▽ 17
拒否できなかった。拒否したらその後に待っているのが分かっているからだ。
「ザリアス下がっていてくれ…今夜は俺が陛下の護衛をする。お前は皇太子殿下を頼んだ」
ザリアスの返事も待たず、無礼にもユインの許可も得ずに、ユインの寝室に入りこんだ。昔はライルにだけ許された特権だった。
「ライル……どうした?」
もう眠っていたのだろうユインはけだるげにベッドから身を起こした。
「貴方を抱いて来いと……」
一瞬ユインは目を見開いて驚いたようだったが、すぐに誰がそんな命令を出したのか理解したようだった。
「お前の父親たちにも困ったものだ……一人では不満らしい」
「一人?皇后陛下のことですか?」
「いや……違う」
ユインは思案するような顔をしたが、次の瞬間には仕方ないとでもいうように苦笑した。
「どうする?……俺はどちらでも構わない。お前は嫌だろうが俺の今の状況じゃあ拒否できない」
「陛下は皇帝でしょう?嫌なら嫌とおっしゃればそれで済むはず…どうして臣下の言いなりにならなければならないのですか?」
どうでも良さそうな態度にライルもいい加減我慢の限界だった。あんな酷い捨て方をしたくせに、父親の一言があれば平気で抱かれようとする。
「俺は嫌です……命令とあっても無理です」
「無理強いはしない…お前の権利だ、ライル」
ユインは諦めたように苦笑すると、どうでも良いというようにベッドに横になった。本当にどうでも良かったのかもしれない。
「そうしたら他の」
「他の男なり……女が来るだろうな。仕方ないだろう?」
皇帝なんだし、と諦めたようだった。
「どうして貴方はそうなんですか!……どうして俺を拒絶したように、拒否をしてくれないんだ!」
自分をあんなふうに酷く捨てたくせに、父から指示されればどんな女を抱こうともするし、抱かれようとするのか。だったら自分という存在は何だったのだろうか。
「ライル……」
「俺は貴方を憎みます!……軽蔑します!……貴方を愛した過去の自分を消し去りたいくらいだ!」
「それで良い……俺はお前に軽蔑されたい」
自嘲するようにしか笑わないユインを、ライルはもうそれ以上見ていることはできなかった。
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