小説(両性) | ナノ

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しかしその後もやはり子供ができないのを見ると、再び男を選べと騒ぎ出した。なんとしてもユインに子供を作れと、圧力をかけてくるのだ。勿論、それを拒否する権利はある。だがそれでは根本的な解決になっていないことくらいはユインも理解していた。
ユインだって努力はしているのだ。以前は出来るだけ避けていた皇后のもとにも通っている。それでも跡継ぎができないのだから、やはり元老院の言い分を認めざるえないのかもしれない。
自分は子供を産ませる能力がないという、元老院の言い分は確かなのかもしれない。

「はあ……」

だからと言ってこんな軍人たちに組み伏される自分を想像するだけで、気分は悪くなるし気が滅入ってくる。無理やり渡された候補者リストの絵姿を丸めて放り投げると、カウチの上に横たわった。この国は軍事国家なので、跡継ぎには軍人の父親をと思っているのだろう。

ユインはこの帝国の血というよりも、侵略し、滅ぼした国の血が外見にはっきり出ていることから、できれば次の皇太子は、この皇族特有の黒髪・黒目をもった皇子が欲しいのだろう。

ここはユインお気に入りの温室で、一人になりたい時にやってくる場所だった。心を和ませてくれる美しい花々に囲まれているはずなのに気が晴れなかった。

結局皇帝としての能力よりも子供が出来る出来ないだけで評価されてしまうのだろうか。両性の皇帝はユインが初めてなので、こんな事態は初めてなのだろう。両性だった王妃は皆跡継ぎを残したが、それは女としてであって、男として子どもを作った史実はない。だから皆ユインに男として子どもを作る能力がないと危ぶんでいるのだ。そして過去の実績から、ユインが子どもを産めるだろうことを推測してのこの暴挙だ。

冷静に考えてみればこのまま後裔ができないのなら、自分が子供を産むしか方法がないのも分かっている。確かに、自分には女性に子どもを産ませる能力がない、または薄いのかもしれない。皇族はユインしかいないし、兄弟もいない。遠縁から養子を選ぶのも、国が乱れる遠因になりえる。

選ぶ権利があるだけ過去の自分と同じ顔をした王妃よりはまだましな部類だろうと自分を慰めた。自分と同じ顔をした彼らは、有無を言わさず妃にされ子どもを産まされたのだ。

自分が何とかして跡継ぎを作らないといけないのだろうと、ため息をついた。

「陛下……」

「ああライルか……どうした?」

控え目に声をかけて来たのは、親戚の少年だった。ユインがこの温室に入ることを許可している数少ない一人だった。

「陛下がお疲れのようですから……お一人になりたいかと思いまして」

「そんな心配しなくて良いから入ってこい」

笑顔で来いと手招いてやれば、幼い顔を破顔させてやって来た。ユインはこの少年ライルを可愛がっていた。ライルは公爵家の跡継ぎで、母親は皇族の出だ。兄弟のいないユインはこの賢い少年を実の弟に思っていた。ライルもユインに良く懐いて、ある程度大きくなった頃から実家の公爵家の城にいるよりも皇宮にいることのほうが多くなった。
公爵家もいずれはこの国の軍を預かることになるライルを、皇帝の近くへ、という思いもあってか、それを黙認している。

「どうした?そんな顔をして…お前」

「陛下のご気分が優れないのは、また祖父が無理を言ったからではないですか?」

ライルの生家である公爵家は代々将軍を勤めて来た生粋の軍人家系だ。ライルの父は将軍だし、ライルもいずれはその跡を継ぐことになる。そのライルの祖父は将軍職を辞した後は元老院の一員となっている。今は副議長だ。ユインに子を産むように働きかけているメンバーの一人でもあるので、ライルの懸念もあながち間違ったものでもない。

「ライル…お前が気にすることじゃない」

「俺は早く大きくなりたいです。大きくなって陛下のお役に立ちたい」

そんなライルの言葉にユインは笑みを深めた。

「急がなくても構わないよ…お前ならきっと立派な軍人になれる。ゆっくり大人になれば良い」

そう言って頭を撫でてやればライルは幾分不機嫌そうな表情を見せた。

「なんだ?そんなに大人ぶりたいのか?」

「違います!!ただ」

「ただ、何だ?」

「……陛下は最近皇后陛下の元にお通いになっているとお聞きしました」

「ああ……そのことか…仕方がないだろう。皇帝としての義務だ」

ライルには皇后の愚痴を良くしていたので今更どうしてという疑問があったのだろう。

「愛してらっしゃらないとおっしゃっていたのに!それでも抱くのですか!?」

「それが皇帝……いや、貴族の義務だ。お前だってそうなる」

ライルは未だ婚約者はいないはずだったが、ユインと同じように好きでもない女と結婚することになるだろう。好きな相手と安易に添い遂げられるほど、ライルの家の格式は低くない。むしろ帝国内でも5本の指に入るほどの名家なのだ。

今だの婚約者がいないほうが遅すぎるほどだ。ライルほどの名家なら、生まれたときから婚約者がいてもおかしくはない。ユインもそうであったように。

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