▽ 9
「ユイン、何をしているんだ!医者も休んでいろと言わなかったのか!?」
「ライル……」
一心不乱にある物をつめて元は皇后の部屋だった豪奢な部屋を、残骸のようにしてしまっているユインに、ライルは手を掴みそれを止めさせた。
「戻らないと……あの領地に行くんだ」
「何を言っているんだ?ユイン」
「ライル、誰にも言ってないだろ?まだ?ならまだ大丈夫……」
この後宮を今すぐ去って、何事もなかったことにしなければならない。
「俺なんかがいなくなったって、誰も気にしないだろ?だから、お願いここから出してっ!」
「何を言っているんだ?!やっと、子どもができたっていうのに、何故後宮から出さなければいけないんだ?すこし落ち着いてくれ、ユイン……子どもに障る」
ユインが暴れないようにそっと押さえつけ、ライルは子どものことを考えろという。考えているからこれが一番のことなのに。
「ライル、ライル……考えているよ。お前こそどうなんだよ?こんなことになって、俺たちが無事でいられるとでも?」
「考えてる!ずっと考えてきた!……だからこそ、権力が欲しかったんだ。皇帝になった!……全部ユインのためだ」
「何を言ってるんだ?……」
ユインのため?
「お前が俺のためにしたことなんて……俺を苦しめる以外に何をやってくれたんだ?」
ユインはライルのために何でもしてやろうと思った。事実そうしてきた。
傀儡の皇帝として孤独だったユインに、唯一救いがあったとしたらそれはこのライルだった。彼に皇位を譲りたい。
自分には永遠に許されない子どもだと思って、ずっとずっと大事にしてきた。
それはこの後宮に入れられても同じだった。
大事だから、こんなに屈辱的なことでも耐えてきた。
「俺のためだっていうんだったら!……ここから出て行かせてくれっ!」
「できない!」
「どうしてだよ!……」
「愛しているからだっ!」
「何を、言って……」
執着されていたのは知っていた。ライルには甘えられる相手が自分しかいないのだと。
「ずっと愛してきた……ユイン。子どもの頃から、皇帝になったらユインを妻にしようってずっと思っていたんだ。そのお腹にいる子も、俺がずっと待ち望んできた子だ。他の女との子どもなんか欲しくなかった。ユインに産んで欲しかったんだ」
「ライル……俺なんかじゃっ!」
次の皇太子の母親として認められるはずはないのに。
「分かっている……俺のせいで、ユインは一生結婚も……子どもを作る事も許されなかったって。これから先も……でも、俺が相手なら許される」
「許されないよ!何を言っているんだよ?俺みたいな生まれで」
「お願いだ……俺の妻になって下さい」
ユインの否定の言葉を遮って、ライルはそう言った。
「俺の妻になって、俺の子を産んで、一生そばにいて下さい。絶対に俺が守り通して見せるから。どこにもいかないで、ここにいてくれませんか?」
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