アンリ様は僕を捨てたりしない。
目の前で兄の指示に従ったのも見たけれど、こうして婚姻式で王の前に連れ出された今でも、僕はアンリ様を疑ってなんかいなかった。

このデュアルの王は僕よりも魔力は明らかに弱い。むしろ無いに等しいほどだ。

「本当に美しい。流石大国の王子で、国で一番美しい男だと評判なだけはある…あんな女と引き換えにこれほどの花嫁とはな。今夜が楽しみだ」

アンリ様が僕を欲しがってくれる時は、その目が欲情で満ちている時、僕はとても誇らしい気持ちになってすぐにでも抱かれたかった。
けれどこの王の汚らしい欲情に満ちた顔を見るだけで吐き気がする。

僕よりも遥かに魔力が低い王の妻になるためには、僕が魔力を王よりも低くする必要がある。そうではないと、子どももできないし、何よりも本能的に恐怖が勝ってしまい、事を成就することができない。
しかし性交時にだけ魔力を低くすることなど不可能だ。持って生まれた魔力は自分でも操作して低くすることなどできない。
だがたった一つだけ方法はある。
体内の魔力の発生する魔核を破壊することで、魔力のない状態を作り出すことができる。ただし一度破壊されれば二度と元には戻らないし、通常は重罪を犯した人間への処罰に適応される。

僕は王に嫁ぐだめにこの処理を後でされることになっている。他国で婚姻政策で嫁ぐ時はどうか分からないが、王子の僕がこんな罪人のような扱いを受ける理由がない。
これまでアンリ様がきっと助けてくれると黙って従っていたが、もし駄目なら王子という地位などもうどうでも良い。見限ってこんな国は出て行こう。

「僕には誓い合った夫がいます。僕に触れて良いのは彼だけです」

「よい、聞いておる。処女ではないのはな……だがあの公爵が抱いて躾けた身体を弄べると思えば、大したことではない」


「私の妻になると分かっていて、ユアリスに手を出そうなど……やはり、デュアルなど存在する価値もないな」

「アンリ様!」

やはり、来てくれた!
アンリ様がデュアルの王城に現れた瞬間物凄い爆発音がしたが、僕には気にならなかった。

「アンリ! 貴様今何をした!?」

「王都を破壊しました」

アンリ様は僕を腕の中に抱き込んでくれて、兄にそう言った。

アンリ様の花嫁になるはずだった僕を、そう知っておきながら奪おうとしたんだから、デュアルの罪は大きい。だから当然の罪だろう。

王都が破壊しつくされ、見渡す限り何もない土の山だけになった大地をデュアルの人々は呆然と見ているだけだった。

「アンリ!なんという事を!」

「これだけでは恐怖が足らないな」

アンリ様が呟いた瞬間、デュアル王も臣下たちも、皆四肢を切り裂かれて死んだ。
生きているのは我が国の人間だけだ。

その仲間たちも、顔を真っ青にして言葉すら出ないようだ。
一言でもアンリ様に口答えしたが最後、同じ目にあうと危惧してだろうか。

「アンリ様、嬉しいです!絶対に僕を諦めてないと信じてました」

「当たり前だ、ユアリス……妻を渡すような情けない男だと思ったか?」

「いいえ!」

アンリ様は誰よりも魔力が高くて、誰よりも強くて、誰よりも僕を愛してくれている。
小国の王などに負けるはすがない。

「アンリ……私の命令に従うと言ったはずではないか」

兄上の声はとても力がないものだったが、それでも他の人間のように口をつぐんでいるだけではなかった。

「ええ、ですから陛下の命令には背いていません。ユアリスを一旦はデュアルにやりました」

「詭弁はいい加減にしろ!」

「へ、陛下!公爵に逆らってはお命が危険です!」

最早誰が王か分からない有様だった。やっぱりアンリ様が王になったほうが良いと思うけど、王になると今でも忙しいアンリ様の時間がなくなって愛して貰う時間が減ってしまうから、そう進言はしない。


「デュアルがなくなれば、陛下も王妃の代わりにユアリスを嫁がせることもなく、穏便に事が済んだので、ご安心でしょう」

「これでは大量虐殺ではないか! 何が穏便だ! 我が国は気に入らないことがあると、魔法で国を破壊して終わらせるとんでもない国だと思われるのだぞ?! 何ということを……」


「我が国の評判ですか? そんなものこんな小国の王の婚約者を奪って、引き換えに弟を生け贄にしようとした時点で地に這ってますよ。武力で圧倒して恐怖で支配すればよろしいです。そうすればデュアルのように思い上がったことを考える馬鹿な国はいなくなりますよ、兄上」

「お、お前たちは狂っている……」

兄上がいい兄ではなく、いい国王でもなかったから、自業自得なので、僕たちが狂っているとしたらそれは全部兄のせいだ。


*まだまだお仕置き変続くよ。



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