手を伸ばすのは

 立花日向という男は、掴み所のない男だ。いつも飄々としていて弱味は見せず、いつの間にか完全に奴のペース。気付いた時には奴の思い通りに事が運んでいる。立花は私が奴の思い通りにならないと言うけれど、全然そんなことはない。だって、今も。

「ヨリ、よく見えないから脚開いて」
「ん、や……」
「可愛い」

 ふわりと微笑まれるとキュンと胸の奥が疼く。こんな姿、恥ずかしくて泣きそうなのに。
 立花には、特に変わった性癖はないと思う。おっぱいが特別好きだとか、コスプレさせて喜ぶだとか、私の恥ずかしがっている姿を見て興奮するだとか、特にそんなことはなく。優しすぎるほどの愛撫と、身がほどけるような快感。立花に抱かれる度に、愛されているのだと幸せになるような、そんなセックス。でも今日は、少し違った。
 最近言い寄ってくるお客さんがいた。もちろん彼氏がいると言ったし、牧瀬もフォローしてくれていたのだけれど。今日たまたま立花がいる時にお尻を触られたのだ。その時の立花が笑顔で「警察呼ばれるか二度と変な気起こさないようにされるかどっちがいい」なんて脅すから、嫌な予感はしたんだ。最終的にその人は「もう二度と近寄りません」と泣きべそをかいていて、セクハラされた私が可哀想に思うくらいだったのだけれど。
 家に帰ってきて、お風呂から上がって服を着ようとしたらそれを取り上げられて。「一人でしてるとこ見せて?」なんてキラッキラの笑顔で言われたのだ。

「も、いい、でしょ?」
「ダメ」
「何でこんな……っ」
「ヨリの全部見られるのは俺だけだって確認したいんだよ」

 ああ、何だ。不安だったのか。
 ソファーに座らされて、脚の間に立花が座って。間近で見られることが恥ずかしすぎて泣きそうだった。その間も立花が気難しい顔をしていたから。おかしいとは思ったんだ。

「……ねぇ」
「なに」
「私、立花のセックス好きだよ。気持ちいいし、愛されてるって実感できるし」
「……」
「こんな独りよがりなことしなくても。私は立花以外に抱かれたりしないよ」

 立花が立ち上がって、バスタオルで髪や体を拭いてくれた。ごめん、と謝って。

「分かってるよ。ヨリのこと信じてないとかじゃなくて。他の男がヨリに触るのがすごく嫌だっただけ」
「うん」
「ごめん。嫌だった?もうしないから怒らないで」
「うん、怒ったりしないから大丈夫だよ。ただ太ももに当たってるのは気になるけど」
「それは仕方ないよね。好きな子のエッチな姿見たら誰でもこうなるよね。ならなきゃ逆に男じゃないっていうか。いや、この場合漢か」
「別にどっちでもいいけどさ。押し付けんのはヤメテ!!」
「このままソファーで抱かれるかベッドで抱かれるかどっちがいい」
「それあの男に言ったのとあえて同じように言ってるなら本気でこの流れ謝ってほしい」
「もう二度と言いません」
「本気であの男が不憫になってきたよ」

 その間もスルスルと手はタオルの中に入ってくる。スイッチの入ったこの男を拒絶できたことなんてたったの一度もない。いつの間にかその気にさせられて、結局私から求めてしまうのだ。

「ヨリ、好きだよ」

 私があんたの思い通りにならない?……嘘ばっかり。結局、こうやって私から手を伸ばしてしまうのに。

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