この手紙を読んでずっと後に分かったこと。ダリヤが私に抱かれたがった理由。それはダリヤが私を愛していたからでもなく、愛していた名残でもなかった。 

 愛されて抱かれたかったという言葉は決して嘘ではなかったのかもしれない。それも真実だったのだろう。

 けれど、ダリヤの最大の目的は私にダリヤという人間を刻みつけるためだったのだ。刻み付けて、決して忘れなくさせておいて、去って行ってしまった。

 そしてそれは正解だった。私はあの夜のダリヤを覚えている限り、決して彼を裏切ることはできなかった。それはダリヤなりの最後の復讐だったのかもしれない。




「ロシアス!ダリヤについての情報は入ってないか!?」

 焦って電話のダイヤルを回し、コードを言う時間も惜しいほどに急がせた。

『ダリヤならほんのちょっと前に軍法会議所に出頭してきた。俺がユーディング中将を殺そうとしましたって』

「保護しておけ!私が今から行くから」

『保護だって!?無理だ!俺のところに直接来るのならともかく、大勢の軍人の前でユーディング中将を暗殺しようとしたのは俺です、と言って自首してきたんだぞ。とても隠し通せるものじゃない』

「じゃあ、それ以上なにも言わせるな!私がそこに行くまで、お前がずっと付いていてくれ。それと、デュースの身柄……逮捕状を出しておいてくれ。そして私が直接そっちに行くそれまでダリヤを守っていてくれ」

『それは勿論可能だが。ダリヤはデュースに指示されてお前の暗殺をしようとしたと言っているんだ。ご丁寧にも証拠の書類を山ほど抱えて』



『中将を大総統にしてやる』そう言ったのはこのことか。

 

「何があっても、ダリヤから目を離すんじゃないぞ!きっとデュースのやつは進退窮まったことを知れば、最大の証拠ダリヤを消そうとするはずだ」

『お前は何処に行くんだ?』

「私は……医療研究所に行く。逮捕状はレンフォード大尉たちに持たせて、至急医療研究所に寄越してくれ。私は先に行くから」 

 本当は今すぐ軍法会議所に行ってダリヤに会いに行きたい。

 しかしダリヤに頼まれたことがあった。ユーシスという少年を救いに行かなければならない。それが誰であれ、ダリヤが望んだことだからだ。もう二度と裏切らないと約束をした。ダリヤが望むことを必ずすると、そう約束してしまったからジェスはダリヤよりもその少年の元へと向かった。



 疑問がなかったといえば嘘になる。どうしてダリヤはそんな子どものために、全てを投げ打ったのだ。

 何かとても大切なものがあったはずなのに。それだけのために生きてきたとさえ言っていたのに。その弟と同名の子どもがダリヤの何よりも大切なものなのだろうか。

 ジェスと昨日話した未来よりも大事なことだと言うのか。



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