小説(両性) | ナノ

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ここ最近はこの帝国は平和だった。かつて一地方の小さな王国でしかなかったこの国は徹底的な軍事主義を取り、大陸一の領土を誇るようになった。そして王国から帝国に名を変え、王ではなく皇帝と呼ばれるようになって何世代目かの今。
歴代の優秀の皇帝の政策のおかげで、広大な領土を誇り、なんの憂いもない。だからこんなことをこいつらは言い出すのだとユインは苦々しく思った。

「陛下、この課題は重要ですぞ」

「そうです。議長のおっしゃるように、この帝国で今一番重要なのは、皇太子がいらっしゃらないことです」

「聞いていらっしゃるのですか陛下!」

右から左に聞き流していることがばれたユインはウンザリしながら口を開いた。

「まだ俺も皇后も跡継ぎをせっつかれる歳ではないと思うが……」

まだユインも同じ歳の皇后も20代前半だ。跡継ぎ問題で煩く言われる筋合いはなかった。これが戦乱の世の中だったらそんなことにかまっている余裕はなかっただろうにと思った。

戦いはなく、国も安定しているので、目下の問題は皇太子のことになる。

「そうでしょうか?陛下は皇后陛下の元へほとんど通ってらっしゃらないでしょう?それではできるものも出来ないのでは?」

「うっ…」

流石に痛い所を突かれたユインは反論出来なかった。皇后との不仲は誰もが知るところだった。気位の高い皇后を扱いかねて、ユインが逃げ回っていることは、元老員のメンバーにも知れ渡っていたことだ。

「我々が皇太子に拘っているのは、それだけではありませんぞ……幾ら不仲とはいえ、お二人がご成婚なさって十年近くになります。失礼ですが陛下にはお子を身篭もらせる能力がないのではないのかと我々元老院一同は愚考させて」

「俺が不具だと貴様らは言いたいわけか?」

「失礼ながら」

静まり返った会議場は嫌な雰囲気に包まれていた。

元々激昂することの少ないユインにだから言えたのだろう。これが過去の苛烈な征服王と呼ばれた初代の王相手だったら一言さえも言う勇気はなかったに違いない。
ユインに力がないとは言わない。皇帝としてよく国を治めているはずだ。だからこそ、後継者問題がこれほど重要な議題としてあがるのだ。戦争もないから他に考えることもないからだろう。

「恐れながら陛下は歴代の両性であられた王妃陛下に酷似なさっています。これは皇家の血というよりも両性だった王妃の血を濃く引いたのでしょう」

「そうかもしれないな」

歴代の皇帝に愛された妃たち、そして自分に良く似た肖像画は今も残っている。その生涯は伝え聞く限り幸せなものではなかった。権力にものを言わせ、無理やり連れ去られたのだ。王子としていずれは一国支配者として育てられた身には耐えられないほどの屈辱だっただろう。
そう思えばなんの障害もなく皇帝になれたユインはかなり恵まれていると言えるだろう。同じく両性で片や皇帝、方や人質同然に連れてこられた元王子の王妃。
その血を濃く受け継いだユインが今やこの帝国を支配しているのだから、皮肉だろう。

「ユイン王妃に酷似している陛下なら皇太子が産めるのではないかと思います」

「ここに家柄も血筋も容姿も選び抜かれた健康な男たちを選びました。好きな男をお選びになってベッドまでお連れ下さい」

元老院議長の入れという合図とともに、10人以上の男たちが入ってきた。なるほど、選び抜かれたと言うだけあって容姿も端麗だ。

貴族の令嬢なら喜ぶだろう。だがユインが喜べるはずもない。元老院の理不尽な要求に怒りよりも先に脱力感を感じるほうが先だった。

「いい加減にしてくれないか……俺は皇帝だぞ。そんな男どもと寝ることを強要されるいわれはない」

「ですがっ!」

「煩い!俺が何時までも温和だと思ってるなよ」


ユインがかなり怒っていたことを察知したらしく、その場は一旦納まった。一応怒らせると怖いと、躊躇したのだろう。ユインも何時もは温和だが、やるべき時には冷淡にもなれる。
命令1つで元老院の貴族の首くらいは、簡単に落とせるのだ。

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