全てをぶちまけて叫んだ後は、奇妙な静寂しか残っていなかった。

「マリウス……俺は……何と言っていいか、分からない」

「何も言わなければ良い……」

何もない。コイツが結婚してしまえば、俺にはもう何も残らない。誰にも何も期待されないまま、誰にも愛されないし、愛する人ももう手の届かない場所へ行ってしまう。

「気持ちは、嬉しいんだ。けど、俺はナナと明日結婚するし……」

「分かっているって言っただろう! そんなことっ……何度も考えたっ! だから……」

俺は明日ロベルトの結婚する姿を見るつもりはない。明日を迎えたくはない。

「俺は……もう全部諦めている。お前に好きになってもらうことも、お前との未来もないってちゃんと分かっている。分かっていて、言っているんだ」

ナナと嬉しそうにその名前を呟くこの男が俺を今更好きになってくれるはずはない。

「でも、最後に欲しいものがあるだけなんだ。ロベルトと奥さんのことを邪魔するつもりはない……」

そう今更邪魔したところで、俺が得るものなんかない。ロベルトは一度愛した人を簡単に変えるような男じゃない。俺がいくら好きだと言ったところで、コイツが困るだけだ。

「マ、マリウス! お、お前何をっ」

「でも、最後に、欲しいんだ。思い出が……」

ロベルトが動揺しているのも当然かもしれない。俺がロベルトが何を言おうが、黙って自分の服を脱いでいく。何も纏う物が無くなると、銀色の前髪を後ろに流して、ロベルトの前に跪いた。

「ロベルト……俺はお前の最初の男になりたい。お前の初めてが欲しいんだ。何も望まないから、それだけくれないか?」

明日結婚する男に不貞をすることを頼むなんて、よくそれだけと言えたものだと自分でも可笑しかった。それだけで済むはずない。
この実直な男が浮気を平然として黙っていられるはずは無い。いや、その前に愛する人を裏切るような男じゃないんだ。

「マリウス! 服を着てくれっ……俺はナナを裏切ることはできない。お前が嫌いなわけじゃないんだっ! ただっ」

「分かっている! そんなことっ! お前の言う言葉なんか、今の俺に何の感銘も与えないっ……な? ただ、黙って、目をつぶって30分だけでも良い。ただ、目をつぶっていてくれれば良いんだ。ロベルトは何もしなくてもいい」

ロベルトに抵抗されては、魔力も体力も劣る俺では成就することは不可能だ。だから媚薬は用意してきた。さっきの酒に紛らわせれば良かったが、効くタイミングが分からなかったのでまさか知人たちの前で飲ます事はできなかった。噂に聞く花嫁の媚薬ほどではないが、効果の高いといわれる薬を入手した。
それを俺の唇に塗ってある。口付けだけでもできれば、その気になってくれるはずだ。
キスさえ拒否されたらもうそれまでだ。運が無かったと諦めるしかない。

跪いたままロベルトの顔に、手を伸ばしてこちらに顔を向けようとするが避けられる。行き場をなくした手が、力なく落ちてしまった。
これほど、捨て身で一度だけと頼んでもやはり無理だったのかと。

俺を避けるように顔を合わせないロベルトに、気力がつきかけた。
落ちた手が偶然ロベルトの下腹部に触れてしまうまでは。

「ロベルト、何だ……お前だってその気なんじゃないか?」

間違えようが無いほどロベルトのそこは欲情していた。それに気がついた俺は、わざと嘲るように微笑んで見せた。
俺のこんな身体で欲情してくれたのだろうか?
絶世の美貌と名高い、完璧な弟と俺は少し似ていると言われる。弟のような美貌は持ち合わせていない。けれど、弟の十分の一でも似ているとしたら、婚約者よりはそそる身体をしているのかもしれない。

「俺を見て欲情したんだろ? それだけで奥さんには裏切りだろ? 俺は裏切った事なんか言わないから……内緒にしておくから良いだろ?」

まごついて可哀想なほど顔を赤らめているロベルトに、反論を言う切欠を思い出さないうちにと、ロベルトの下肢を露にした。勢いよく飛び出た欲望の証に、そのまま跨り何の準備もしていない俺の後ろに宛がい無理矢理進めた。
すさまじい痛みを感じたが、どうでも良かった。そのまま強引に進めて、無理矢理全てを収めた。俺の快感なんてどうでも良い。ただ俺はコイツの初めての男になりたかっただけだ。
一生、きっとコイツは忘れられないだろう。今日この日のことを。

ロベルトを見上げると、呆然とし、そして蒼白な顔をしていた。当たり前だろう。強姦されているんだ。しかも明日お互いに純潔のまま初夜を迎えるはずだったのに。

俺はロベルトの気持ちなんか無視をして、そのまま無理矢理跨ったまま上下に動く。ロベルトの精を感じたかったからだ。

「…止めろっ」

「嫌だっ……死んでも止めない!」

「血が出ているだろう! 酷い出血だっ」

それはそうだろう。俺は処女というよりも、何も準備をせずそのまま突っ込んだんだ。怪我をするに決まっている。だけど、この血のおかげでスムーズに動けているんだ。
治療する事は簡単だが、するつもりはなかった。ロベルトを受け入れた証の一つなんだから。

「そう言いながらも、お前萎えないだろ? 良いよ、お前が俺の中で出してくれたら、治療するから……俺の腹の中で一杯出して?」

ロベルトが動いてくれないから俺が動くしかない。けれど、出血と痛みのせいで気を失うよう兆候が出ている。俺は唇についたままだった媚薬をロベルトに舐めさせるのは止めて、自分で舐めることにした。これで痛みが軽減されるだろう。
ロベルトには舐めさせない。だって、何故だか分からないけれど、ロベルトは俺に欲情してくれた。俺が無理強いしているとはいえ、抵抗しようと思えばいくらでもできるはずなのに言うなりになっている。この状況についていけないだけだろうが、それでも薬のせいにされたくはない。

媚薬を舌で舐め取って、ロベルトを見つめると、出してと頼んだ次の瞬間、ロベルトのが弾けた。俺の中に大量に出してくれたのが分かった。

「ロベルト、見ろよ。奥さんに出してあげるはずの、お前の初めては俺の中に一杯だ?」

ロベルトのを抜くと、血と精液で塗れたそこを見せ付けた。詫びれも無くそう言ってのけるのは、ロベルトが俺を恨んでくれれば良いと思うからだ。愛されないのだから、俺がいなくなっても憎んで覚えていて欲しい。そしてナナに捧げるはずだった純血を奪ったことを永遠に忘れないように。

「……治療をしろよ」

「お前がしろよ。今の俺は上手く魔法が使えない」

嘘は言っていない。治療はしたくないが、媚薬を飲んでいるせいで上手く魔力のコントロールができそうもない。
治療なんて心底どうでも良いし。

「俺は治癒魔法が上手くないんだ。触れていないと……治せないし」

そういいながらロベルトは、ズタズタに裂かれた俺の後ろに指を入れると、治癒魔法を発動させた。本当にコイツは下手だ。すぐに治せないし、触れている部位ではないと治せない。
痛みばかりだったそこが段々治癒して行き、痛みが治まると、中に入っているロベルトの指を急に意識し始めた。媚薬が効き始めているのか、指が入っているだけでどうしようもないほどロベルトが欲しくなってしまう。

「ロベルト……もう良い。もう良いから、もう一度、お前としたい」

ロベルトの精液で満たされているそこを、淫らに見せ付けながら足を開くと、今度は俺が乗っからなくても、ロベルトのほうから入れてくれた。

俺の媚薬が移ったのだろうか? キスもしていないのに?

理由なんかどうでも良かった。そのまま朝になるまで、盛りのついた犬のように貪りあった。

ベルの音が聞こえた。結婚式の知らせのベルだ。俺にとっては死刑を宣告される音だったが。




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