「ユアリス、お前は私の物になった。だがこれでは充分ではない」

「アンリ様、これ以上どうアンリ様の物になれば良いのか、分かりません」

一晩中、アンリ様に奪いつくされ、もう僕の身体でアンリ様が触れていない場所など何処にもなかったのに。

「これを飲むんだ」

「何ですか?」

差し出されたグラスには少量の液体が入っていた。香りはとても芳香だが、色は毒々しい紫の液体だった。

「花嫁の毒薬、または花嫁の秘薬と呼ばれている我が家秘伝の媚薬だ。聞いたことはあるだろう?」

勿論花嫁の塔とともに、話は聞いたことがある。無理矢理浚ってきた花嫁を男無しではいない身体にして洗脳をする、公爵家秘伝の薬だ。
だけど僕には必要ないはずだ。僕はアンリ様を愛していて、自らこの塔に閉じ込められる事を選んだほどに、アンリ様以外何も要らないのに。
反抗する花嫁の身体をしつけるために使用するはずの秘薬を何故、僕が飲まなければいけないのだろうか?

「どうしてですか? 僕には必要ありません」

「分かっている。ユアリスは最早秘薬など必要ないほど淫らな身体だ。だが、この薬を飲んで、精神的だけではなく、私がいないと呼吸するのも苦しくなるほど欲しがる身体になるんだ。そうしたら、陛下もこんな弟など恥ずかしくて誰にも見せず私と結婚しろと命令なさるだろう。さあ、飲んでくれるな?」

「……アンリ様がそう望むなら」

アンリ様がそんな僕をご希望するなら、僕は喜んで秘薬を飲む。

「でも、責任もってアンリ様が僕の身体をなだめてくれるんですよね? アンリ様がいないと駄目な身体にするんですから」

「ああ、勿論だ。仕事も責務も何もかも放り出して、ユアリスを優先しよう」

僕は城でどういう扱いになっているのだろうか。何も言わず一国の王子が消えてしまったのだ。アンリ様と結婚の約束をしていたことは誰にも話していない。当然、目と鼻の先にある公爵家に囚われているなど考えもしないだろう。
結婚を嫌がっていたので自ら出奔したと思われているかもしれない。当然探されているだろう。
だが出奔と思われても仕方がない。僕は言葉にこそしなかったものの、自分から望んでアンリ様に囚われた。
こうして隣国の王妃などに相応しくない身体に喜んでされた。


正直僕は王子だが、国のことなんてどうでも良い。アンリ様も仕事よりも僕が大事だといってくれるのは、僕がかけた魔法のせいかもしれない。僕が持つ魅惑魔法。何か特別なことをするわけではないけれど、僕が好意を持つ人間に魅惑を振りまいてしまうようだ。
勿論アンリ様は僕の魔法なんかに惑わされるほど弱い人間じゃない。
けれど、どうでも良い、僕を王座に座らせようとする貴族たちなどではなく、アンリ様に僕の魔法が効いてくれればとも思う。

日にちを忘れるほどアンリ様に抱かれ、毎日秘薬を飲んで、もう僕は王子なんか相応しい人間じゃない。でもそれこそが僕が望んだ事だ。
早く子どもができれば良いのに。アンリ様の赤ちゃんを産みたい。でも、お互い魔力が高すぎて中々子どもができない。これほど毎日交わっているというのに。
アンリ様に良く似た子どもを産みたい。
けれど、公爵家の嫡子にするためには未婚ということはできない。このままアンリ様に閉じ込められているのも良いけれど、アンリ様には公式に認められる妻と子どもが必要だ。
だから、身体だけではなく、書類上もちゃんとアンリ様の妻になりたいのだ。

アンリ様は任せておけと言われるが、何時認められるのだろうか。

ああ、塔に登ってくる足音が聞こえる。アンリ様だ。アンリ様のために、今日の分の秘薬を先に飲んでおこうか。

そう思い、グラスに秘薬を注いたところで、扉が開かれた。アンリ様だと思い微笑もうとした。

「………兄上?」

「何て有様だっ! ユアリス! 噂に聞く娼婦もこれほど酷くはないだろうにっ!」

兄上は僕を見るなり、罵った。それでも王子なのか? 公爵に汚される前に自害するべきだったとか、恥ずかし気もなくそんな姿をしてなど、アンリ様が残してくれた噛み跡や愛の印を非難された。
でも僕には褒め言葉にしか思えない。だってアンリ様が、僕達の将来のために、僕を変えてくれたんだ。兄に罵しられても何とも思わなかった。



*隊長が皆から愛されるのは、ママの遺伝です。部下から愛される所以です。何でエルたんには効かないんだろうね・・・



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