「兄上……本気で言ってらっしゃるんですか?」

「本気だ。お前は隣国ディアルの国王と結婚する事になった」

この国では貴族同士、政略結婚をする事もあるが、基本的には同じ階級での自由恋愛が許されている。
王族でも相応しい相手なら、自由に相手が選ぶことができる。貞操に煩い風習を持つこの国が、他国に王族を嫁に出すことなど、まずない。
魔法大国という、大陸一の軍事力を持つが所以の強みだ。

「僕が嫁がなければならない理由が分かりません」

「王妃と結婚する際、約束をしたのだ。お前を嫁がすと」

「……それは、兄上が王から婚約者である王妃を奪ったので、お詫びに僕を嫁がせると言うことですか?」

兄上は否定はしなかった。

「僕は兄上の尻拭いをさせられる、と言うことですか…」

「言葉が過ぎるぞ!」

「それくらいなんだと言うんですか?! 兄上の軽率で後先考えない行動のせいで、被害を受けるのは僕や国民たちなんですよ!……考えてみたことがおありですか? もし王妃に王女しか生まれなかったら? 魔力に恵まれない王子が生まれたら? 平和なこの国だって王位を狙う人間はいるんですよ!」

兄とはいえ国王だ。身分が違う。ここまで言っては不敬罪と問われかねない。
しかし、いくら王子で国のために犠牲になることが時には必要とはいえ、全ては兄の行いのせいだ。到底納得がいくはずはない。

「そうだ…場合によっては王位を巡って内乱になる可能性が将来ないとはいえん……だからこそお前を嫁がせるのだ」

隣国の国力などこの国と比べれば些細なものだ。今回のように兄が婚約者を奪い馬鹿にしたところで、どうにもならないほどの戦力の差がある。放っておいても、恨まれるだろうが、ただそれだけだ。
無理に詫びをしなくても痛くも痒くもない。
しかし兄が王妃のために、将来の王子のために、邪魔になる自分をディアルに出そうと考えてのことなら、いくら諭そうとしたところで無駄だと分かった。

「僕が、将来を誓った方がいると言ってもお考えは変わりませんか?」

自分だけ国のことなど考えず、勝手に結婚をし、同じように将来を誓った相手がある弟は、自分の犠牲にするのかという意味を込めて、最後に問うた。

「王妃になれるのだ。お前の好いた男がどうであれ、考えは変わらん」


アンリ様に会いたい。

会ったところで、兄の決定は変えられない。
それでもアンリが本当に自分のことを愛してくれているのなら、彼ならなんとかしてくれるかもしれない。

「何を考えているんだ陛下は! 正気とは思えない!……ユアリスを私以外に嫁がすだと?! そんなことが許せるとでも?!」

アンリ様は烈火のごとく怒ってくれた。

「アンリ様……兄は本気です。王妃といずれ生まれてくる王子のために……僕がこの国にいては危険だと考えているんです。アンリ様と結婚することは、もう不可能です」

「何を言う! いくら陛下とはいえ、私なくしてはこの国は成り立たないのを分かっていらっしゃるはずだ。その私がユアリスを欲しいと言っているのだぞ? 拒否するはずはない」

この国で最も魔力が高いのはアンリ様だ。確かにアンリ様がなくては、軍事力が半減すると言っても過言ではない。そして強大な力を持つ名家だ。
アンリ様が望む事はたいていが適うはず。

「いいえ……だからこそ兄上はお認めにならないはずです。邪魔な僕がアンリ様と結婚することで、より脅威になるのだから」

「それで、私が簡単にユアリスを諦めるとでも? そんなことをするくらいだったら、このまま浚って私だけの物にしたほうがましだ」

「アンリ様……もう少し早くお会いできていれば」

そうすれば誰からも祝福された結婚になったはずだ。

「でも、いくら理不尽な命令だからといって、王子である僕が国王の命令に反抗することはできません。アンリ様、今日でお別れです……お慕いしていました」

そんな殊勝なことを言いながらも、僕はそんなことは全く考えていなかった。王族として生まれ王族としてやるべきことがある。しかしアンリ様を諦める事とは次元が違いすぎる。

「陛下が認める気がないのなら、認めさせてみせる。ユアリス、優しいお前には陛下を裏切る事ができまい。だから私が全部しよう……ユアリス、今日から花嫁の塔にお前を閉じ込めて、私無しではいられない身体にしてやろう。他国に嫁ぐことなど、どうやってもできないように」

「アンリ様っ……いけません」

いけないと拒絶する言葉を吐きながら、僕はアンリ様のその言葉を待ちわびていた。




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