俺は知らなかったが、平気で全裸で歩いて一緒にグレイ人形ちゃんとお風呂に入っていた変態がか?
何故俺が知らなかったかって? 別の部隊を指揮していたんだ。シフトが違う事が多く、イアンが全裸で闊歩している姿など見たことがなかった。

グレイ人形ちゃんを抱きながら全裸で歩く変態……何故誰も注意をしないんだ!!!!!

そんなイアンが隊長に? 何をこの2人は冗談を言っているんだ?

「冗談ですよね?」

「いや、本気だ」

「何を考えているんですか!? イアンはただの変態ですよ!!! 分かっているんですか???」

「分かっている」

「分かっていたら、何であんな変態を隊長にしようとか考えるんですか??? 他の部隊からお願いしてもらってくるのが筋でしょう?」

俺は心底この2人が何を考えているか分からなかった。もっといくらでもマシな解決策があるだろう。
頭脳明晰なこの2人がどうしてイアンなんかを……と思って、頭がおかしくなってしまったのではないかと心配になった。

「なら聞くが。お前は本当にこんな部隊に、他の部隊から移動をしてきてもらえると思うのか? こんな変態の巣窟にだぞ?」

「うっ……それは、そうかもしれないですが! で、でもイアンよりもマシな分隊長が」

「イアンと同じ酷い変態はいる。だがイアンよりマシな変態はいない……」

「……すいません。お2人なりに熟考した結果だったんですよね。俺から見たらイアンはこれ以上ない変態だと思うんですが……確かに他の分隊長たちも同じくらい恥ずかしい変態ぞろいかもしれません」

俺は他の隊長に昇格できる分隊長たちの顔を思い浮かべ、遠い目をしてしまった。これはたしかに酷い。酷すぎて誰も選べないほどだったが、その酷い人選の中でイアンを選んだようだ。何故だ? イアンのどこがお気に召したのか心底分からない。

「ですがもっと分からないのは何で俺が副隊長代理なんですか? イアンの補佐はクライス副隊長とエミリオ分隊長がするはずでは?」

「それはだな……すまないが俺とエミリオは産休を取ることになった。だから、イアンの補佐は妻たるグレイシアの役目だ。よろしく頼む」

そこでわざとらしく2人はおなかを大事そうに撫でて見せた。

「酷いです! 計画的ですね!!!」

「そんなわけあるか。俺の妊娠しにくさは、お前も分かるだろう? 計画的に妊娠などできん」

「エミリオは絶対に計画的だ!!! 二度と子どもなど産まん! って言っていたのに、この時期に酷すぎる!」

「……夫がどうしても欲しいというのでな。それに長男も弟が欲しいだろう? 余り離れても一緒に遊べないだろうし、今の時期がちょうどいいと思ったまでだ」

絶対に嘘だ。嘘だと分かっているが、妊娠することが悪いわけではない。自由に産休を取ることが権利として認められている。故意に妊娠したところで責めるわけには本来はいかない。

どうしてだ、エミリオ!
お前も、夫が好きじゃなかったはずじゃないのか?
隊長に無理矢理押し付けられた婿のはずじゃなかったのか?
何で仲良く子作りしているんだ?

パイパンが好きな変態で、とか言っていなかったか?
俺だって夫は人形師だぞ? グレイ人形ちゃんを抱いて全裸が当たり前だった変態で、人形相手に盛っていて、お人形を相手にする時間が欲しいからって服を着る時間ももったいないとか言って末期時期には仕事以外には常に全裸でいたような男だぞ。結婚をしたらまず服を着せる習慣から戻すことをさせないといけなかったんだぞ。そんな俺にすまないことをしたと謝ってくれたはずの同じ変態な夫を持つ身のはずなのに、何でお前だけ夫と仲良く第二子まで作っているんだ?

「というわけで、よろしく頼んだ。俺たちは今日から産休だ」

お2人とも、つい先日産休開けしたばかりでしょう?
クライス副隊長は大事な身体だからって出産後一年半も産休とって。エミリオも一年近く取っていた。その間荒れ果てた第一部隊をまた放置して産休に入っていくなんて。

「グレイシアはまだ子どもはできないのか? お前も嫌なら産休を取れば良いじゃないか」

何だその『パンがないならケーキを食べれば良いじゃないかしら?』的な、捨て台詞は!!!!

俺は俺は、クライス副隊長よりも出来にくいんだ!
クライス副隊長は魔力は俺よりも高いが、その夫はもっと高い。だからお互いの魔力差が俺とイアンよりもずっとある。
それに比べて俺とイアンの魔力の差は結構僅差だ。そのせいで結婚2年経過してもまだできない。

別にこれまで焦った事はなかった。これくらい魔力が拮抗していると5年できなくても珍しくない。だからまだ2年しか経ってない。普通だったら焦ることはないのだ。



「イアン! お前が隊長になることは知っているか?」

「グレイ!……うん、あのね。僕が隊長になることが決まったの! 旦那様が隊長で嬉しい? 誇らしい? 虜になっちゃう? 愛しい旦那様って思っちゃう?」

この変態が! 貴様なんかが隊長で良いわけないだろう! 誇らしいどころか、貴様のような変態が隊長になったらこの世で最も恥ずかしい隊長にならないか心配で仕方がないだろう!
何よりもそんな変態を補佐しなければいけない自分が可哀想でならないわ!

「そうだな……とても誇らしくて、隊長が夫だなんて、お前と結婚できて良かったよ」

「グレイ! 僕も、グレイにそう言ってもらいたくて隊長選を頑張った甲斐があったよ! 隊長もエルたん人形を喜んで受け取ってくれたし」

それは賄賂! と言うんだ! この変態が!

「だから、隊長になったイアンにお願いがあるんだ。俺、イアンの子どもが欲しい」

「グ、グレイ……」

「イアンが誇らしくて、そんな誇らしい旦那様の子どもを産みたいんだ」

「グ、グレイ!!!! は、はい! よ、喜んで孕ませてあげたいです!!!」

「じゃあ、これを飲め! 軍医から貰ってきた妊娠促進剤夫バージョンだ。俺も飲んだ!……今夜は一晩中子作りだ。ついでにあの結婚の原因になった媚薬も混ぜておいた……子どもができるまでこの部屋からは出さないから、そのつもりで孕ませろ!」

これまで俺は常に受身だった。変態の夫と結婚したのだから、しかも好きでしたわけじゃないし。けど、エルウィンほど鬼嫁でもないつもりだったから、イアンの性欲をある程度満たしてやっていた。イアンは勉強して人形作りに精進します! でも絶対本物には適わないっ! とか訳の分からない事を言っていたがな。

だが今日は違う!

「はい! 奥様っ! 頑張って孕まさせて下さい! あっ、駄目、そんなことまでされたらっ……」



*******


「俺も産休を取る事になりました!」

「……まあ、良いか。他のやつが何とかするだろう」

「そうだな。私たちには関係ない」

そんな3人の妊婦を見る王太子妃が言いました。

「あの……皆様、錯乱してどうかしているんじゃないですか? 変態に関わりたくない気持ちは痛いほど分かるんですが……でも、妊娠して逃げるまでもなく、普通に除隊すれば良いだけでは? 別にお金に困っているわけじゃないので無理に働く必要はなかったのに。なんで辞めないんですか?」

「はっ……そういえばそうかΣ( ̄ロ ̄lll)……俺は一体何を考えていたんだっ!」

「ギルフォードに騙されたのか?(_ _|||)」

「集団心理に騙されたって奴ですね……別にギルフォード王子は騙していないと思いますよ。ただ、エミリオ分隊長が冷静じゃなかっただけです」

「何を言っているんだ、エルウィン。俺は愛するユーリの子が欲しかっただけで、変態に関わりたくないとか無関係だぞ。ユーリの子なら何人でも産みたいんだ」

「はいはいクライス様はそうですよね」


END
妊娠ラッシュで第一部隊はどうなるんでしょうねww




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