俺は正直ナナさんがどうなろうと構わなかった。ただロベルトの婚約者で、ロベルトの妻になるべき人だった。
だから、彼にロベルトを幸せにして欲しかったし、それが駄目になった今、俺が台無しにしてしまった彼の幸せを見届けたいという偽善めいた思いがあった。

ナナは幼馴染の青年と結婚した。今度は俺がロベルトを幸せにする番だと言われたが、本当に俺なんかでロベルトは良いのだろうか。

「ただいま」

「おかえり……」

いつもの挨拶だ。いつもと変わりない。いつもと同じように夕食を食べて、そして別々の部屋に寝る。
それが毎日の過ごし方だった。

ナナが幸せになったら、本当の夫婦になる。そう約束したけど、ナナが結婚したらという約束ではなかった。
だから、まだ今日もいつもと同じようにすれば良い。
そう思って、ロベルトの風呂の支度をする。俺は戻ってきてから入った。

「……マリウス、覚悟は良いか?」

「……え?」

それ以上何も言わず、ロベルトは風呂に入っていった。俺はロベルトに言われた意味を考えていた。
知っているのだろうか。ナナが結婚した事を。だからあんなことを?
でも覚悟といわれてもどうしたら良いのだろうか。今日のナナの結婚は余りにも突然すぎて、結婚初夜のように事前から分かっているわけじゃない。
一年もあったじゃないかと言われるかもしれないし、もうすでに一回はロベルトと交わった事がある。なのに、全く覚悟が決まっていない。
どうしよう、逃げ出してしまいたい。

「ちゃんと待っていたな」

ロベルトがズボンだけ履いた姿で、風呂から出てきた。一緒に訓練もした。見慣れているその上半身の姿に、頬が赤くなるのを感じた。

「ナナが結婚したって、アーセルから聞いた。だから、もう良いだろう? マリウス、俺も限界だ」

何も返事が出来ないまま、ロベルトは俺は抱き上げると花嫁抱きで寝室まで連れて行った。
入った事のない彼の寝室に入れられ、ベッドに横たえられる。その瞬間ロベルトの匂いがシーツから感じて、酷く狼狽をしているのが分かった。ああ、本当にこれからする気なんだと分かって。

「あ、あのっ……心の準備がっ」

「どれだけ俺に我慢させていたと思っているんだよ。心の準備なんてする時間は山ほどだっただろうし、そもそもお前には心の準備がないほうが良い。大人しく、俺に抱かれていろ」

お前に心の準備をさせるとろくな事を考えそうもないから、と言いながら俺の服を剥いでいく。
俺がどれだけ我慢していたか分かるか? と耳元で囁かれながら、俺だけ全裸になっていく。
初めてじゃない。あの時は自分から裸になって迫っていった。だけど今のほうがずっと恥ずかしい。

「お、俺なんかでっ……本当に、良いのか?」

「まだ言っているのか? お前だから愛しているんだ……お前ほど俺を愛してくれる人はいない。俺に触れられるだけで、こんなになっているだろ?」

ロベルトの言うように、ロベルトに触れられただけで、その匂いを嗅いだだけで、俺の下半身はとても恥ずかしいことになっていた。こんなんで嫌だと言っても笑われるだろう。

「俺は……お前を好きなだけしか…それしかないっ……魔力も、クライスみたいな高潔な心も、何もない…」

人のものを奪うしか能がなくて、家族の誰からも愛されなくて、ロベルトを好きなことだけしか人に勝つ物はない。

「俺を好きということ以外、何が必要だ? もう、家族のことなんか考えるな。全て捨てていけ……俺だけがいれば良いだろう? 違うか?」

俺はロベルトだけがいれば、それで良い。他には何もいらない。誰になんと言われようが、どうでも良い。ただロベルトにだけは嫌われたくなかった。
でもロベルトはこんな俺で良いと言ってくれる。
信じたい気持ちと、信じられない思いで、ロベルトに抱かれる。

「あっ……んっ」

「初めての時、お前ここまったく慣らさずに俺に抱かれて……痛そうで可哀想だったけど、物凄く色っぽくて、やばかった」

ロベルトの指が俺の中を蹂躙する。

「傷を治してやる時も、血と俺と精液で濡れていて……我慢できなかった。美人で健気で一途で、エロいなんて最高の奥さんだろ」

「やだっ……もう、それ以上言わないでっ…」

俺の初めてのあの日の醜態を楽しそうにいうロベルトに、耐えられなかった。
あの日のことは忘れたいのに。自分でもどうしてあれほど大胆なことができたか、今でも分からない。死のうと思っていたから何でも出来たんだろうけど、今は忘れたい思い出なのに。

「どうして? 凄く可愛かったのに。悩殺されて、マリウスに惚れた切欠なのにな」

「そんなのっ、嫌だ……だって、そんなんじゃ……俺みたいに捨て身で迫ったら、お前簡単に浮気するんじゃっ…」

ロベルトは優しいし真面目だ。浮気をするような人間には見えない。見えないけど、俺みたいな男が同じように迫ったら、断わりきれないんじゃないかと心配になってしまう。そしてそっちを好きだって言い出すかもしれない。

「あのな……そう簡単に浮気するんだったら、一年も大人しく待ったりしないだろ? だいたい、お前だから惚れたんで……どうでもいい奴が迫ったところで何とも思ったりしない。約束どおり、お前が俺の気持ちを疑ったりする暇もないくらい、抱き潰してやるから覚悟をしろ」

指でよく慣らされた場所にロベルトの物が入ってくる。痛みは感じなかった。ただロベルトに抱かれているという喜び以外何も感じなかった。
俺は夢でも見ているのだろうか。本当に俺なんかが、ロベルトの意思で抱かれて、未来を紡ごうとしているなんて。

「マリウス、痛くはないか?」

「大丈夫っ…」

「ちゃんとお前を愛しているから……お前を幸せにしてやりたい。少しは、そう思ってくれるか?」

「ロベルト……」

幸せすぎて、騙されていると思うくらいだ。信じたら夢だったとか、実はロベルトに仕返しをされていると言われたほうがしっくりくるほどに。
でもこれほど情熱的に抱いてくれるのに、嘘だとは思いたくない。
愛しているから、俺は夢の中でもいい。一生ロベルトの腕の中にいて、夢から覚めたくない。


抱き潰すという宣言通り、俺はロベルトに抱かれながら気を失い、朝、いや昼に目が覚めた。ロベルトもまだ寝ていた。
一年も建前的には夫婦だったのに、一緒に眠るのも初めてだったし、ロベルトの寝顔を見るのも初めてだった。いや、酔っ払って寝てしまったときの顔は見た事があったけど、そういうのはと別物だろう。

俺は飽きもせずロベルトの顔を見ていた。

「ああ、おはよう」

「おはよ……」

「何を考えてたんだ? 朝からそんな顔をして」

ロベルトに見惚れていたなんて恥ずかしい事は言えなかった。

「……うん。俺って本当にロベルトの妻で良いのかな?」

「今更何を言っているんだ? 昨日でよく分かったと思っていたが?」

「そうじゃなくて……俺、家から勘当されているし……お前の家に認めてもらっていないんだろう? お前、跡取りなのに」

ロベルトの妻になるつもりのなかった俺は、ロベルトの両親と会った事もない。普通結婚したらあいさつくらいは行くだろう。伯爵家の跡取り息子なら盛大なお披露目をするのが当然なのに。
平民と結婚当日婚約を破棄して、勘当された侯爵家の息子と結婚をしたロベルトをご両親はよく思っていないだろう。

「そんなこと気にしてなくて良い。元々、跡を取るなんてどうでも良かったし、興味はない。家族なら、俺とマリウスと、子どもたちと作っていこう。もう、できたかな?」

俺の裸の腹にいたずら気に触れてくるが、どんな名医でも分かるはずない。もし妊娠していたとしても妊娠一日目だ。


「お前が魔力が少なく生まれてきたのは、俺の子どもを産むためだって思え。マリウスのほうが魔力が高かったら、嫁も貰うのも子どもを産んでもらうのも無理だっただろう? いや、お前のほうが魔力高かったら俺が嫁だったか? それはちょっと嫌だな」

確かに……ロベルトを嫁というのは変な感じだ。というか、俺も嫌だ。

「だから、これでちょうど良かっただろう? お前は魔力が弟に比べて低くて、辛い思いをしただろうけど、そのお陰で跡を継がずに俺と結婚することに障害がなかった。だから、お前が魔力が低く生まれたのは俺と結婚するためだったと思って、もう自分を卑下することは止めてくれ。お前の家族が大事にしてやらなかった分、俺が一生大事にするから」


ロベルト、俺、お前と結婚できるんだったら魔力なんか0でも構わなかった。
これがもし俺の都合の良い夢だったとしても、もう一生目覚めたくない。

「ロベルト、愛しているから……お前の気持ちが嘘だったとしても、俺はずっと……」

その言葉はロベルトの抱擁にかき消された。

END


あとがき
ヘタレ系紳士×ネガティブの純愛でお送りしました。
うちのサイトゲスが好きな方が多いけど、純愛系を書くと珍しいのか、反応が良かったので、ついつい書きすぎちゃいました。
このあとエピローグを考えていますが、一応良い区切りなのでENDとしました。



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