「お前が好きだよ、マリウス」
それはずっと俺がロベルトに言われたかった言葉だ。ただ永遠にそんな日は来ないと思っていたけれど。
「何で……簡単にナナさんを忘れられるのか信じられない。どうして俺なんかにっ、好きだって言えるのか、分からないっ!」
そんなに簡単に人の気持ちは変わるはずない。結婚まで考えた人を半年もしない内にもう好きではないと言い、ロベルトに無理強いをした俺を好きだなんて言えるのか。
「人は一生の内に、一人しか好きになれないか?」
「俺はっ……ロベルト以外を好きにはなれない」
嫌いになれたら、せめて好きじゃなくればとずっと思っていた。ナナとロベルトとの結婚が決まった頃から。他の人を好きになれたら、こんな醜い思いをしないですむのにと、何度思っただろうか。
「俺はナナと結婚しないと決めた時に、もうすっぱりと思いは捨てた。そしてマリウスと生きようと決めたんだ」
「だからしょうがなくだろっ!……俺を生かすために仕方がなく結婚して、お前は責任を取るために」
「そうじゃないんだ……結婚の最大の理由は確かにお前を死刑にしたくなかった。けど、いくらお前が親友だからって好きでもない男と結婚はしない。お前のことは……マリウスの言うとおりだった。俺って、好きだって言われたら好きになってしまうのかもしれないな」
「そんなのっ」
それはそうは言った。お前は好きと言われたら好きになる簡単すぎる男だって。俺だってお前の事を好きなんだから、好きになってくれとも。でも、そんな簡単な事で俺なんかを好きになってくれるはずない。
「お前が死ぬのを覚悟で俺に抱かれたいって……好きだって言われて、それで気にならないほうがおかしいだろ? そこまで好きになってくれる人はマリウスしかきっといない。だから俺はマリウスと結婚しようと思った……お前のその盲目的にまで俺を愛してくれるところが、とても愛おしいよ」
「……ロベルトっ」
もう涙が止まらなかった。本当に、本当に少しでも俺のことを好きだと思ってくれているのだろうか。
ナナほどでなくてもいい。ナナの十分の一でも良いから、俺のことを愛してくれたら。
「だからお前に拒否されて、俺結構落ち込んだんだぞ……初めてはあんなだったから、ちゃんとやり直そうと思ったのに……お前は泣いて嫌がるし。何でだ?って思った。俺のことを好きだって言うのに何で拒むんだろうかと、悩んで、手が出せなくなった」
「だってナナさんと別れた日に……なんて、どうしてお前は俺を抱こうと……そんなに簡単に気持ちを切り替えて、俺なんかを好きだっていうのはやっぱり信じられない」
たぶんロベルトに好きだって言われるのは嬉しい。だけど、ロベルトを無理矢理襲ったり無茶苦茶したこんな俺なんかを本当に好きになってくれるかなんて、やはり信じられない。
それも一日も経たないうちに心変わりできるなんて、有り得ないと思う。
「お前の俺への想いに心を打たれた。そして、お前の身体に悩殺された」
「っ! 冗談を」
「冗談なんかじゃない。俺も男だから仕方がないだろ? お前みたいな美人に裸で迫られたら瞬殺だ。そして、お前のひたむきさと、俺のために全部なくしたお前を幸せにしたいって思うのはおかしいか?」
分からない。おかしいような気もするし、それらは全部俺への同情や憐憫から来るものじゃないのだろうか。
「それでも信用ならないって言うんだったら、もう我慢するんじゃなかったって思うくらいお前を抱く」
「ロ、ロベルトっ」
「お前はそんなに頑なだし、後ろ向きな思考だから、俺がナナよりもお前の事を好きになったと言っても信じてくれないだろうとは思っていた。だから言うのはまだ早いと思って様子を見ていたが、また一人で暗い思考になって死のうとするし……もう良いよ。お前が信じるようになるまで毎日抱き潰してやる」
そう言いながら抱きしめたままでロベルトが俺の衣服を脱がそうとしてくる。
「ロベルトっここは外でっ……」
「何だ、恥ずかしいのか? 初めての日は自分から服を脱いで迫ってきてくれたのに」
あれは最初で最後だと思ったから何でも出来た。でも今はそうじゃない。
ロベルトは俺に信じてもらうために俺を抱くって言うけど。
「そんなことをされても、俺は多分お前の言う事を信じれない」
「構わない。どうせそうすぐには信じないと思っている……だから、死のうとかナナに返そうとか、そんな馬鹿なことを考えないように抱くって言っているんだ。そうだな、俺の子どもを孕めば、少なくても死のうとは思わなくなるだろ?」
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