「そろそろ5分経ちますね…陛下はこの解決方法は気に入らないようなので、もっと穏やかにすることにしましょう」

そう言った瞬間何もかもが戻った。破壊しつくされた王都も、デュアル王たちも全て生き返っていた。

アンリ様の逆行魔法だろう。アンリ様がお持ちの独自魔法の全ては知らないし、公表されるのは極一部なので、時を戻す魔法まで使えるなんて知らなかった。時に関する魔法は非常に難度が高く、公爵家の家系でしか使用できる者は現れないと聞いていたが、流石アンリ様だ。

四肢を裂かれたデュアル人たちは、自分の引き裂かれた手足を何度も確認しながら、泣いていた。死を味わったのだから、当然だろう。
しかしせっかく生き返っても、アンリ様は燃やしたり、溶かしたり、輪切りにしたり、ありとあらゆる死を経験させて、生き返らすことを繰り返した。

10回ほど生と死を経験させただろうか。
最早生き返っても、精神が破壊されきっているものたちが多数だった。

最後に王だけを生かし、婚約誓約書の破棄に同意させた。王は最早アンリ様の言いなりで、サインをした後、倒れてその後は知らない。

婚約誓約書は破棄されないままだと、わが国に被害が出る内容だったので、王を殺すか、破棄させるかどちらかしか方法がない。
きっとアンリ様が面倒がないように初めは殺すことにしたんだろうが、あくまで穏便にという兄の言葉にわざわざ逆行魔法まで使用して従ったのだろう。

アンリ様が一番強いのだからそこまでしなくて良いと思うのに。

「陛下、これでユアリスは婚約者はいなくなりました。誰一人血も流していません。何の問題ももうないので、今ここでユアリスと私との結婚許可証をいただきたい」

アンリ様の言うように、王都は元通りになったし、デュアル人たちも怪我は一切負っていないし、死人も一人もいない。ただし、正気を保っているような人は見渡す限りいなかったけれど。

「ここまでやっておいてっ! 国王である私をここまで侮辱しておいて、私がユアリスと貴様を結婚させるとでも思っているのか!? こうなったらどんなことがあってもお前たちを結婚させたりはしない!」

「そうですか……陛下も物分りがよろしくないですね。私とユアリスを引き離そうとすることが、何を意味するのかまだお分かりではないのですから」

アンリ様の言葉に同意せざるえない。だって何をやってもアンリ様には勝てないのに、兄は国王というプライドだけで、拒絶をしているのだから。アンリ様を味方に引き込むのが国のためなのに、敵にまわるようなことばかりをしてとても国王とは思えない。
アンリ様に離反されたらどうなるのか、考えた事はないのだろうか。

「そうですね、貴方は国王陛下ですし、愛するユアリスの兄君でもある。臣下として陛下を害する事などあってはいけない……ですから、陛下の代わりに愛する方に犠牲になってもらいましょうか」

「アンリ!!! 止めろ」

兄の隣にいた王妃が一瞬で弾けた。原形など保っておらず、兄の白い衣装を真っ赤に染めた。

「元に戻してくれ!!! 早く時間を戻してくれ!!!!」

「では、承諾書にサインを」

「私は国王だぞ! 貴様に命令されるいわれはっ!」

「では最愛の王妃を永遠に失えば良いでしょう」

「貴様、王妃を殺害したら、公爵と言えども処刑しか未来はないぞ!」

「構いませんよ。その前に陛下の王国はなくなっているでしょうし」

「陛下っ! 公爵の言うように承諾書にサインをして下さいっ! 王妃様も、国も、陛下のお命のためにも、公爵の言うようにするしか道はありません!」

「駄目だっ! 臣下の脅しに屈してはっ 国が成り立たなくなるっ」

混乱しているのか兄はどうしても納得しようとしなかった。国が成り立たなくなると主張しているが、このままでは国なんか無くなるのに。いっそ本当に国も兄も始末して、アンリ様が新たな国を作れば問題は全て解決なのに。そうすればアンリ様が国王だから、結婚は簡単にできる。

「陛下、もう5分たちます。もう一度だけチャンスを差し上げます」

王妃様は生き返った。だがすぐ、残酷な時が刻まれ始める。王妃の悲鳴が広間に響き渡った。

「順行魔法です。王妃の時を未来へと進ませています。このままだとあっという間に老婆に、ああもうなりましたね……陛下、最後のチャンスです。愛しい王妃を救うか、老婆のままでも永遠に愛するか。まあ、選択は陛下にお任せします。時を元に戻すには、私と言えでも5分の制約があります。5分を過ぎれば王妃を元に戻すことは不可能です。5分の間に全てを決めてください。王妃と陛下の国の命運を」

兄は叫び続け泣いている王妃を抱きしめると、アンリ様の下へ這いつくばった。

「王妃を元に戻してくれ! 承諾書にサインでも何でもするっ! もうユアリスはアンリの物だ! もう二度とお前達に手を出したりはしないっ! だからもうこれ以上惨いことはしないでくれ!」

「分かりました。私はユアリスと結婚できれば、王妃や国などには何の興味もない。惨い事とおっしゃるが、陛下が私にそうさせたことをお忘れないように。愛する恋人たちを引き裂こうとした結果が招いた、愚かな陛下の振る舞いが原因だと言う事を、生涯忘れることがないことを祈っております」

それからの兄は憑き物が落ちたように穏やかになり、良い国王になるのだが、それは別の話。



「アンリ様、やっとアンリ様の妻になれて幸せです。アンリ様のように素敵で、格好良くてっ」

「それは私の言葉だ。お前のように美しくて淫らで、可愛い妻を手に入れることが出来て、これ以上ないほど幸せだ」

アンリ様は僕を腕に抱くと、転移して、おそらく公爵家の一室に戻った。

「ユアリス、ここは代々の公爵妃が住む部屋だ。塔に閉じ込めておきたいくらいだが、今日からはここで私の妃として私に抱かれるのが、ユアリスの役目だ」

「はい……アンリ様の正式な妃になって、アンリ様のためだけに生きていきます」




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